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神月家【サプライズ計画】
しおりを挟む多頭飼いと聞くと不純なイメージや可哀想なイメージを抱かれるときがある。一夫一妻が通常のこの国では、複数の相手を持つと言うのが異常だと思われるからだろう。
だが、昔はこの国も一夫多妻であった事がある。それが大奥だ。
血を絶やさぬ為、多くの女性を囲い、日替わりで相手をしていたらしい。男からすれば夢のような暮らしかもしれないが、トップに立つが故の義務もあっただろう。
むろん、女性からしても、上に上がればしがらみも増え、愛に惑わされず割り切り、他の女性達と手を組む者も多かった。
ダイナミクスの多頭飼いも似たような物がある。一対一よりも一体複数の場合が楽だというSubもいるのだ。
元々仲間意識が強く、争いごとも、競いごとも好まない性格のSub達は不安がなければそれでいい。とくにご主人様が決めたことならば、それがただしいと思いがちだ。
自分一人だけを愛してくれるわけではなくとも、自分を含め愛してくれるならばそれでいいと満足してしまう。謙虚で従順、それがSubの特徴だ。
とはいえ、別に我慢しているわけではない、Sub達は純粋に仲間を仲間だと認めているだけだ。彼らにとって仲間が増えようとも、自分とご主人様の関係が変わらなければそれでいいのだ。
「ただいま」
仕事の為に一番最後になってしまった辰樹は、慌ててリビングへと入った。リビングにはマコ、結衣、明美、浩の四人のSubと、幼い光輝が揃って食卓を囲んでいた。
「遅くなってすまない」
「いえ、お仕事お疲れ様です」
「おかえりなさい」
「おかえり辰樹さん」
食べるのを待っていてくれたらしい仲間達に、お詫びとお礼をいいながら辰樹は席に着いた。
食卓に並べられた料理はまだ温かい、ここにくる前に辰樹が連絡をしていたのでそれに合わせてくれたらしい。食べてくれていても良かったのに、幼い光輝の食事を手伝いながら待っていてくれたらしい。
「結衣くん、これを買ってきたんだが」
「ありがとうございます」
仕事の合間に買っておいたシュークリームを結衣に渡し、五人は食事を始めた。
今日は五人のご主人様である傑は泊まり込みの為マンションに帰ってこない。連絡ぐらいはあるかもしれないが、撮影が夜まであるらしいから電話はないだろう。
そんな夜に五人が集まったのは、ちょっとした話し合いのためだ。
「ごちそうさまでした」
「はい、どういたしまして」
先に食べ始めていた為真っ先に食べ終わった光輝は、そう言うとテレビの前に移動した。
「結衣くん、また腕を上げたね」
「ありがとうございます」
「結衣、どんどんいいお嫁さんっぽくなってるよね」
「そんな・・・・・・」
「あたしもそう思う」
「明美さんまで」
実際結婚して子供までいる明美にそう言われ、結衣はどうしていいのかわからないかのようにそう返した。
普段は別々の場所に住んでいる五人だが、こうして傑の家に集まることはよくある。傑が集めることもあるが、個々に集まり話すこともよくある。
特にここ最近は、明美が第二子を妊娠していることもあり、お手伝いなどで明美たちの家に行ったりもしている。
気を置けない仲間同士、光輝の世話や家事など率先してやっているのだ。
「明美さん、つわりはどうですか?」
「今回は前回ほど酷くないから、大丈夫だよ」
「よかった。具合悪くなったらすぐに言ってね」
「ありがとう」
「光輝は俺がお風呂にいれるよ」
なにもやらなくていいからゆっくり休んでいいと、言われ明美はお礼を言った。実のところ、こうなるのは今日だけではない。夫である浩はもとより、結衣やマコも頻繁に色々手伝ってくれている。
特に具合が悪いときには光輝の保育園の送り迎えもその後の相手もしてくれていた。唯一、辰樹は仕事が忙しく手伝いにくるのは難しかったが、気にかけていてくれるのは伝わっていた。
むろん四人だけでなく、傑も気にして具合を見に訪れ、少しでも楽になるように色々と考えてくれた。
気を置けない人々からの協力のおかげで自分は恵まれていると思っている。
「そういえば辰樹さんの方はどうなの? お見合いの話し来てるんだよね」
「年齢も年齢だから、相変わらず来てはいるんだけど、どうにも気が進まなくてね。傑さんは好きにしていいと言ってくれているんだが・・・・・・」
「いっそのこと反対してくれれば楽ってことか?」
「ああ、君たちの時みたいに取り持ってくれればそれはそれで覚悟ができるんだけど。もしかしたら傑さんはまだ自分はつなぎだと考えているのかもしれないな」
元々辰樹はその社会的地位とSubのランクと多頭飼いという事を考えた上で、傑をパートナーと選んだ過去がある。むろん傑自身もそれを受け入れ、辰樹に協力をするということで今まで関係を続けている。
しかし、都合がいいだけの関係は既にすぎ、辰樹にとって傑は大切な主人となっている。
「あー、傑そういうとこあるよね。変なとこで鈍感ってか、頑固って言うか」
「想いは伝えているつもりなんだけどね。このままではいつかDomの女性からの申し込みがあったとき背中を押されそうで怖いよ」
都合がいいだろう相手が現れた瞬間、ご主人様の交代を言い出されるのではないか、辰樹はその絶対に受け入れられない内容を畏れていた。
「さすがにそれはないとあたしは思うけど・・・・・・」
「俺もそう思うよ。傑さんもSランクのDomだから、執着心も強いしなんだかんだ言って離さないんじゃないかな」
「そうだといいんだけど」
辰樹自身、そう簡単に手放されるとは思っていないし、自分もそんなつもりはない。ただ、口に出されるかもしれない、その可能性を考慮されるかもしれない、その事実だけでも嫌なのだ。
「大丈夫、傑がそんなウジウジ考えることがあったら皆でガツンと言ってあげればいいんだよ」
「皆で?」
「そうだよ。いい歳して物わかりのいいフリなんかしちゃって、格好つけるなら俺たちで言わないと」
普段可愛い可愛いとペットのように言われていても、DomがSubに敵わなくなるのはこういう時だろう。DomがSubの真実の姿を知り、弱みも強みも理解できているようにSubも自分のご主人様の真実を知り、弱みも強みも見ているのだ。
「確かにそうね」
「そうだな。なんなら今度の計画の時に一緒にいってみてもいいかもな」
「いいね、それ。せっかく皆で集まるんだから言っちゃおうよ」
「じゃあ、傑さんはせっかくの自分の誕生日に、皆に怒られちゃうことになるわね」
そうそもそも今日全員が集まっているのはもうすぐ訪れる傑の誕生日の作戦会議が目的だ。
「どうせ内容的には嬉しい内容なんだからいいの」
全員に怒られる事には違いないが、結局のところ辰樹が傑を選んだという事だとわかれば確実に喜ぶだろう。
「ねぇ、なんの話し?」
そんな話をしていると、テレビに飽きたのか光輝が寄ってきてそう尋ねた。
「傑をギャフンと言わせる計画だよ」
「ぎゃふん?」
「そうそう、今度ね、傑のお誕生日があるから皆で傑を驚かせてあげるんだ」
「おたんじょうび!」
ワクワクとした表情を浮べた光輝に、大人五人はニコニコと笑い返した。
「そうよ、光輝もお手伝いしてくれる?」
「おてつだいする!」
「よし、一緒に傑さんをぎゃふんと言わせよう!」
「うん!」
はりきるマコと明美と光輝の様子に、結衣は不思議そうに首を傾げた。
「サプライズバースディの話しです・・・・・・よね?」
「その筈なんだけど・・・・・・」
「驚かせるのはいいけど、どうするんだ?」
結衣と同じく苦笑を浮べる辰樹とは違い、浩も乗り気のようだ。
「どうしようか。辰樹さんなんか面白いアイデアある?」
「え・・・・・・隠れてて脅かすとか?」
「誕生日なのに、傑さん一人っきりにしちゃう?」
「誰もお祝いしてくれないと思わせてからの?」
「いいね。そしたら傑泣いちゃうかもね」
「傑さまがですか?」
明美に聞かれた辰樹のだしたアイデアに、乗ってきた三人の言葉に結衣はまた首を傾げた。どうも、結衣の中の傑のイメージと話しが結びつかない。
「傑ああ見えて、寂しがり屋だからね。お誕生日なのに誰もいないとか泣いちゃうかも」
「寂しがり屋・・・・・・」
「そうよ。寂しがり屋のかまってちゃんなんだから」
「傑さまがですか?」
「そうそう、結衣もそのうちわかると思うけどね」
やはり自分と、長い年月一緒にいる四人では違うのだろう。素の表情をだしていないと言うことは、まだ自分は心を許されていないのかもしれない。
そんなことを考えていたのが出てしまったのだろう、結衣の顔をマコと明美が心配そうに覗き込んだ。
「結衣ちゃん、そんな顔しないで」
「そうだよ。結衣が悪いとかじゃなくて傑が無駄に格好つけてるだけだから」
「・・・・・・」
「あー、もう辰樹さんに続いて結衣までこんな顔させるなんて! やっぱり傑には一度ガツンと言ってぎゃふんと言わせなきゃ!」
「そうよね! 俺の大事なSubって言ってるんだからしっかりして貰わなくちゃね」
更にその気になったらしい明美とマコの言葉に、浩は苦笑を浮べつつも頷き、結衣の肩を軽くたたいた。
「大丈夫、二人が本気になっているからきっと傑さんの本性を結衣も見れるよ」
「そうだよ。傑の情けないとこ結衣にも見せてあげるね」
「・・・・・・は、はい」
なにやらすっかり風向きが変わってしまったようだが、こうして傑のサプライズバースディは念入りに考えられ、後日計画通り傑にぎゃふんと言わせることができた。
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