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「お初にお目にかかります。メレ様を幸せにし隊代表ノネットです。一番の使い魔で、人間風に言えば側近だと思ってください」

「オルフェリゼ・イヴァン。伯爵家の長男だ」

 名乗られた手前、同じように自己紹介をする。後に思い返せば何をやっているのかと呆れなくもないやり取りだった。

「ほほう、家柄良しというやつですね。我が主も伯爵家の出身ですし、釣り合いがとれますね」

「なるほど、伯爵令嬢か……。ところで彼女は俺にとって有益か?」

「と言いますと?」

「俺は家族を大切にしている。仲良くやってくれないと困るし、ある程度自分の身は自分で守れると助かる。なおかつ伯爵夫人として相応の振る舞いを要求したい。知識と常識は備えて当然だが、時に度胸も必要だ。あとは――」

「まだあるんですか?」

「俺を裏切らないことが大前提だ。そして貴族連中だけでなく、民からも愛される人であってほしい。それと――」

「まだあるんですかぁー」

 呆れかえる相手に向けてオルフェはこれで最後だと前置く。

「そこそこの愛情を注げるほどには可愛げがあると、なお良い」

「それは難題ですね。でも……」

 にやりと鏡の中で唇が歪められる。

「僕らのメレ様をなめないでいただきたい!」

 きりっとした表情が鏡の向こうで言い切った。

 そこまで言われては実物を拝むのも一興、是非にと返せば作戦会議の日時を告げられる。それは深夜と呼べる時間帯だった。なんでも本人には秘密裏に話を進めたいらしい。いわく、計画が露見すれば実行までに握り潰されるというので、ますますどんな相手か見極めに困った。

 いつ出会いの場を設けるか、どうやって資質を試してやろうか、さっそく考えを巡らせていると知らず口元が緩んでいたことに気付く。

 まだ出会ってすらいない相手に期待でもしているのか?

 静寂を取り戻した部屋でオルフェは贈られた姿映しを眺める。鏡の前に手をかざし、説明された通り軽く撫でるような仕草をすれば映る姿が変わった。
 一映しだけではメレ様の魅力は伝わらないから――とか何とか言われて違う場面も送られていたことを思い出す。だから先に言っておく。けっして知り合いでも何でもない女の姿映しを眺める趣味があるわけではない。

 オルフェは思考を中断せざるを得なかった。

 やけに饒舌になっていないか?

 口では他人に負けないつもりだが必要のない場面ではさらりと受け流す主義だ。それを必死になって心中でも弁解するとは――

「まさか、な」

 見惚れたなどあり得ない。
 それなのに考えるほど胸が躍る。どうやらこの相手には少なからず興味を引かれているようだ。

「会うのが楽しみだぜ、メレディアナ」

 これだけは素直に認めても良いだろう。


 伯爵がまだ見ぬ魔女に焦がれている頃、何も知らぬ魔女は夢の中にいた。
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