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16、従者の焦り(ジオン視点)

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 自分の肩書はロベール国の第二王子ルイス様の従者兼、護衛というものだった。
 一時は失業の危機に陥りもしたが、人間諦めなければどうにかなるらしい。
 たとえ働く場所が変わろうと、自分にとっては仕えるべき人が同じであるのなら、それでいいことだった。
 しかしこの焦りは失業騒動の比じゃあない。それというのも年下の仕事仲間であるサリアが原因だ。サリアは窮地を救われて以来、ルイス様にお仕えすることを生き甲斐としている。
 なにしろ自分も同じ境遇にあたるわけで、離れたくないという気持ちも理解は出来る。
 理解出来ると、そう思っていた時期が自分にもあった。あの時までは確かに、そのはずだったのに……

 何をどうしたら料理人になりたいなんて発想になるんだよ! あいつに限ってあり得ねーだろ! 理解出来ねーよ!

 声を大にして叫びたい。
 何をどうしたら料理人という発想にたどり着く?
 仮に閃いたとしても自分が元凶だとは口がさけても言わないでほしかった。
 そもそもサリアは……

「それで。これは一体どういうことかな?」

 硬い声に問い詰められ、のどまで出かけていた言葉を飲み込む。生憎それどころではなかったことを、きつめの呼びかけによって強制的に思い出せと言われていた。
 前述の経緯から、自分は主であるルイス様から厳しく問い詰められているところだ。
 笑顔で聞かれているはずが、ほとんど尋問に近い。ルイス様から感じる静かな苛立ちに冷や汗を流しながら答える羽目になった。

「それが、自分にもさっぱりでして……」

 情けないことに言葉尻がしぼんでいくい。それでも従者兼護衛かよ!
 肩書こそは従者となっているが、自分は持ち前の戦闘能力を生かして護衛も兼ねている。体格や実力で言えば無論、ルイス様より自分の方が強いだろう。腕力でならねじ伏せるのは簡単だ。
 ただし腕力で言えば、である。それ以前にルイス様には逆らえないようなオーラがあった。これが上に立つ人間の力というやつだろう。
 だが、まあ、その……自分としても多少、反省してはいる。
 サリアは確かに自分との会話の後、あの結論に達したわけで。自分が何らかの引き金を引いてしっまったことは事実だろう。それ故のぬぐえない申し訳なさがこみ上げている。
 そんな自分は生きてこの部屋を出ることが出来るのか……
 もう一度、ごくりと唾を飲みこんだ。

「確かに俺はサリアのことを気に掛けてほしいと頼んだね。けどおかしいな……俺は料理人になるようけしかけろと頼んだ覚えはないよ」

「い、いや、それはですね!」

「俺、何か間違ったことを言った?」

「おっしゃる通りです……」

 いや諦めるなよ、俺! それでも泣く子はさらに泣き出す顔面凶器と恐れられた男かよ!
 頭が上がらないのはいつものことだが、今日は顔も上げられない始末だ。目が合おうものならやばい。石にでもされそうだ。
 ルイス様は見せつけるように大きなため息を吐いた。
 
「いや、わかってはいるんだ。ジオンばかりを責めることは出来ないと。兄上との食事で口を滑らせてしまったのは俺だ。まさかサリアに聞かれているとは思わなかったよ。本当に、あの子は優秀な密偵に育ってくれたな」

 事情を聞けばルイス様にも責任の一端はあるという。もちろんルイス様にとってもあのような展開は予想外だったろう。同情するような心地で頷いていた。
 まったくもってその通りだ。サリアは優秀な密偵すぎてしまった。壁越しには耳を澄まし、窓辺から室内を観察することは日常だ。

 それなのに、それなのに!

「なんであいつは密偵としては優秀なくせに自分のことになると疎いんだよ!」

 この一言にはさすがにルイス様も苦笑していた。
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