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26、女神の憂い(モモ視点)

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 あの子は生まれ変わった先でどうなってしまうのか。このままでは不安な毎日を過ごすことになるだろう。そんなのはごめんだ。
 あたしは妹の裾を咥えて引っ張った。

「ちょっと、あたしも同じ世界に転生させなさい」

「今すぐには無理ですよ~姉上様の寿命、あと五年ほど残ってるんですから~」

「こんな時だけ真面目に仕事してんじゃないわよ!」

 悔しいけれど、こればかりは妹が正しい。妹は憎いけど、女神として公正に振る舞おうとする妹を咎めるわけにはいかなかった。悔しさを胸に現世へと戻ったあたしは、大切な娘を失った家族に寄り添い生きることを決めたの。

 そうして天寿を全うし、あたしは五年ぶりに妹と再会した。そして開口一番、仕事を急がせたわ。

「さあ! 早くさーちゃんと同じ世界に転生させなさい!」

 鼻息荒く詰め寄るあたしに妹は言った。やや申し訳なさそうにね。

「僭越ながら、姉上様。そのお姿で行かれるおつもりですか?」

「そうだけど?」

「残念ながらかの世界にその犬種は存在しません。別の個体に転生していただきたいのですが……」

「はあ!? あんたこんな時だけ真面目に仕事するんじゃないわよ!」

「し、失礼な! 私は、いつでも仕事に対して真面目に取り組んで」

「そういうのいいから!」

 ばっさりと切り捨てて、あたしは妹と議論を続けたわ。

 犬でなくともあの子は気づいてくれる?
 いっそ人間に生まれ変わるのはどう?
 でも人間は成長するの期間が長すぎる。あたしはすぐにでもあの子のそばに行きたいの。一人で寂しくなかったって、そばにいてあげたいのよ!

「成長が早くて、そこそこ長生きで、なんかこう……同じ白い生物はいないの?」

「あ、姉上様! この世界では白い鳥は神の使いという伝説があるらしいですよ。これ、いいんじゃないですか!」

 そんな協議を経て、なんとか転生。
 待っててと意気込み、巣から飛び立ったあたしが目にしたのは、大切な女の子が誘拐される瞬間だった。

「なんか攫われてるし――!!」

 またしてもあの子を取り巻く運命は過酷だった。
 でも今回は、あの時とは違う。

 ここにはあたしがいるんだから!

 あたしがなんとかしないと、さーちゃんを助けないと!
 でも鳥の姿で出来ることなんて限られてる。だからあたしは助けを呼んだ。ちょうど近くを通りかかった貴族っぽい馬車を強引に止めてね。
 馬車に乗っていた子どもを見た時は驚いたわ。
 幼くはあるけど、かつてあの子が好んでプレイしていた乙女ゲームの爽やか系王子様とうり二つなんですもの。
 コンビニのお兄さんや乙女ゲームであの子の好みは把握済みなのよ。

 この子どもがあの子を幸せにしてくれる人間であればいい。
 あたしはそう願ったわ。
 まさかその人の密偵になるとは思いもしなかったけど……。
 だってさーちゃんの可愛さをもってすれば、普通に考えて妃ルートよ!? 少し身分は足りないかもしれないけど、そこは王子様がなんとかしてくれるはずだったの。寵妃ルートが始まると思っていたのよ!

 それなのに、あの子が願ったのは自分の力で運命を切り開くことだった。
 まったく、格好良いったらないわね。格好良すぎで惚れ直しそうだわ。仕事に打ち込むその姿勢も、あたしの妹にも見せてやりたいくらいよ。

「見てる? 見てるわよね、愚妹!」
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