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「こんなものでよければ……でも、父さんの方が美味しく作れると思いますよ」
「私はリーチェさんに習いたいんです。お願いします、先生!」
リーチェさんはひとしきり悩んだ後、頬を染めて言った。
「……えっと、リーチェでいいからね? あの、よく見てて。……サリア」
照れくさそうに材料を用意するリーチェとは料理を通じて仲を深めることが出来た。パンケーキの作り方だけではなく、リーチェさんは友達との過ごし方も教えてくれた気がする。
作ったパンケーキを食べながら、私は苦手としていた世間話をすることになった。
「でも、不思議ね。こんなに近くに住んでいたのに、サリアのことは初めて見た気がするわ。ご近所なら顔を合わせていても可笑しくないんだけど」
「それは……恥ずかしながら不健康な生活を送っていたの。近所付き合いも、下手だったかな。でもこれからは生活を改めようと思って」
「それで料理道具を揃えたり?」
「私ね、訳あって転職をしたの。前の仕事では料理をする必要がなかったけど、これからは料理を覚えないとって、必要性をせまられているところよ」
「大変なんですね」
「そうなの! だからお願い! これからも私に料理を教えてくれない? 料理って難しくて、一人だと何を作ればいいのかさえわからない!」
料理長の手際を再現するだけなら私の技術をもってすれば可能だと思う。けれどいつ、何を作ればいいのかがわからない。
「食べたいものを作ればいいんじゃない?」
「食べたいもの……」
「えっと、何かない? 肉とか、野菜とか、これが食べたいなーって」
リーチェからの問いかけに、私は真剣に考え続けていた。
「そういうものを一つ決めて、そこからメニューを考えていくの。寒い日だったら温かいものとか、そんな感じね。あとは……そうだ! もう一度出掛けることになるけど、買い物に行かない? 一緒にご飯を作るりましょうよ」
ぜひにと頷いた私が案内されたのは野菜を扱う店だ。何か作りたいものがないかと聞かれた私は、とっさに野菜で身体が温まるものと、主様の好みを伝えていた。
そんな私の願いから、夕食には野菜たっぷりのスープが並んだ。
「サリアの作ったスープ、美味しかったよ」
リーチェの笑顔を見ていると、私の胸はあたたかな心地になる。ほかほかと、身体の内側から沸き上がる感情はりリーチェが教えてくれた。
「誰かに美味しいと言ってもらえるのは、とても素敵なんですね。ありがとうリーチェ。リーチェのおかげで知ることが出来た」
仕事を認められるのはもちろん嬉しいけれど、厨房で誰かに褒められるのとはまるで違った。
夜も更け、料理長が帰宅すると、当然ながら盛大に驚かれる。
家族の団らんを邪魔してはいけないので早々に立ち去ろうとすれば、料理長がわざわざ扉の前まで見送りにやってくる。厨房では大声で指示を飛ばす人なのに……?
「リーチェに聞いた」
料理長は何をとは言わない。それは私の家族のことか。あるいは料理のことか。それとも両方か。いずれにしろ、料理長は私に何か言いたいことがあるらしい。
「その、なんだ。いつでも来い。お前、家近いんだろ?」
照れ臭そうにそっぽを向きながら告げる。
「そうなの! サリアね、お向さんなのよ」
割り込むリーチェに「本当に近いな!?」と料理長は驚きの声を上げていた。
リーチェという頼もしい先生が誕生したことによって、私は王城のレシピだけでなく一般家庭の味も習得を進めることになった。
「私はリーチェさんに習いたいんです。お願いします、先生!」
リーチェさんはひとしきり悩んだ後、頬を染めて言った。
「……えっと、リーチェでいいからね? あの、よく見てて。……サリア」
照れくさそうに材料を用意するリーチェとは料理を通じて仲を深めることが出来た。パンケーキの作り方だけではなく、リーチェさんは友達との過ごし方も教えてくれた気がする。
作ったパンケーキを食べながら、私は苦手としていた世間話をすることになった。
「でも、不思議ね。こんなに近くに住んでいたのに、サリアのことは初めて見た気がするわ。ご近所なら顔を合わせていても可笑しくないんだけど」
「それは……恥ずかしながら不健康な生活を送っていたの。近所付き合いも、下手だったかな。でもこれからは生活を改めようと思って」
「それで料理道具を揃えたり?」
「私ね、訳あって転職をしたの。前の仕事では料理をする必要がなかったけど、これからは料理を覚えないとって、必要性をせまられているところよ」
「大変なんですね」
「そうなの! だからお願い! これからも私に料理を教えてくれない? 料理って難しくて、一人だと何を作ればいいのかさえわからない!」
料理長の手際を再現するだけなら私の技術をもってすれば可能だと思う。けれどいつ、何を作ればいいのかがわからない。
「食べたいものを作ればいいんじゃない?」
「食べたいもの……」
「えっと、何かない? 肉とか、野菜とか、これが食べたいなーって」
リーチェからの問いかけに、私は真剣に考え続けていた。
「そういうものを一つ決めて、そこからメニューを考えていくの。寒い日だったら温かいものとか、そんな感じね。あとは……そうだ! もう一度出掛けることになるけど、買い物に行かない? 一緒にご飯を作るりましょうよ」
ぜひにと頷いた私が案内されたのは野菜を扱う店だ。何か作りたいものがないかと聞かれた私は、とっさに野菜で身体が温まるものと、主様の好みを伝えていた。
そんな私の願いから、夕食には野菜たっぷりのスープが並んだ。
「サリアの作ったスープ、美味しかったよ」
リーチェの笑顔を見ていると、私の胸はあたたかな心地になる。ほかほかと、身体の内側から沸き上がる感情はりリーチェが教えてくれた。
「誰かに美味しいと言ってもらえるのは、とても素敵なんですね。ありがとうリーチェ。リーチェのおかげで知ることが出来た」
仕事を認められるのはもちろん嬉しいけれど、厨房で誰かに褒められるのとはまるで違った。
夜も更け、料理長が帰宅すると、当然ながら盛大に驚かれる。
家族の団らんを邪魔してはいけないので早々に立ち去ろうとすれば、料理長がわざわざ扉の前まで見送りにやってくる。厨房では大声で指示を飛ばす人なのに……?
「リーチェに聞いた」
料理長は何をとは言わない。それは私の家族のことか。あるいは料理のことか。それとも両方か。いずれにしろ、料理長は私に何か言いたいことがあるらしい。
「その、なんだ。いつでも来い。お前、家近いんだろ?」
照れ臭そうにそっぽを向きながら告げる。
「そうなの! サリアね、お向さんなのよ」
割り込むリーチェに「本当に近いな!?」と料理長は驚きの声を上げていた。
リーチェという頼もしい先生が誕生したことによって、私は王城のレシピだけでなく一般家庭の味も習得を進めることになった。
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