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九、見上げた空に
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あやかし屋敷に住まわされてからというもの、私が日課としていることが二つ。
一つは机に向かって本を読んだり、先生役のあやかし(主に藤代)から講義を受けている。
戦うための術しか教えられなかった身では長時間机にかじりつくのは苦痛かと思いきや、藤代の教え方は上手く、教わり慣れていない私にも飽きさせまいと趣向を凝らしているのが伝わる。それも相まってか、さらに深く知りたいと欲が生まれるばかりだった。
あやかしに教えを請うなど情けないと、最初は私もそう考えていた。けれど約束したからには守るのが人間の義務というもので……。
葛藤を抱きながら始まった講義だが、私がいかに物を知らず、知らなすぎるかを思い知らされた。それを馬鹿にされようものなら、こんなにものめり込むことはなかっただろう。もっと反発していたかもしれない。けれど藤代は一度たりとも私を馬鹿にすることはなかった。それどころか呑み込みが早いと感心するばかりで、気がつけば私は勉学にのめり込んでいた。
講義が終われば凝り固まった体を解すように稽古が待っている。これについては説明するまでもないだろう。これまでしてきたことと変わらな――いや、これも違っていた。
相手がいるだけでもかなり違う、というか大違いだ。それも私を強くしようという感情が伝わってくるのだから。
私は藤代から型というものを指南され、互いに攻撃を打ちあうことが多かった。幸か不幸か、彼もまた朧同様強敵のようだ。そうしてつくづく思い知らされる。勉強から何もかも、私はあやかし相手に遠く及ばないのだと。
この数日は穏やかな毎日が繰り返されるばかりだ。
あれから何日経ったのか、今では暦の読み方も教わり今日が何月何日なのかもわかっている。ここで暮らし始めてから一週間ということになるらしい。
いつ終えるかもしれない日々を過ごしていた私にとっては生まれ変わったように新鮮だ。当たり前のように今日が平穏に終り、当然のように明日が訪れる。温かい食事が運ばれ、柔らかな寝床が用意されているのだから。
そんな毎日を過ごせることを……私は嬉しく思い始めている。
でも――
「熱心だな」
稽古前、高い空を見上げていた私は一瞬にして現実に引き戻された。顔をしかめて振り向けば、屋敷の主である朧が穏やかにこちらを見つめている。
「朧……」
狩るべきあやかしの名。彼の顔を見る度、嫌でも思い出さざるを得ない。私の役目は人としてあやかしを狩ること、決して忘れてはならないと語りかけるのは私を育ててくれた人。全てはあやかしを狩るための仮初、この日々を絶ち切り認められるためにしていることなのだから。
「何か用が?」
「用がなければ会いにきてはならないのか?」
「え?」
これまで用件もなく自分に会いに来る奇特な者はいなかった。だからつい理由を探して身構えてしまう。
「あ、いや……そうしてほしい」
当然だ。あまり顔を合わせていたい相手もない。
「何故?」
「何故?」
繰り返すように朧の後に私の声が続く。朧は用がなければ会いに来てほしくないという理由を問い、私は何故その理由を問うのかと問う。
私が答えやすいようにとの配慮か、朧は先に自らの理由を語りだした。
「用など、なくても訪ねるに決まっている。俺が君に会いたいから、とでも言えばいいのか?」
さらに何故と聞き返したくなったのはさておき、私も自らの理由を模索し始めていた。
考え、思考に悩まされることが増えていく。その度に思い知らされる。定められるままに刀を振るうことがどれほど楽だったかを。まるで人形のように意思はなく、ただ命令に従うだけの駒。
「椿?」
朧が私の名を呼ぶ。
私は、椿は――
その名を与えられてから考えてばかりだ。もう人形ではなくなっていた。求められもしなかった私の意見が求められている。何も口にしなければ朧は更に追求するだろう。きちんと言葉で伝えなければならない。
「お前は、私の心を乱すから」
「なんだと?」
何の答えにもなっておらず、そしてまた私は考える。沈黙を選べば勝手に名付けてしまうような相手である、考えることを止めれば朧のいいように流されてしまうのではと危惧した。
根底にある『狩るべきあやかし』ということはすでに朧とてわかっているはず。ならば提示すべきは別の理由か……。
朧からの質問には毎度悩まされてばかりだ。それは己の未熟さを実感させられるということで悔しかった。
「そうか!」
「どうした?」
何故、その答えはおそらく――
「お前は会うたびに何故と、私が返答に困ることばかり聞く。その度に自分の無知を実感させられるのは不満で、だからあまり会いたくはない」
「なるほど、可愛い奴だ」
ようやく絞り出した回答だと言うのに、一瞬にして無駄なことをしたような気分に陥った。
「……どうしてそうなる」
「どうしても」
朧の笑みは常に憎たらしい。あやかしでありながら人のように美しく、見透かすような眼差で見つめられるから。
「もう、いいでしょう。私は稽古に移る」
ここまで答えたのだ、十分だろうと私は刀を抜いた。
この刃で今すぐ朧を斬りつけたら?
そんなもの答えは明白、返り討ちにあって終り。既に襲撃に失敗したことがあり、ひらりとかわされた経験談である。
「美しい刃だな」
「自画自賛?」
宣言通り、この刀は朧から送られたものだ。けれど、どこが美しい刃なものか。曇り一つなかった刀身も、私が握ればかつての愛刀のように黒く染まってしまった。それでも自らの目利きを褒め称えているのかと呆れ半分に聞いていれば――
「いや、黒い刃が美しいと思ってな」
「こんな闇色が?」
彼らは闇を好むのかもしれない。私は好きになれそうにないけれど。
「何にも染まらない美しさだろう」
「他者を浸食する忌むべき色。お前の言う美しさとは無縁だと思う」
「そうか、つくづく俺たちの意見は食い違うな」
「当然」
お前はあやかし、私は人間なのだからそれでいい。
藤代が来てくれたおかげで私の稽古が始まり、無意味な会話を切り上げられると思った。けれど打ち合いが始まっても朧が引き上げることはない。それどころか縁側を陣取っている。
「――で、どうして朧はそこにいる?」
「俺のために励む姿を見守るのも務めだろう」
「思い上がり!」
面白そうに稽古を眺められては苛立ちが募る。
「では誰のために励んでいる?」
「……お前を狩るため!」
常に余裕の姿勢を崩さない朧。それはまるで、どれだけ努力を重ねても無駄だと言われているようで手に力が入った。
「ああ、俺のためだな。良い返事を聞けて嬉しいよ」
実に不毛なやり取りだ。
「朧様、あまりからかわれては……」
藤代が朧を諫めてくれるけれど遅い。我慢の限界とばかりに私は打ち攻撃を放ち続けた。怒りも上乗せされた今日一番の反撃になったことだろう。
「矛先を向けられるのは全てわたくしなのですが!」
叫びながらも態勢を崩さない藤代はさすがだ。まだ私が勝てる相手ではない。
「椿様、打ち込みの強度が増しましたね。愛しい相手のことでも思い浮かべていらっしゃるのでしょうか!」
「ほう、それは焼ける」
藤代が指摘すれば朧は平然と言い切った。
「今に見ていればいい!」
「楽しみにしているよ」
穏やかに一日が過ぎて行く。一日でも早くこの連鎖を経ちきるため、私は必死に刀を振り続けた。
そう、理解などしてはいけない。彼らはあやかし、私は人間。理解などあってはならない。
狩るべき相手の庇護下、生きるための術を学ぶ。なんて滑稽なことだろう。みっともないことこの上ない。けれど私は、それでも私は……足掻く。たとえ屈辱を身に宿そうと。
平穏に浸ってはいけない。絶ち切るのはこの刃、いずれ私の手で。その先に待つのは人として生きられる道、家族から与えられる赦しだと信じて私は足掻く。
一つは机に向かって本を読んだり、先生役のあやかし(主に藤代)から講義を受けている。
戦うための術しか教えられなかった身では長時間机にかじりつくのは苦痛かと思いきや、藤代の教え方は上手く、教わり慣れていない私にも飽きさせまいと趣向を凝らしているのが伝わる。それも相まってか、さらに深く知りたいと欲が生まれるばかりだった。
あやかしに教えを請うなど情けないと、最初は私もそう考えていた。けれど約束したからには守るのが人間の義務というもので……。
葛藤を抱きながら始まった講義だが、私がいかに物を知らず、知らなすぎるかを思い知らされた。それを馬鹿にされようものなら、こんなにものめり込むことはなかっただろう。もっと反発していたかもしれない。けれど藤代は一度たりとも私を馬鹿にすることはなかった。それどころか呑み込みが早いと感心するばかりで、気がつけば私は勉学にのめり込んでいた。
講義が終われば凝り固まった体を解すように稽古が待っている。これについては説明するまでもないだろう。これまでしてきたことと変わらな――いや、これも違っていた。
相手がいるだけでもかなり違う、というか大違いだ。それも私を強くしようという感情が伝わってくるのだから。
私は藤代から型というものを指南され、互いに攻撃を打ちあうことが多かった。幸か不幸か、彼もまた朧同様強敵のようだ。そうしてつくづく思い知らされる。勉強から何もかも、私はあやかし相手に遠く及ばないのだと。
この数日は穏やかな毎日が繰り返されるばかりだ。
あれから何日経ったのか、今では暦の読み方も教わり今日が何月何日なのかもわかっている。ここで暮らし始めてから一週間ということになるらしい。
いつ終えるかもしれない日々を過ごしていた私にとっては生まれ変わったように新鮮だ。当たり前のように今日が平穏に終り、当然のように明日が訪れる。温かい食事が運ばれ、柔らかな寝床が用意されているのだから。
そんな毎日を過ごせることを……私は嬉しく思い始めている。
でも――
「熱心だな」
稽古前、高い空を見上げていた私は一瞬にして現実に引き戻された。顔をしかめて振り向けば、屋敷の主である朧が穏やかにこちらを見つめている。
「朧……」
狩るべきあやかしの名。彼の顔を見る度、嫌でも思い出さざるを得ない。私の役目は人としてあやかしを狩ること、決して忘れてはならないと語りかけるのは私を育ててくれた人。全てはあやかしを狩るための仮初、この日々を絶ち切り認められるためにしていることなのだから。
「何か用が?」
「用がなければ会いにきてはならないのか?」
「え?」
これまで用件もなく自分に会いに来る奇特な者はいなかった。だからつい理由を探して身構えてしまう。
「あ、いや……そうしてほしい」
当然だ。あまり顔を合わせていたい相手もない。
「何故?」
「何故?」
繰り返すように朧の後に私の声が続く。朧は用がなければ会いに来てほしくないという理由を問い、私は何故その理由を問うのかと問う。
私が答えやすいようにとの配慮か、朧は先に自らの理由を語りだした。
「用など、なくても訪ねるに決まっている。俺が君に会いたいから、とでも言えばいいのか?」
さらに何故と聞き返したくなったのはさておき、私も自らの理由を模索し始めていた。
考え、思考に悩まされることが増えていく。その度に思い知らされる。定められるままに刀を振るうことがどれほど楽だったかを。まるで人形のように意思はなく、ただ命令に従うだけの駒。
「椿?」
朧が私の名を呼ぶ。
私は、椿は――
その名を与えられてから考えてばかりだ。もう人形ではなくなっていた。求められもしなかった私の意見が求められている。何も口にしなければ朧は更に追求するだろう。きちんと言葉で伝えなければならない。
「お前は、私の心を乱すから」
「なんだと?」
何の答えにもなっておらず、そしてまた私は考える。沈黙を選べば勝手に名付けてしまうような相手である、考えることを止めれば朧のいいように流されてしまうのではと危惧した。
根底にある『狩るべきあやかし』ということはすでに朧とてわかっているはず。ならば提示すべきは別の理由か……。
朧からの質問には毎度悩まされてばかりだ。それは己の未熟さを実感させられるということで悔しかった。
「そうか!」
「どうした?」
何故、その答えはおそらく――
「お前は会うたびに何故と、私が返答に困ることばかり聞く。その度に自分の無知を実感させられるのは不満で、だからあまり会いたくはない」
「なるほど、可愛い奴だ」
ようやく絞り出した回答だと言うのに、一瞬にして無駄なことをしたような気分に陥った。
「……どうしてそうなる」
「どうしても」
朧の笑みは常に憎たらしい。あやかしでありながら人のように美しく、見透かすような眼差で見つめられるから。
「もう、いいでしょう。私は稽古に移る」
ここまで答えたのだ、十分だろうと私は刀を抜いた。
この刃で今すぐ朧を斬りつけたら?
そんなもの答えは明白、返り討ちにあって終り。既に襲撃に失敗したことがあり、ひらりとかわされた経験談である。
「美しい刃だな」
「自画自賛?」
宣言通り、この刀は朧から送られたものだ。けれど、どこが美しい刃なものか。曇り一つなかった刀身も、私が握ればかつての愛刀のように黒く染まってしまった。それでも自らの目利きを褒め称えているのかと呆れ半分に聞いていれば――
「いや、黒い刃が美しいと思ってな」
「こんな闇色が?」
彼らは闇を好むのかもしれない。私は好きになれそうにないけれど。
「何にも染まらない美しさだろう」
「他者を浸食する忌むべき色。お前の言う美しさとは無縁だと思う」
「そうか、つくづく俺たちの意見は食い違うな」
「当然」
お前はあやかし、私は人間なのだからそれでいい。
藤代が来てくれたおかげで私の稽古が始まり、無意味な会話を切り上げられると思った。けれど打ち合いが始まっても朧が引き上げることはない。それどころか縁側を陣取っている。
「――で、どうして朧はそこにいる?」
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「では誰のために励んでいる?」
「……お前を狩るため!」
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「ああ、俺のためだな。良い返事を聞けて嬉しいよ」
実に不毛なやり取りだ。
「朧様、あまりからかわれては……」
藤代が朧を諫めてくれるけれど遅い。我慢の限界とばかりに私は打ち攻撃を放ち続けた。怒りも上乗せされた今日一番の反撃になったことだろう。
「矛先を向けられるのは全てわたくしなのですが!」
叫びながらも態勢を崩さない藤代はさすがだ。まだ私が勝てる相手ではない。
「椿様、打ち込みの強度が増しましたね。愛しい相手のことでも思い浮かべていらっしゃるのでしょうか!」
「ほう、それは焼ける」
藤代が指摘すれば朧は平然と言い切った。
「今に見ていればいい!」
「楽しみにしているよ」
穏やかに一日が過ぎて行く。一日でも早くこの連鎖を経ちきるため、私は必死に刀を振り続けた。
そう、理解などしてはいけない。彼らはあやかし、私は人間。理解などあってはならない。
狩るべき相手の庇護下、生きるための術を学ぶ。なんて滑稽なことだろう。みっともないことこの上ない。けれど私は、それでも私は……足掻く。たとえ屈辱を身に宿そうと。
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