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番外編【秘密の玩具箱】中

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 高校を卒業して入った【DPV】業界、最初のうちはアダルト向けではなく、軽いPlayだけの物だったがそこからアダルト向けへ移され、最終的にはダイナミクス向けではないAVにまで出演するようになった。
 当初Subの相手をできるならと受け入れた冬真だったが、後々自分の考えが甘かったことに気づかされた。
 冬真の所属していた会社はしっかりと登録されている場所で、所謂違法と言われている場所ではなかった。
 冬真の他にも王華学校の卒業生が在籍しており、受け身となってしまう側に配慮をしていた。出演していた受け身の人々も借金や無理矢理などではなく、自分の意思でそこにいた。
 むろん、本心からかはわからないが少なくとも会社が強制した物ではなかった。
 ただそれは、あくまで会社が強制していないだけで、なかにはパートナーであるDomに強制された人や夫や恋人に強制された場合、さらには力也のように借金の為に働いている場合もあった。

 冬真には理解しにくいが、自分の大事な人を他の奴に貸し出すことで興奮する者もいれば、憐れで惨めな姿を楽しむ者もいる。挙げ句の果てには自分のものだからと、体を売らせそのお金だけを貰う奴もいる。
 そんな相手に従っている人々は、多くが何故か口をそろえたように“役に立てて嬉しい”と言うのだ。
 冬真はそれが納得できず、人ごとだからと割り切ることもできずにいた。その為に、同じく王華学校の卒業生である仲のいい先輩に当たったこともあった。

「センリさん! 俺もう我慢できそうにないです!」
「落ち着け、吠えるな。グレアを抑えろ主演の子達が怯えるだろう」

 怒りに駆られた冬真は、同じ王華学校出身のセンリに詰め寄っていた。その体からは少量の攻撃的なグレアが漏れその苛立ちを周囲に知らしめていた。
 そんなこの場にいるのは冬真とセンリ、それに汁役と呼ばれる名もない攻め側のキャスト数人だけだ。
 冬真がこうなってしまった原因でもあるSubの子は別室で待機している。

「すんません。でも、俺もう耐えきれないんです。なんであんなに頑張っているのに、ボロボロのままなんですか。帰ったらご褒美もケアもあるって言うから俺そのまま帰してるのに」
「それは俺だって同じ気持ちだ」

 二人がもめているのは本日撮影をするSubの事についてだ。比較的キツい内容でも受け入れる彼は、ハードな撮影によく呼ばれている。
 ハードな撮影は肉体的にも精神的にも負担が大きいが、その分出演料はいい。金がいいからと言って割り切れるかと言われれば、難しいところだが、これも仕事のひとつでもある。
 本人達も割り切っているはずだ。例え、パートナーに望まれているだけでも、それなりに自分の意思でやっている。
 中には出演料がいいと、パートナーが喜ぶからとわざとハードな内容を選ぶ人もいる。その分ご褒美が貰えるから構わないと本人達は言っている。
 彼もそのタイプだった。頑張ればその分ご褒美貰えるし、ケアもして貰えるからと言って撮影後のケアを彼は断っていた。
 この会社では、撮影後受け手の子が望めばケアや、ちょっとしたご褒美として食事を用意してくれたりする。ハードな撮影をした後のSubなどは、望めば冬真達Domがケアをして甘やかす事もできた。
 責めるのが好きだと誤解されることも多いが、責めるだけでなくSubを甘やかしたいという欲求を持つDomも多く、撮影後のその時間を楽しんでいるDomもいる。
 だが、それも本人が望まなければどうしようもない。

「ご褒美もケアも貰っているって言ってましたよね」
「言っていた。実際まったくやってないと言うことはないだろうがな」

 そうおそらくケアをしてはいるのだろう。だが、それが冬真達からみると足りていないのだ。
なぜそう思うのかと言うと、まずは彼の表情だ。憔悴した顔つきに、目の下の隈、どこかいびつな動きをする口元、そしてDomを求め縋るような瞳。
 それだけではなく、体もどこか力の入っていない。さらには冬真達が発するグレアに対する反応もおかしい。
 冬真達DomはSubの子達に影響がでないようにグレアをいつもは抑えている。コマンドを使い、少し油断しただけで漏れてしまう撮影中も、なるべく漏れないように抑えている。
 漏れたとしても、影響が残らない程度に抑えられたそのグレアは、低ランクであっても耐えきれるほどの物だ。それなのに、彼はその影響を受けていた。
 今回は昨日と今日の二日間の撮影だった。冬真はある疑惑を持っていたのだ彼は昨日の分のご褒美とケアを貰っていないのではないかと。

「Bランクなのに、Dランクぐらいになってるんだ。ケアとして不十分だって事だろ」

 ハードな撮影とケアが釣り合っていないのだろう。彼は来る度に憔悴し、次の撮影までのサイクルも早く、その体には傷もあった。
 出演料は多い筈なのに、期間を空けずにまたハードな物を撮ろうとする。うまくやっている受け身の子は休憩も入れながらハードな物とソフトな物を交互に撮っているのに対し、彼はハードな物ばかりを続けて撮る。
 金目当てのDomに指示されているのもあるかもしれないが、おそらく彼は自分で望んでいた。ハードな内容を撮るとケアを貰えご褒美を貰える。足りない状況だから期間を空けずにさらに撮影を入れているのだろう。
 だが、既に足りていない状況で更にハードな撮影をすることは、状況を悪化させるだけだ。
 頑張ってケアやご褒美を貰っても、前回の分が足りていないのだから、足りない分が増えていくだけだ。
 撮影が終わったのだから、今日はご褒美もケアも貰えるとは思うが、それが足りないのだ。

「相手のDom呼び出す事ってできないんすか?」
「緊急連絡先として登録されている筈だから連絡は取れると思う。来るかどうかはおいといてだが」
「じゃあ、押しかける」
「落ち着けって言ってるだろ」

 この会社には他にもDomがいるのだが、AランクDom同士の言い争いに巻き込まれたくなくてこの部屋には近寄ってこない。一番被害に合いそうなSubや受け手の子達は別室にいるため、肩身の狭い想いをしているのは汁役の男達だけだ。
 それでも逆上したDomのグレアは不安定になっているSubには毒だ。

「・・・・・・じゃあ、今日は俺が家まで送ります。送って一言言います」
「ダメだ。お前を行かせる訳にはいかない」
「何で!」
「今のお前じゃ、相手を潰す可能性がある」
「それのどこが悪いってんだ。SubにまともなケアもできないDomなんか潰れればいい」

 元々、仲のいい伯父達のような関係に憧れ、王華学校でSubを大切にすることを学んだ冬真の結論はそれだった。冬真はDomに対しては非常に狭量だった。

「それは確かにそうなんだが、やり方ってもんがあるだろ」
「やり方ってなんですか! そんなこと言ってるから悪化するんだろ!」
「いい加減話しを聞け、冬真」

 その言葉に冬真は一瞬息を飲んだ。王華学校では先輩後輩、教師生徒の間で圧倒的な力の差を見せつけられ上下関係が厳しい。今目の前にいるセンリは冬真にとって一つ年上の先輩だ。普段は人当たりのいい人で、友人として接しているがこういうときは別だった。

「すんません」
「俺だってどうにかしたいと思ってるんだ。でも俺たちだと経験値が足りないんだよ。とにかく、今回の撮影を終えたら、そういうのが得意な人に連絡するから」

 その時控えめに控え室のドアがノックされた。

「そろそろ始めるぞ」
「わかりました」

 受け手の準備が整ったのだろう、声をかけられ冬真達は慌てて控え室をでた。
 撮影は比較的順調に進んでいた。既にあった傷をうまくごまかし、内容を一部変更し少しだが負担を減らした。本来は今回の撮影にはセンリは出ないはずだったが、いざと言うときに備えて後方で控えていた。
 
「よろしく・・・・・・お願いします」
「あ、ああ。よろしく」

 撮影前に、挨拶した時にグレアをあててしまったこともあり冬真は少し気まずそうに返事をした。何度も経験している筈なのに、小刻みに震えているように見える肩は万全の状態には見えない。

「大丈夫、大丈夫だから俺に任せろ」
「はい」

 心配のあまり、台本にない優しいグレアとDomらしい言葉で元気づける。少しだけ彼の表情が落ち着いた気がするが、逆に縋るような、怯えたような複雑な視線を向けられた。
 グレアを発することで少しでも楽になるのならばと思い、グレアを発し続ける冬真にセンリは何か言いたげな表情を浮べていた。
 それでも撮影は進んでいき、長めの1シーンを撮り終えた。

「冬真」

 短い休憩に入り、センリに呼ばれたが冬真はそれを無視し彼に水を手渡した。

「頑張ったな」
「ありがとうございます」

 素直に水を受け取ったものの、彼は飲んでいいのか迷うような表情を浮べていた。そんな彼に向かい冬真は促すようにグレアをあてた。
 グレアもケアも不足していた彼にそれがどれほどの効果があったのかはわからないが、次第に彼の状況は落ち着いていった。
 しかし、それとは対照的にどこか焦っているかのように彼は撮影を進めたがった。通常1シーンごとに休憩をいれ昼食や軽食を挟んだりするのだが、それを省いて先に進めようとしていた。
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