かっぱかっぱらった

川獺右端

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第五話 人魚帝国大宴会

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 結に誘導されてドームの隣のビルへ移動した。

「なに険しい顔をしてるのですか、河童くん」
「え、いやべつに」
「核の炎で焼き尽くされる人間に同情してるのですか、河童くんはやさしいなあ」
「そんなことはないよ」

 魔法使いさんがにこやかに笑った。
 そんあことはないとは言ったが、そんなことはあった。
 移動中ずっと海上都市ムラサメの事を考えていた。

 人魚姫が宣戦布告と言っていたが、これは本当の戦争なんだと思った。
 海上都市ムラサメがこちらに移動しているのは、水没した秋葉原の電装部品などの資源目的なんだろう。
 世界に冠たる電脳都市であった秋葉原にはCPUや電装部品などが眠っている。
 人間の生き残りが居たら、当然の事ながらサルベージを狙うだろう。
 だが、今の秋葉原は人魚の街だ。
 人魚も秋葉原の電装部品をサルベージして文化的な生活を送っているのだ。
 両者の激突は必然と言っていい。
 だが、だからといって、交渉も無しに相手に核攻撃というのは……。

 東京ドームの隣のビルの三階に宴会場がこしらえてあった。
 体育館ぐらいの広さのホールにテーブルが並び、湯気を立てた御馳走が並ぶ。
 床から五十センチぐらいの高さまで綺麗な海水が引かれてあり、循環して流れていた。
 きらびやかなシャンデリアが辺りを照らし出し、青い化繊が壁を彩っていた。
 人魚達がそこでばちゃばちゃと笑いさざめき、宴会が始まった。

 並んでいるのは魚料理ばかりだった。
 シチュー。揚げ物。お寿司なんかもあった。
 こんな手のこんだ料理は何年ぶりだろうか。
 トド夫がビールをがぶがぶ飲んでいた。

 人魚姫に意見するべきだと思った。
 人間だって、この地球に生き残った仲間なのだから仲良くするべきなんだ!
 協力して明るい未来を開くんだ!
 俺はそう思って人魚姫に近づいて行った。

「姫様、核攻撃はおやめ下さい」

 人魚姫の眉がぴくりと動いた。

「人間だって、この地球に生き残った仲間なのだから仲良くするべきです!」

 俺が言う前に、若いショートカット人魚が人魚姫の前に立って声を上げていた。
 偉い! 人魚の中にも物の解った人が……。

「このものを処刑せよ」

 人魚姫の冷たい一言でショートカット人魚は宴会場の外に引っぱって行かれた。
 宴会場がシーンとした。

「失礼致しました、どうぞご歓談をお続けくださいましね」

 人魚姫はにっこりと笑った。

 俺はその場で硬直していた。
 い、言わなくてよかったー。

「いやあ、核爆弾は浪漫ですねー。攻撃はいつごろなんですか?」

 俺を肘で押しのけて、魔法使いさんがじゃぶじゃぶと水をかき分け人魚姫の前に出た。

「おほほ、軍事機密ですわよ。でも三日後かしら」
「いいですねー! 僕も見物にいこうかなあ」
「半径五キロぐらいは熱線で危ないですわよ、十キロほど距離を開けてごらんになってくださいね」

 俺は溜息をついて、ほがらかに核の浪漫を語る魔法使いさんと人魚姫の近くから離れた。

 トド夫は大酒のみだ。ビールをがぶがぶ飲んでいた。
 結がやってきて俺に一升瓶を手渡した。

「飲め」
「俺は酒呑まないけど」

 結は驚いた顔で一升瓶のラベルを指さした。

「探してきたんだぞ」

 ご丁寧に”黄桜”だった。

「馬鹿者、河童だからといって大酒のみとは限らないぞ」

 ちなみに俺は酒を飲むと頭が痛くなるので呑まない。

「呑まないならくださいな」

 トド夫がかっぱらって黄桜を一気のみした。
 結が口の下に梅干しを作ってむくれていた。

「呑んで酔っぱらったら私と仲良く生殖してくれると思ったのに」
「そのあと食べるんだろ」
「うん」
「生殖したいのか、俺を食べたいのか、どっちだ」
「……四分六で喰いたい」

 四分六かよっ!!

「魚でも食ってろ」

 ちきしょーと言って結は黄桜をトド夫から取り上げてあおった。
 そして酔っぱらって暴れた。

(つづく)
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