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「ああっ! やーっと名前を呼んでくれたわね。私のさーちゃん!」

「な、なに!?」

 賑やかな声に当てられ、瞬時に周りを警戒する。けれど誰の姿もないことが更なる焦りを呼び起こしていた。仕事柄人の気配には敏感で、何かあれとっくに気づいているはずなのに。

「さーちゃんてば! ここ、ここよ!」

 何度周囲を見回しても人の気配はない。念のため木の裏手に回ってみたが、やはり誰もいなかった。
 そんな私の行動は検討違いなのか、声の主はじれったくなったらしい。

「ここよ! 上、上!」

 頭上からはまるで存在を主張するかのように羽音が聞こえる。
 まさか、もしかして……

「鳥さん、とか?」

「正解!」

 見つめ合えば、その瞳に喜びが宿る。

「う、うそ……鳥が、しゃべってる!?」

「そう、あたしよ、あたし! さーちゃん! ああっ、やーっと気づいてくれたのね! 久しぶり!」

 とても親し気だ。まるで顔見知りにように話しかけられている。

「どれほどこの時を待ちわびたことでしょう。ついに前世を思い出してくれたのね!」

 信じられないことではあるが、白い鳥はとても嬉しそうに喋っている。
 幻聴か。それほどまでに私は寂しかったのか。
 けれど……

「さーちゃんて、私のことをそう呼んでいた人は一人だけだった」

 しゃべる鳥は前世と言った。私の前世、山崎沙里亜を「さーちゃん」と呼んでいた人物を、私は一人しか知らない。

 あり得ない期待に胸が躍る。
 ここは異世界だ。こんな場所にいるはずがない。
 もう会えるはずがないのに、それでもと期待してしまう。
 とても信じられることではないけれど、自分だってこうして生まれ変わっているのなら!

「あなたはまさか!」

 私の言いたいことに気付いた鳥は期待の眼差しを寄せていた。

 そう、この鳥はきっと――

「おばあちゃん!?」

 そう言った瞬間、鳥は木の枝から足を滑らせた。この反応は多分、私は盛大に答えを間違えたのだ。

「ちっがーう!」

 鳥はめげずに体勢を立て直し、一段低い枝にとまる。
 ちょうど私と視線が合う高さで、見上げなくてすむのは有り難い。

「あたしは弥生さんじゃなくてモモ!」
 
「あ、おばあちゃんの名前……ってモモ!? え、モモって、白くてモフモフで、ポメラニアン……犬のモモ!?」

「はーい! そのモモさんです!」

 鳥はびしっと羽を上げる。
 犬と鳥は違う存在なのに、それはモモが上手にボールをとってこられた時の表情と重なった。

「まず何から突っ込めばいいのか……」

 突然鳥がしゃべり出して、実は前世で飼っていた犬のモモで……

「嘘でしょう!?」

「ふふっ、驚くのも無理ないわね。でも本当のことなのよ。すぐには信じられないかもしれないけど、あたしはずっとそばでさーちゃんのことを見守っていたの。もちろん前世からね」

「前世からって……」

「声は届かなかったけれど、あたしはさーちゃんのことが大好きだった。さーちゃんが散歩に連れて行ってくれる日はしっぽがとれそうなほど喜んだものよ」

 確かに小さなシッポを振りながら見上げるつぶらな瞳は覚えているけど……。
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