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第八話

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 昨日は、とても有意義な日だった。

 社長室の椅子に腕組みをして座る俺は、昨日の茜くんとのデートを振り返っていた。

 「はあぁ~~~・・」

 溜め息が出る程可愛いかった・・・

 あんなに笑ってくれて、あんなに頬を赤く染めていた茜くんは、昨日が初めてだ。余程、水族館が楽しかったんだろう。

 それに、あんなに甘い物が好きだっただなんて、仕事柄嬉しいものだ。連れていった甲斐があったよ。

 これで俺の分身ぶんちんも元気な姿を見せてくれれば完璧だというのに・・・
 こんっっっなに、ムラムラしまくりなのに何故勃たないんだ。
 お前・・は、茜くんの中で包まれたくないのか?

 優しく股間を撫で回すも、やはり無反応。

 「はぁ~~~・・」

 今度は違う溜め息が出るってもんだ。

 それにしても、一昨日の涙の理由はなんだったのだろう?
 昨日、帰ってから茜くんに聞いてみたのだが、もう大丈夫だとあまりに可愛い笑顔で言うもんだから、しつこく聞かなかったが・・・

 ・・・

 「あぁあ~~~っ、やっぱり昨日の茜くんは格別に可愛いかったあ~~~」

 「───何を一人でデレデレしてるんですか?恥ずかしいっ!」

 「うわあっ!!みっ、峰咲・・なんだいきなり。ノックぐらいしろっ!」

 「しましたけど?まあ、返事はありませんでしたが。」

 むむっ──・・気のせいか、蒼麻の当たりがキツい・・
 そういえば蒼麻は、昔っから色恋沙汰は好まなかったな。

 「それにしたって、そんな苦い顔で見なくたっていいじゃないか。」

 「───そりゃあ呆れもしますよ。いい歳して、一人でニヤニヤと・・こっちが恥ずかしいです。」

 ・・・

 本当に機嫌が悪いな、蒼麻のヤツ。そんなに気持ち悪かったか?

 「───まあいい。とりあえず、ようやくあのパティシエを落とした。ちょっと手こずったが、今日から本格的に話を進めるぞ。後は、お前に任せる。」

 「わかりました。アポは今日の午後二時半からですよね?」

 「ああ、頼んだぞ。」

 蒼麻は、返事をすると社長室を出ていった。

 ・・・

 「怖かったあ~・・」

 蒼麻のヤツ、怒ると怖いんだよなあ~・・
 それにしても、本当に機嫌が悪かったな。

 ・・・

 もしかて・・・アイツ、茜くんに一目惚れをしたのか?

 「いや、いかん!それはいかんっ!いくら蒼麻でも、それだけは許さんぞっ!!」

 そういえば、蒼麻に恋人らしい人が居たことってあったか?
 俺が知る限り居なかったな・・・

 アイツ、下半身のお世話はどうしてるんだ?堅物にも過ぎるだろ。

 あまりに色気が無さすぎるから、見兼ねて風俗に連れて行こうとした事もあったが、本気で殴られたっけ・・・

 そんな蒼麻をも惹き付けるだなんて、恐るべし茜くんだな。

 ・・・

 いや、本当にアイツ性欲とかないのか?アイツこそEDなんじゃ・・・


*****


 ─────パタンッ・・

 「はあっ──・・」

 礼司の奴、何をいつまでも一人でブツクサ言ってるんだ?

 社長室から出てきた俺は小さく溜め息を吐いて、そっと社長室のドアに凭れ掛かる。
 あんなにだらしない顔をしている礼司は、初めて見た。

 「人の気も知らないで・・」

 礼司はモテるから、今までだって体の関係を持った相手が何人も居たのを知っている。
 アイツ、モテてる自覚はある癖に、小さい時からずっと一緒だった俺の気持ちには少しも気付きもしない。

 礼司は、いつだってそうだった。

 それでも耐えて来られたのは、今まで礼司が本気で相手にする奴なんて居なかったからだ。

 それなのに、ポッと出のあんなΩなんかにっ──・・

 俺が何年、片想いして来たと思ってるんだっ!

 「───ああっ・・嫌だ。こんな醜い感情・・」

 こうなったら、本当に礼司に相応しい相手なのか、俺が見極めてやるっ───!


*****


 「礼司さん、いらっしゃいっ。今日もお疲れ様。」

 「茜くんっ・・今日も可愛いよ。」

 礼司さんは、僕のことをよく可愛いと言う。それもサラリと。

 今までなら僕もサラリと流してたとこだけど、今は違う。
 礼司さんのことを想うだけで、胸がキュンとなって、礼司さんが視界に入るだけで嬉しくなる。

 そして、礼司さんはいつもの定位置、カウンター席の一番左端に座って、少しのお酒とおつまみを食べるんだ。

 「志麻ちゃん、今夜空いてる?」

 ああ~・・礼司さんの前で・・

 「おい、あんた。俺の茜くんに話し掛けるな。」

 週に何日も来てくれるようなお客さんは礼司さんの事を知ってるけど、こうやってたまにしか来ないお客さんは、礼司さんの事を知らないで誘って来たりもする。

 「は?あんた誰?別にいいだろ?志麻ちゃんはエッチ大好きだもんな?今日は俺と───」

 「おい、貴様。聞こえなかったか?茜くんは俺のだと言ったんだ。」

 はうぅっっ──・・

 こんな時でも、礼司さんの言葉にときめいてしまうなんて・・
 でも、そろそろ真面目に止めないとヤバいかも。

 このお客さん、普段は優しそうな物腰だけど実はSっ気強いっていうか・・悪く言うと性格がちょっと・・・

 「へぇ~・・じゃあ、志麻ちゃんの背中が凄く敏感で、後ろから突っ込まれるのが大好きだって事も知ってるんだ?」

 「ああ~~~はいはいっ!清水さん、そういう発言はデリカシーないよっ!それと、今日は・・いや、僕もう清水さんとはできないから。」

 僕は、二人の間に割って入ると清水さんに耳打ちした。

 “僕は別にいいけど、この人傷付けたら許さないよ?だから、今日はもう帰って”

 このまま店内に居られたら、礼司さんに何するか分からない。
 清水さんは悔しそうに舌打ちをしたけれど、乱暴に数枚の千円札をカウンターに叩き付けて、店内を出ていった。

 礼司さんを好きって、はっきり自覚してから約二週間経つけど、僕なりに色々考えてきた。

 やっぱり礼司さんからすれば、こういうお客さんが居ることはかなり嫌な筈だ。礼司さんの言動を見ていれば分かることなんだけど、僕は礼司さんが初恋の人で、それがどういう気持ちでどんな風に感情が動くのかを知った。

 自分勝手で恥ずかしいけど、自分が礼司さんを好きになったことで初めて分かったんだ。

 だって、僕も不安になることがある。

 この間の・・礼司さんの幼馴染だっていう峰咲蒼麻さん。
 礼司さんと同じマンションに住んでるって聞いて、更に不安になった。しかも隣同士だし。

 多分、僕があの時感じたことは間違ってないと思う。
 峰咲さんのあの目・・・

 幼馴染っていうことは、僕より礼司さんを知っているってことで、その事実が余計に嫉妬させるんだ。

 今も、峰咲さんが礼司さんに熱く焦がれた想いでいると思うと黒くて真っ赤な酷く醜い感情が沸き上がってくるようで、自分が怖いくらい・・

 こんな思いを礼司さんもしてるんだって思ったら、今のままじゃいけないって思った。

 やっぱり、礼司さんのEDの原因は僕だ・・・

 その答えに至った時、ショックだったけどそんなこと言ってられない。
 僕は僕なりに、誠意を見せなきゃいけないんだ。

 清水さんと言い合ってからというもの、礼司さんの口数は減ってしまって、僕が話し掛けても空返事が返ってくるだけで、目も合わせてくれなかった。

 今までも、お客さんと言い合いになったことはあったけど、清水さんみたいなデリカシーのない発言をされたのは初めてで、もしかしたら僕に呆れちゃったのかも・・

 僕は、誰にでも抱かれてヨガる淫乱野郎だったって・・

 胸が痛いよ・・痛くて痛くて、苦しい。

 いつの間にか、礼司さんをこんなに好きになってた。今更、嫌われてしまったら僕はどうなってしまうの?

 凄く、怖い・・・

 「じゃあ、志麻くんまた来るよ。」

 「───あっ、いつもありがとう。またのご来店お待ちしてます。」

 礼司さんを除いて、最後のお客さんが帰って今日の営業は終わった。
 僕は、外にある看板を片付けてドアの鍵を内側から閉める。

 重く静かな店内に、カチャリと冷たく無機質な音が響く。

 僕は、振り返ってカウンターに座る礼司さんの後ろ姿を見た時、何故だか涙が出そうになって耐えるように、その場に立ち留まった。

 どうすれば、許して貰えるの?こんなの初めてで、分からないよっ・・

 礼司さんの甘く優しい笑顔が見たい。

 嫌われてしまったかもしれないって思うと、体が震えてきて思わずギュッと強く拳を握った時、礼司さんは静かに席を立ち、ドアの前に立つ僕を振り返って見たかと思うと、無言のまま僕に向かって歩き出した。

 礼司さんが、何を考えているのか分からなくて怖い・・・
    僕は、下を向いて動けずにいた。

 僕の目の前で礼司さんが止まった気配がしたかと思うと、抱き締められた僕は礼司さんの温もりで僕の中の汚い感情が溶けていくようだった。

 「───礼司さんっ・・」

 僕は、キュッと礼司さんを抱き締め返す。

 けれど、次の瞬間、礼司さんは僕を離してドアに押し付けた。
 ガタッとドアが鳴る。

 驚いて顔をしかめて礼司さんの顔を見ると、いつもの優しい表情は無くて、冷たく僕を見下ろしていた。

 「れ、礼司さんっ───?」

 こんな礼司さん、初めて見た。怖い──・・

 礼司さんの唇が僕の唇に重なったかと思うと、乱暴に僕の口内をまさぐられる。

 礼司さんの苛立ちが伝わってくるようで、僕は少しの抵抗もせずに礼司さんを受け入れた。

 礼司さんの甘い匂い・・何処にいっちゃったの?

 いつも僕を優しく包む、僕の大好きな礼司さんの甘い匂いが全くしなかった。
 激しいキスに反して礼司さんの唇は、どれだけ交えても冷たいままだった。

 「あぁっ───!あっ、はあっ・・」

 僕の上半身は、黒のベストもワイシャツも全てのボタンが外されていて、開かれて露になった肌にはネクタイが垂れている。

 床には、いつも腰に巻いている黒のエプロンが雑に置かれていて、僕の足元には下着ごとズボンが下ろされ、ドアの上部に付いているドアストッパーに、礼司さんのネクタイで縛り上げられた両腕を括り付けられていた。

 「あぁっ・・れいっじ、さんっ・・ごめんなさっ、ふあっっ」

 礼司さんは開かれたワイシャツから割り入って、僕の乳首に噛み付くような愛撫をしながら、礼司さんの手は僕の硬くなったアソコを弄ぶように先端を手のひらでグリグリと押し付け、撫で回した。

 わざと、しっかりと握らず先端だけを攻めてくる礼司さん。

 いつもと様子が違う礼司さんが怖い。こんな格好までさせらているのに、僕の体はどうしようもなく礼司さんに反応する。

 礼司さん──・・何を考えながらこんなことをしてるの?

 「茜くん、これはなんだい?」

 やっと声を聞けたかと思うと、礼司さんは僕のアソコから手のひらをゆっくりと離し、店内の灯りに反射し艶めいて糸引く様子を見せ付けてくる。

 ううっ──・・礼司さんは、元々Sっぽいところがあるけれど、明らかにいつもとは違う冷たい礼司さんの表情にチクリと胸が痛む。
    それでも僕は恥ずかしくて、でも気持ちよくなりたくて・・

 僕は、震える腰をゆっくりと持ち上げて礼司さんの手のひらに擦り付けてしまう。

 「はあっはあぁっ・・ごめんなさいっ」

 どうしようもない淫乱な僕の耳に、礼司さんの唇が触れそうなくらい近付いてきて、ゾクリとするような憂いのある低い声で囁かれた。

 「君は、本当に淫らで悪い子なんだね。そんなに気持ちイイことが好きかい?」

 “君”

 やっぱり、礼司さんは怒ってるんだ──・・

 きっと、嫌われてしまった。だって、僕はこんなに欲情していて礼司さんをこんなにも求めてるのに、礼司さんからいつもの甘ったるい匂いがしない。

 今までは、ふとした時に感じていたのに。

 況してや、こんな風に触れ合っていれば必ず甘い匂いはしていた。

 それが今は──・・

 「ああ・・茜くんは後ろからされるのが好きだって、さっきのアイツも言っていたね。」

 礼司さんは笑って言うけれど、目は笑っていない。
 僕の体をドアの方に向けさせてワイシャツの中に手を入れると、微かに指先で背中をなぞった。

 その瞬間、僕の体はビクンッと跳ね上がって仰け反らせてしまう。

 僕は、みるみる顔に熱を集める。

 目の前には、ちょうど胸から顔の位置に硝子窓があって誰かが通れば丸見えだ。

 外は夜の暗闇で、店内には灯りが点いている。尚更、丸見えになってしまう。

 「ふんっ・・本当に、背中が敏感なんだな。茜くんの番である筈の俺が知らなくて、アイツは知っていた。正直面白くないよ。でも、こうされるのが好きなんだね?」

 後ろから囁かれて、礼司さんの表情は見えないけれど、沸々と怒りの色が伺える。

 「れっ、礼司さんっ・・これ、いやっ・・」

 「なんで?こんなに、ここも腫らして──・・茜くんの体は何処も嫌がってないじゃないか。」

 礼司さんは、後ろから僕のアソコをお腹にくっ付けるように手のひらで押し付けて、ゆっくりと上下させた。

 「んんっ・・あっ・・ちがっ、ここ見えちゃ──・・あっ」

 こんなの嫌な筈なのにっ──・・どうして僕の体はこうも気持ち良いことに弱いんだ。
 僕がこんなだから、優しい礼司さんにも呆れられるんじゃないかっ・・

 「ほら、茜くんはとてもエッチだからね。本当は見られるのにも興奮するんじゃないか?」

 「ち、違うよっ・・れいじさんだけっ・・今は、ほんとうにっ・・ひあっっ!」

 僕の背中にあった礼司さんの手が、五本の指先全てで背中から右の脇腹を通って、胸へと滑らせると乳首を指先で弾いた。

 後ろからの出来事で何をされるのか見えない僕は、いきなりの快感に大袈裟に体が反応してしまう。

 ────本当に、嫌なんだ。

 今は本当に──・・礼司さんしか欲しくない。礼司さんにしか見られたくない。

 僕のカラダは心ごと全て、礼司さんのモノなのにっ──・・

 きっと、今まで散々だった僕に、今になってツケが回ってきたんだ。

 「あっ、ああっ──・・」

 礼司さんは、黙々と続けた。

 僕の乳首を指先で擦ったかと思うと、ギュッとつまんだり弾かせたりして、服を捲し上げると僕の背中を唇と舌を使って舐める。

 こんなの、気持ちイイに決まってる。

 だって、僕はエッチなことが大好きで、僕の体は気持ちイイことに応えられずにはいられない。

 況してや、礼司さんが触れてるんだ。僕は、そう思うだけで心ごとカラダ全部が焦がれてしまう───

 今まで、ずっとそうだったんだ。

 Ωである僕を、色んな人が抱いた。

 もう、僕のカラダは汚れきっているんだ。

 本当に大切な人が出来たのに。

 こんな僕が、愛されるのは悪いことなのかな──・・

 「ああっ──・・んっはあっ・・」

 礼司さんの手や唇は徐々に下がってきて、僕はお尻を両手で広げられる。

 「茜くんのここ、ヒクヒクしてる。ここに欲しいんだね?男のモノ・・・・が。」

 違うっ・・違うよ、礼司さん。僕が欲しいのは、礼司さんだけ。

 「んああっっ──・・」

 礼司さんの舌先が、両手で広げられたままの僕のソレをチロチロと悪戯に舐めて、僕は堪らず体が前へと傾いて目の前のドアにぶつかってしまう。

 窓が冷たい。
 これじゃあ、本当に丸見えだ。

 いくら夜中の住宅街だからといって、誰も通らない保証なんてない。

 「ひぃっ・・あっ!」

 誰かが通ったらと思うと気が気じゃないのに、礼司さんは強く吸いついた。
 そんなに強く吸われたら、きっと痕が付く。

 「茜くんの、こんな大事なトコロに真っ赤な痕が付いちゃったよ。それに、俺に吸われてパクパク誘ってくる。でも、ごめんね?俺のは何故だか使い物にならないから、他の連中オトコみたいに思いっきり突いてあげる事が出来ないんだ。」

 礼司さんはそう言うなり、中指を僕の中に侵入させた。

 「あぁっっ・・れ、れいじさんっ・・しかっ、いらなっ・・あっ、」

 礼司さんの指は、直ぐに僕のイイトコロを刺激してきて、伝えたいことが沢山あるのに、言葉に出来ない。

 「ああっ・・そこっ、ふっうっ・・あっ、ダメっ」

 礼司さんの指は二本に増えていて、僕の中のコリッとする気持ち良いトコロを指先で押すように擦る。

 すると、僕のカラダは堪らなくて、腹の奥底から何も考えられない程の激しい快感が、突き抜けるように僕のカラダを支配する。

 「何が嫌なの?そんなにヨガってるのに。ほら、下を向いて自分のモノを見てごらん?先っぽから、こんなにだらしなく漏らして内腿まで辿ってる。気持ちよくて震えてるじゃないか。」

 「あっ・・あっ、いやっ・・いわないでっ・・」

 内腿に垂れている、僕の厭らしい水滴を礼司さんは舐めとると、僕の中に入っている指をグチャグチャと音を鳴らして、追い打ちを掛けるように早く動かした。

 「ああんっっ・・ダメっ、ダメっ・・んあああっ──・・」

 既に感じ過ぎてしまっていた僕は、あっという間に追い詰められてしまい、快楽でガクガクと足を震わせながら、勢い良く僕の白くドロリとしたものが飛び出して、ドアに思いっきりかかってしまった。

 「はあっ──・・あっ・・」

 達してしまった僕の体は汗でしっとりと濡れていて、体に力が入らなくなってしまい、その場に崩れてしまいそうになる。

 両腕を縛られ括られていた僕は、体重が掛かってしまったことでギリッとネクタイが手首に食い込み、ずっと縛られていた腕が痺れてしまっていることに気付いた。

 こんなに痺れて感覚まで可笑しくなっているのに、気付かない程に感じてしまっていたんだ・・・

 「茜くん、駄目じゃないか。勝手にイッておいてドアまで汚すなんて。大事なお店だろう?茜くんは男を誘うフェロモンがあるから、このままにしたら、お客さんが茜くんに欲情してしまうかもしれない。」

 礼司さんは、そう言うと僕の両腕を縛るネクタイを緩めて僕を解放した。
 体に力が入っていなかった僕は、ドサリとその場に座り込んでしまう。

 「さぁ、自分で汚したドアを綺麗にしなさい。どうやって掃除するか分かるね?俺は、俺以外の奴が茜くんに触れるなんて考えたくもないんだ。」

 ──────っ!?

 やっぱり、凄く怒ってるんだ・・
 こんなっ・・こんなことを僕にさせるなんて。

 あんなに甘くて優しい礼司さんに、こんな酷いことをさせたのは、お客さんでも清水さんでもない。

 僕自身だ───・・

 僕は、目の前のドアに両手を付いてギュッと目を瞑り、自分のカラダから出たモノを舌を使って舐めとった。

 震える───・・

 礼司さんにこんなことをさせている自分自身に、腹が立って悔しくて・・・体も心も震えた。

 「うぅっ・・ひっくっ──・・」

 僕は、気付くと涙が込み上げてきて泣きながらドアに舌を這わせた。

 ボロボロと涙が下へと落ちる。
 ごめんなさい、ごめんなさいっ。

 「─────っ、ごめんっ・・」

 え?

 僕は声に出してはいない筈。一瞬、僕の思考は止まったけれど、その一瞬のに、ふわりと後ろから抱き締められた。

 「────礼司さんっ・・」

 匂いがする───・・礼司さんの優しくて甘い、僕が大好きな礼司さんの匂いが・・

 「茜くん、ごめんっ──・・俺は、茜くんのことになると歯止めが利かなくなる。茜くんを泣かせたい訳じゃないんだっ」

 礼司さんは、とても苦しそうに顔を歪めて今にも泣き出しそうだった。

 憂いを帯びた瞳に絡め捕られる・・

 僕の涙が一滴落ちて、僕達はお互い吸い寄せられるようにキスを交わした。








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