上 下
30 / 58
5、優しくって、ひどいひと

ふたりでお茶を

しおりを挟む
「あんたさあ。そんなんだから愛想つかされたんじゃねーの?」

「え?」

「だから……誠さん、だよ」

 何でこの流れできょとんとしてられるんだ。瞬はイラッとした。

「……ああ」

 伸幸はスポンジを持ったまま肩をすくめた。

「『そんなん』って?」

「連絡くらいしろってこと。驚くじゃんか、予定も何もあったもんじゃないし」

 メシが終わって伸幸がそれを片づけて。

 その横で、瞬は湯を沸かした。

 こうかいがいしくされちゃ、茶でも淹れないと落ちつかない。

「連絡な。俺の苦手なヤツ」

 伸幸は洗った食器をふきんで拭きあげながらニヤリと笑った。

 その横顔はまた瞬をイラッとさせる。

「だろーね」

 やかんがピーと鳴った。

 瞬は茶葉を入れた急須に湯を注いだ。伸幸の腕にはねないよう、ゆっくりと。

「俺の番号教えたろ? ショートメッセージでもいいんだからさ」

 無精にもほどがある。

 瞬はむっとしたままカップに茶を淹れ、台所を離れた。

 背後で伸幸が小さな食器棚に皿をしまう音がする。

 かちゃかちゃ。ことり。からから。

 懐かしいような、小さな頃を思いだすような。

 生活の、音だ。

 この部屋にいるときは、瞬の手料理を食べるために、伸幸はいそいそと買いものをしたり、食器を片づけたりする。

 瞬にも優しい。

 なぜだか瞬の顔を見ると、いつもにこにこと笑っている。

 なのに、一旦部屋を出ると、次にいつ戻ってくるのか分からない。予定も知らされないし連絡もない。

「ごめんな。俺、ひとつのことに集中すると、ほか全部忘れちゃうから」

 伸幸は瞬の淹れた茶のカップを持って、しゅんとしおれた。

「まあ、どうせそうなんだろうね」

 瞬はカップを持ってない方の肘をテーブルについて、そっぽを向いた。

 瞬の背中が温かくなった。

 伸幸が瞬の背に寄りかかっていた。

(抱けば何とかなると思ってんのか)

 瞬はまた何か毒づいてやろうと思って口を開いた。

 なのに。

「あんたは……優しいのか、ひどいヤツなのか、どっちだよ」

 カップをテーブルに置いて、伸幸は瞬の身体に腕を回した。

 瞬の指から瞬のカップを取り上げて。

「さあ……どっちかな」

 伸幸は「俺にもよく分からないよ」と呟いて瞬の首筋にキスをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。 そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。 前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

神様夫婦のなんでも屋 ~その人生をリセットします~

饕餮
キャラ文芸
鬱蒼と茂った森の中にある神社。霊験あらたかなその場所の近くには、不思議な店があった。 昼間は人間が、夕方になるとあやかしや神々が遊びに来るその店は、なんでも出てくるところだった。 料理や駄菓子はもちろんのこと、雑貨や食器、鍋や文房具まである。そして食料も――。 中性的な面立ちでアルビノの店主と、一緒に同居している左目に傷を持つマスターと呼ばれる男、そして猫三匹。 二人と三匹をとりまく店は、今日もそこに佇んでいる。 もしもその店に入ることができたなら――その人生をやり直してみませんか? 一話完結型のオムニバス形式の話。 ★夕闇の宴はあやかしサイドの話です。

【完結】終わりとはじまりの間

ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。 プロローグ的なお話として完結しました。 一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。 別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、 桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。 この先があるのか、それとも……。 こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

とある村での半農半勇てげてげライフ

サチオキ
ファンタジー
朝と夕方は農業に従事し自給自足をし、昼は剣と飼い犬を携えてモンスター退治にでかける「半農半勇」勇者(都会出身)と、それを追いかける「半人半猫」のローカル新聞記者(地元在住)を中心にした作品です。 / ×異世界転生はしていません。彼は生まれた時からこの世界の住人です。 ×追放されていません。彼は自分の意志でここでの暮らしを選びました。 / 「勇者」ってなんだろう。 「一人前」ってなんだろう。 一緒に考えていける作品になったらよいです。 毎週土曜日更新です。 / 〇「てげてげ」とは「適当」「いい加減」という意味の宮崎弁です。 〇「半農半X」は塩見直紀氏が1990年代から提唱している、現実世界におけるライフスタイルです。詳しくは近況ボードをご覧ください。 〇表紙・挿絵は「ムクロジ」さん作成です。 / ムクロジさんのTwitterIDはこちら→ ムクロジ@PR2r11 / ムクロジさんのSKIMAプロフィールページはこちら→ https://skima.jp/profile?id=278867&sk_code=sha09url&act=sha09url&utm_source=share&utm_medium=url&utm_campaign=sha09url

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...