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モモは留守の間に私の身に起こったことを知るなり羽を広げて怒りを露わにする。本人曰く、怒りのポーズらしい。
「きぃー! あたしのさーちゃんを困らせるなんて! あんの王子、毎晩窓をつついて寝不足にしてやろうかしら!」
「お、落ち着いて、モモ。それにセオドア殿下、今はもう国王陛下だからね。国王陛下が寝不足になったらみんな困るから」
モモの憤りはすさまじい。不謹慎ではあるけれど、自分のためにそこまで怒ってくれることは嬉しくもあった。
「はあ……あたし、さーちゃんが心配。あの人、不遜で嫌みったらしくて、傍若無人な人間でしょう」
うんうんと私は同意する。私の陛下に対する評価もたいがい一致していた。
「モモの言う通り、あの人がこのまま私を放っておくとは思えない」
陛下は主様のことを嫌っていた。否定はしたけれど、陛下にとって私はかつて主様の隣にいた人間だ。きっと私が主様の命で城の内情を探っていると考えた。目障りな私を放っておくとは思えない。
「油断しない方がいいよね」
「さーちゃんの言うとおりね。だ、け、ど! そんなに心配しなくても大丈夫よ」
「どういうこと?」
「あの人は、さーちゃんに心強い味方がいるって知らないでしょ?」
バチッとウインクをしたモモは、これからは陛下のことを見張ると言ってくれた。確かにいくら陛下でも鳥が自分を見張っているとは思わないだろう。
モモのおかげで私は翌日からも取り乱すことなく仕事に集中することが出来た。主様のためにも頑張らないといけませんからね!
そんな私がなんとか仕事を終え城内を歩いていると、前から歩いてくるメイドと目が合って離れない。向こうも私に視線を固定していることから、おそらく話があるのでしょう。
あまりかかわりたくはない相手なんですけどね。
「こないだはどうも」
こうして顔を合わせるのは夜の厨房以来だ。
にこやかな表情で話しかけられているけれど、目の奥はちっとも笑っていない。当然だ。
「お元気そうで何よりです」
もちろん皮肉で、それは相手にもしっかりと伝わっていた。
「あんたのせいでたんこぶに青あざ尽くしよ……って、まあそれは私の力が足りなかったからで、他人を責めるのは違うってわかってる。けど恨み言を聞くくらいはしてくれてもいいんじゃない?」
丁寧だった口調は明らかに雑なものへと変わっている。厨房でも口は悪かったし、これがこの人の本性なのでしょう。
「それは私の業務内容には含まれておりません」
「可愛くないわねえ」
「余計なお世話です」
「まあいいわ。訊いたんでしょ? あたしの処遇」
陛下の密偵に寝返ったんですよね?
堂々と城内を歩き回れるということは、本当なんですね。
「あたし、あんたの監視を任されたの」
「は?」
この人、今なんて?
仮に本当だとして、本人目の前にして言います?
「きぃー! あたしのさーちゃんを困らせるなんて! あんの王子、毎晩窓をつついて寝不足にしてやろうかしら!」
「お、落ち着いて、モモ。それにセオドア殿下、今はもう国王陛下だからね。国王陛下が寝不足になったらみんな困るから」
モモの憤りはすさまじい。不謹慎ではあるけれど、自分のためにそこまで怒ってくれることは嬉しくもあった。
「はあ……あたし、さーちゃんが心配。あの人、不遜で嫌みったらしくて、傍若無人な人間でしょう」
うんうんと私は同意する。私の陛下に対する評価もたいがい一致していた。
「モモの言う通り、あの人がこのまま私を放っておくとは思えない」
陛下は主様のことを嫌っていた。否定はしたけれど、陛下にとって私はかつて主様の隣にいた人間だ。きっと私が主様の命で城の内情を探っていると考えた。目障りな私を放っておくとは思えない。
「油断しない方がいいよね」
「さーちゃんの言うとおりね。だ、け、ど! そんなに心配しなくても大丈夫よ」
「どういうこと?」
「あの人は、さーちゃんに心強い味方がいるって知らないでしょ?」
バチッとウインクをしたモモは、これからは陛下のことを見張ると言ってくれた。確かにいくら陛下でも鳥が自分を見張っているとは思わないだろう。
モモのおかげで私は翌日からも取り乱すことなく仕事に集中することが出来た。主様のためにも頑張らないといけませんからね!
そんな私がなんとか仕事を終え城内を歩いていると、前から歩いてくるメイドと目が合って離れない。向こうも私に視線を固定していることから、おそらく話があるのでしょう。
あまりかかわりたくはない相手なんですけどね。
「こないだはどうも」
こうして顔を合わせるのは夜の厨房以来だ。
にこやかな表情で話しかけられているけれど、目の奥はちっとも笑っていない。当然だ。
「お元気そうで何よりです」
もちろん皮肉で、それは相手にもしっかりと伝わっていた。
「あんたのせいでたんこぶに青あざ尽くしよ……って、まあそれは私の力が足りなかったからで、他人を責めるのは違うってわかってる。けど恨み言を聞くくらいはしてくれてもいいんじゃない?」
丁寧だった口調は明らかに雑なものへと変わっている。厨房でも口は悪かったし、これがこの人の本性なのでしょう。
「それは私の業務内容には含まれておりません」
「可愛くないわねえ」
「余計なお世話です」
「まあいいわ。訊いたんでしょ? あたしの処遇」
陛下の密偵に寝返ったんですよね?
堂々と城内を歩き回れるということは、本当なんですね。
「あたし、あんたの監視を任されたの」
「は?」
この人、今なんて?
仮に本当だとして、本人目の前にして言います?
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