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6、クビになりました

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 そんな強面の男に詰め寄られたのなら、普通の感性を持つ人間は怯むだろう。けれど私たちの主様が怯むことはない。

「突然のことで驚かせてしまったね」

「そりゃあ驚くに決まってますよ! 見て下さい! サリアの奴なんて意識飛ばして白目剥いてるんですよ!?」

 いやいやいや、見せないよ!

 私は自分でもびっくりするほどの反射で起き上がっていた。何が悲しくて敬愛する主に白目を剥いて寝込む姿を晒せるか!

「ジオン! 主様に変なこと言わないで!」

 間一髪で阻止することには成功したけれど、すでに見られている可能性の方が高いことが不安である。

「サリア! 気が付いて良かった」

 はい。聞きましたか?
 我が主は密偵相手にも心を配る優しさを持ち合わせているのだと、全世界に宣伝して回りたくなりました。
 目が合えば、主様は安堵の表情を浮かて下さいます。

「ご心配をお掛けてして申し訳ありませんでした!」

 その優しさに、仕えるべき主であることの誇らしさ、お仕え出来ることの幸せを感じていた。
 けれど今日に限っては、続く言葉はちっとも優しくありませんでした。

「いや、悪いのは俺だよ。君たちには残酷なことを言うけれど、これはもう決定したことなんだ。俺は王位継承権を剥奪されることになるだろう。そして政や貴族の思惑の及ばない遠い地に送られる」

 私はとっさに口を覆っていた。そうしなければ冷静さを保てそうにない。
 主様は遠い地に送られるとやんわり表現しているが、そんなものは誰が聞いても追放だ。
 主様もそれが分かっているからこそ、私たちを刺激しないように言葉を選んでおる。私の心情など、聡明な主様にはお見通しなのだろう。

「兄上ならやりかねないかな」

 主様は顔色を変えることなく告げたのに、それを目にした私には痛ましいものとして映った。
 けれど現実は否定を許してはくれない。主様も気休めの否定を望みはしないだろう。何より、偽りの情報で主を混乱させては密偵の名が廃る。

 すべてわかっている。わかった上で、私は少しも納得出来ていなかった。

 現ロベール国の王家には複数の王子が生まれた。彼らは常に王位を狙い、競い合っている。
 最も優秀な者、功績をあげた者が次期国王の座を手にすることが出来るからだ。

 その結果、新たな王に指名されたのは第一王子のセオドア殿下だった。主様とは母親違いの兄にあたる。
 セオドア殿下は国王陛下が未来を託すだけのことはある優秀な人物だ。
 やや不愛想ではあるが、臣下たちからの信頼も厚く慕われている。政治の手腕にも抜かりはなく、彼の手でロベールはさらなる発展を遂げるだろう。そんな未来が容易く想像出来る。
 これは主様の政敵として、私が個人的に探っていた感想だ。

 多くの人間がセオドア殿下の即位を喜んでいる。だからこれは私の、個人的な想い。我儘だということも自覚している。
 それでも私は自らの主が選ばれなかったことが不満でならない。セオドア殿下を評価はしているけれど、決して主様が劣っていたわけじゃない。
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