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「サリア」
「はい!」
羨む私には、せめてジオンに負けないよう、元気の良い返事をすることしか出来ない。いつかその親し気な輪の中に自分も入れることを夢見て……。
「君と離れてから俺は反省した」
「反省、ですか?」
「そう、反省。あれからジオンに言われたんだ。ちゃんと、わかりやすく言えって」
主様はトマトを持つ私の手を包み込む。温かな手は自分とは違う、男の人のものだった。
確か似たようなことが以前にも……
こんな時にセオドアの顔が浮かぶのはあの出会いのせいだ。兄はレモンで弟はトマト。どうでもいいところで兄弟らしさを実感していた。
けれど私の思い出は主様からの衝撃の一言で霧散する。どうやら陛下の出番はないようです。
「サリア。俺と結婚してほしい」
「はい!」
主様からのお言葉だ。解雇通知以外で断ることはないだろうと、私はつい了承してしまったのですが……
「結婚!?」
一拍置いて事の重大さに気が付いた。
「やりましたね、ルイス様!」
既にジオンは拳を突き上げ祝賀ムード。
主様の瞳は優しく私を見つめている。
え、な、なに!?
完全に私だけが取り残されていた。
「ずっと君だけを愛していたよ。伝えるのが遅くなってしまったね。ごめんね」
「そんな、謝らないで下さい!」
「じゃあ結婚してくれる?」
「え、あ、はいっ!?」
私の顔はトマトよりも赤くなっているだろう。気遣わなければトマトは握り潰してしまいそうだ。
幼い頃に魅了された青い瞳が目の前にある。ぼやけるほどの近さを感じた時には唇に温かなものが振れていた。
この世界の気候は前世よりも穏やかで、夏も比較的涼しいはず。それなのに、目が回るほどの熱さが一瞬にして駆け巡る。逆上せてしまいそうなほど、身体の内側に熱を感じた。
心臓はあり得ないほど早く鼓動を刻み、目を開ければ真っ赤な頬に主様が触れる。私は発熱を疑われていた。
主様の手は緩く、簡単に振りほどくことが出来るでしょう。まるでいつでも逃げて構わないと言われているようでした。
私に遠慮でもしているのでしょうか?
私が身を引くことなどありません。今度こそ、私は目をそらさずに主様だけを見つめて答えた。
「あらあら、お幸せにねー」
どこからか、モモからの祝福が聞こえる。声には慌てた様子がなく、この状況に取り乱しているのはいよいよ私だけらしい。
この状況を、ジオンにもモモにも見られている。けれどそんなことは気にならないほど、私の視界も頭も主様で埋め尽くされていた。
こんなにも近くで触れ合えることが幸せでたまらない。奇跡のような幸福に、やはりこの方との出会いは私の運命だったと泣きたくなった。
「たくさんご馳走させてください。主様」
そう口にすれば、主様は笑顔で続きを待っていらっしゃる。
そこで失態に気付いた私は慌てて訂正する羽目になった。あれほど密かに練習していたはずが、驚きの連続で消し飛んでしまっている。
「たくさんご馳走致します。ルイス様」
「ありがとう、サリア」
こうして元密偵は無事再就職、もとい永久就職を果たしたのです。
「はい!」
羨む私には、せめてジオンに負けないよう、元気の良い返事をすることしか出来ない。いつかその親し気な輪の中に自分も入れることを夢見て……。
「君と離れてから俺は反省した」
「反省、ですか?」
「そう、反省。あれからジオンに言われたんだ。ちゃんと、わかりやすく言えって」
主様はトマトを持つ私の手を包み込む。温かな手は自分とは違う、男の人のものだった。
確か似たようなことが以前にも……
こんな時にセオドアの顔が浮かぶのはあの出会いのせいだ。兄はレモンで弟はトマト。どうでもいいところで兄弟らしさを実感していた。
けれど私の思い出は主様からの衝撃の一言で霧散する。どうやら陛下の出番はないようです。
「サリア。俺と結婚してほしい」
「はい!」
主様からのお言葉だ。解雇通知以外で断ることはないだろうと、私はつい了承してしまったのですが……
「結婚!?」
一拍置いて事の重大さに気が付いた。
「やりましたね、ルイス様!」
既にジオンは拳を突き上げ祝賀ムード。
主様の瞳は優しく私を見つめている。
え、な、なに!?
完全に私だけが取り残されていた。
「ずっと君だけを愛していたよ。伝えるのが遅くなってしまったね。ごめんね」
「そんな、謝らないで下さい!」
「じゃあ結婚してくれる?」
「え、あ、はいっ!?」
私の顔はトマトよりも赤くなっているだろう。気遣わなければトマトは握り潰してしまいそうだ。
幼い頃に魅了された青い瞳が目の前にある。ぼやけるほどの近さを感じた時には唇に温かなものが振れていた。
この世界の気候は前世よりも穏やかで、夏も比較的涼しいはず。それなのに、目が回るほどの熱さが一瞬にして駆け巡る。逆上せてしまいそうなほど、身体の内側に熱を感じた。
心臓はあり得ないほど早く鼓動を刻み、目を開ければ真っ赤な頬に主様が触れる。私は発熱を疑われていた。
主様の手は緩く、簡単に振りほどくことが出来るでしょう。まるでいつでも逃げて構わないと言われているようでした。
私に遠慮でもしているのでしょうか?
私が身を引くことなどありません。今度こそ、私は目をそらさずに主様だけを見つめて答えた。
「あらあら、お幸せにねー」
どこからか、モモからの祝福が聞こえる。声には慌てた様子がなく、この状況に取り乱しているのはいよいよ私だけらしい。
この状況を、ジオンにもモモにも見られている。けれどそんなことは気にならないほど、私の視界も頭も主様で埋め尽くされていた。
こんなにも近くで触れ合えることが幸せでたまらない。奇跡のような幸福に、やはりこの方との出会いは私の運命だったと泣きたくなった。
「たくさんご馳走させてください。主様」
そう口にすれば、主様は笑顔で続きを待っていらっしゃる。
そこで失態に気付いた私は慌てて訂正する羽目になった。あれほど密かに練習していたはずが、驚きの連続で消し飛んでしまっている。
「たくさんご馳走致します。ルイス様」
「ありがとう、サリア」
こうして元密偵は無事再就職、もとい永久就職を果たしたのです。
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