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 渦中の二人はそのまま話し込むつもりのようで、メレは口の動きに注視する。

「メレディアナの友人、ということは貴方も?」

「違うよ。俺は、もっと普通。……吸血鬼」

「吸血鬼?」

 先ほどの演目を連想したのか、オルフェは普通じゃないという表情をしていた。まったくだとメレも同意する。

「先ほどの、人間の血を吸うという?」

「伯爵、疑わないの?」

「魔女に精霊が存在するなら吸血鬼がいたって驚きやしません」

(確かに……)

 新鮮な反応にキースも驚きを隠せないらしい。

「そっか……。あ、でも安心して。俺、血が欲しいと思わない性質だから。俺の呪いは、メレディアナが引き受けてくれた」

「呪い?」

「伯爵、知りたい?」

「教えてくれるのなら」

「俺は勝負、してないから。なんて、怒られるかな。……ねえ、魔女って珍しい?」

 珍しいどころか人間の間では空想上の存在だ。

「面白半分でメレディアナに構うなら、俺、許さないよ」

 キースらしからぬ好戦的な物言いである。メレは少なからず感動を覚えていた。

(そうよ、それが真の吸血鬼への第一歩!)

「彼女のことが、好きなのか?」

 それに対してオルフェの返答がこれだ。見事に真剣な空気を台無しにしてくれた。そんなわけがないだろうとメレは盛大に呆れ果てる。

(ほら、キースだって呆れて――)

「うん。好き」

 思わず手にしたグラスの中身が揺れた。

「友達? 親愛、信頼? なんだろ、なんだっていい。そんな言葉無意味、彼女は恩人だから。俺には眩し過ぎて、良い奴で、ていうかお人好しレベル。いつも自分が傷ついてばかり……」

(キース?)

「俺は人が怖い、引き籠り。それで吸血鬼とか、わけわかんないよね、設定……。人に近付くのが嫌だ、血なんて吸えない。だから、メレに助けを求めて……」

 助けて――

 かつて泣きながら縋りつく赤い瞳の吸血鬼がいた。
 闇に生きる者の恐怖も威厳もない。ただ境遇に涙し、どうすることも出来ず、彼は苦しんでいた。
 救いを求め、誰にも頼れなかったと語る姿は自分を見ているようで、見捨てられなかった。お人好しと呼ばれても仕方ない自覚はある。
 判断を誤ったとは思わない。キースは現在も傍にいてくれるのだから。
 たとえ自慢の髪が白く染まろうと、友人を助けられたのならこの先もメレが後悔することはないだろう。

「これ以上は、さすがに怒るかな?」

 力なく笑ったキースと視線が交わり我に返る。

「視線が痛いや。ごめんね、伯爵。続きは内緒」

 下ばかり見ているはずのキースが前を向いている。最初から気付かれていた。それを承知で語っていたのだ。

(キースのことを勝手に決め付けていたのはわたくしだった)

 急なお願いにも応えてくる。自分の意思を主張も出来る。そんな頼れる友人だった。

「彼女は、優しいんですね」

 キースは目を丸くしてから小さく頷いた。敵からの評価に本人も目を丸くしているところだ。

「なんか、嬉しい。メレディアナのこと、そんな風に理解してくれる人、いるんだ」

「俺たちも仲良くやれそうじゃないか?」

「そう、だね。伯爵とは……友達になれそう、かも」

 これもメレが繋いでくれた縁だとキースは控えめに笑う。心配は杞憂だったとメレは探るような行為を止め、素直に幸せに浸ることにする。
 微笑ましい気持ちを胸に華やかな会場を眺めていれば、そんなメレに飲み物を差し出す人物がいた。

「あら、気が効くのね」

 熱中していたせいでグラスの中身は温くなっていた。

「本日の功労者様ですから、さぞお疲れではないかと思いまして」

「それは貴方もでしょう」

 しかも彼は続けて演奏を披露した後だ。トレイ片手に会場を回るラーシェルを労った。

「メレ様の活躍には及びません。感服いたしました、色々と。その立ち回り、ぜひ今後の参考にさせていただきます」

「こちらこそ、素敵な演奏をありがとう」

 ラーシェルの演奏はメレが勝つために華を添えてくれた。であれば反論は飲み物と共に飲みほそう。

「余興もさることながら、主とのワルツは見事なものでした。華麗なワルツのはずが、戦いの演武のようだともっぱらの噂。周囲は美男美女のカップルに見惚れど、当の本人――主に女性の方はまるで仇を見つめているようだと」
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