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第十話
しおりを挟む「はぁ──・・」
あれから一週間。
僕は寝室のベッドの上で、昼近くになってようやく目を覚ました。
あんなに毎日来ていた礼司さんが、お店にも僕のアパートにも来なくなった。
やっぱり、嫌われてしまったんだろうか?
会いたい・・礼司さんに会いたいよっ──・・
だって、礼司さんの顔を思い浮かべると優しい表情の礼司さんしか浮かんで来ないんだ。
日に日に礼司さんへの想いが募っていくと同時に、僕の胸は痛みも増していく。
そろそろ、発情期も来るだろうから念のため今日からお店閉めなきゃ・・・
この一週間、なんとかお店に立ってきたけど、もう今日はそんな気力もない。一歩も外に出たくない。
これから、どうなるんだろ。
僕達は番同士になったのに、このまま一人きりになってしまったら、僕はどうなるの?
不安でしょうがないよ──・・
僕達、運命の番だったんじゃないの?礼司さんが、そう言ったんじゃないか。
僕は、礼司さんと出逢った瞬間のあの時の感覚、忘れてないよ。今でも、思い出せば体が焦がれる。
礼司さん、あなたを求めて──・・
「────っ・・?!」
体がドクドクする・・発情期だ。
「く、くすりっ──・・」
僕は、寝転がっていたベッドから転げ落ちるように下りて、隣のリビングの引き出しにしまってある薬を取りに行こうと、壁に寄り掛かりながらなんとか向かうが、リビングに入って、あと少しというところで来客を知らせるインターホンの音が鳴り響いた。
れ、礼司さんっ───!?
僕は、こんな状況なのに期待で胸をいっぱいにして、薬より先に玄関へ向かった。
けれど、ドアを開けた先に立っていたのは礼司さんではなかった。
よく考えれば良かったんだ。
こんな平日の真っ昼間に、社長である礼司さんが来る筈がない。礼司さんは合鍵も持っているし、慌てて開けることもなかったんだ。
僕は、期待が外れたことと僕のフェロモンに当てられた峰咲さんの表情に、恐怖と後悔で震える体はとうとう耐えられなくなり、その場に崩れるように座り込んでしまった。
「くっ──・・お前っ、発情期かっ!?」
峰咲さんは、顔をしかめて手で鼻と口元を覆った。
僕の醸し出す匂いに耐えるような仕草を見せるも、みるみる呼吸も荒くなり瞳の正気の色が失せていく。
「ハァッ、ハァッ──・・くそぉっ!」
峰咲さんの冷静そうな少し品のある物腰は面影を無くし、代わりに本来の峰咲さんとは正反対であろう、獣染みた欲情の色が露になった。
峰咲さんは悪態吐くと、力なく座り込み発情している僕を床へ叩き付けるように押し倒す。
「い"っ──・・み、峰咲さんっ・・や、やめっ──・・」
抵抗したくとも、薬を飲んでいない状態での発情には抗えず、体に力が入らない。
僕のTシャツを乱暴に捲し上げると、峰咲さんは僕の右胸に噛り付く。
「あ"ぁっっ───!」
ただでも敏感になっている肌に歯を立てられて、痺れるような痛みに思わず声を上げる。
ど、どうしようっ──・・
気持ち悪いっ・・こんな場所、誰も助けてくれない。この間とは訳が違うんだ。
おぞましい程の吐き気と、独特なフェロモンを発する峰咲さんに、僕は絶望すら感じた。
きっと、峰咲さんは僕を嫌っているから余計に毒々しいのかもしれない。
僕は、耐えきれず口元を手で覆うと峰咲さんから顔を背ける。
耐えきることが出来なかった空腹の僕は、胃液を吐き出してしまい、酷く心細くなって泣きじゃくった。
苦しいよ・・礼司さんっ──・・
けれど、そんな僕の様子に、峰咲さんは酷く怖い顔をしていて、呼吸を荒くしながら震える声で呟いた。
「おまえっ──・・まさかっ───」
峰咲さんは、荒々しく僕の首元に手を伸ばすと、僕の首輪を外した。
「─────っ、これ・・この噛み痕・・礼司のモノか?」
峰咲さんの声は震えていて、今にも泣きそうに眉を寄せている。
「────そ、そうです・・礼司さんは、僕の大事な人──」
「うるさいっ!その口で礼司の名を呼ぶなっ!!」
気付くと僕は頬をひっぱたかれていて、峰咲さんの怒鳴り声に驚き、その顔を伺った。
────っ!?
峰咲さんは、ボロボロ泣いていた。
やっぱり、僕の勘は当たっていたんだね。峰咲さんは、礼司さんを好き。
でも、同情はするけど、礼司さんは僕の運命の番なんだ。峰咲さんの出る幕はないよ。
自分でも性格悪いなって思うけど、これが僕の本音。
いくら礼司さんの幼馴染でも、譲れない。
礼司さんは、僕を嫌いになっちゃったかもしれないけどさ・・
僕は、峰咲さんの泣き顔を見ていられなくて目を反らした。
「────こんな奴、触るのも嫌なのにっ・・何故お前はΩなんだっ!こんな醜く、はしたない匂い垂れ流してっ!!だから、Ωは嫌いなんだっ!!」
あっ・・うそっ──・・止めてっ、僕に触らないで!
峰咲さんは、僕をひっくり返しうつ伏せにするとズボンを下着ごと下ろし、峰咲さんの硬くなったモノを僕の入り口に当てがった。
「あっ──・・おねがっ・・やめてっ!」
僕の背後から、熱い吐息を感じて生暖かい滴が僕のお尻に垂れてくる。
峰咲さんも、苦しむように涙を溢しているのが分かった。
けど、それとこれとは別。
僕は激しい目眩と吐き気に襲われて、もう声を発することすらも難しい。
嫌だ──・・このまま、礼司さん以外の人に・・況してや、この人になんてヤられたくないっ!!
不思議だ。
今まで、散々色んな人と好んでしてきた癖に・・こんなになる程までに嫌になるだなんて。
僕は、礼司さんの顔を思い浮かべていた。
『茜くん──・・茜くん、可愛いよ。』
僕を可愛いって言って、柔らかく微笑む礼司さんの顔が鮮明に浮かぶ。
僕の頭は、自分に都合良く出来ているのかな?だって、礼司さんには嫌われたかもしれないのに。
もう、一週間も会いに来てくれてない。
それでも今頭に浮かぶのは、僕に酷いことをした礼司さんじゃなくて、優しい礼司さんの顔なんだ。
「うっく・・ほんとに、やめてっ・・う"ぅっ」
まさしく絶体絶命。僕の体がどんなに拒絶しようが、峰咲さんの欲情する表情は濃くなるばかり。
止めてくれる気配なんて感じられない。
ついに、僕の中に無理矢理押し入れようと、グッと力が加えられたのが分かった。
「い、いやだっ!やだっ・・う"ぅっ・・」
「黙れっ!!お、俺だって虫酸が走る程に嫌なんだっ!お前が俺を誘うんじゃないかっ!」
峰咲さんは暴言を吐いて、泣きじゃくる僕の後頭部を押さえ付けた。
ごめんなさいっ、礼司さんっ───・・
僕は、沢山の後悔の中で諦めた。
けれど、次の瞬間、峰咲さんは誰かの手によって殴り飛ばされた。
ああ──・・僕の好きな人の匂い。
顔を見なくても分かるよ。
僕の狭い部屋の中には、礼司さんの激しい怒鳴り声が響き渡ったていた。
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