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番外編【王華学園祭】後

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「冬真がエスコートした相手はフリーじゃなかった?」
「フリーだったけど、年下の女性だったんだよな。で、なんとなく?」
「タイプじゃなかったか」

 Subなら皆可愛いというのは変わらないが、触手が動かなかったのはおそらくタイプではなかったのだろう。
 そんなことを話しながら、買ってきた物を食べ終わり二人は立ち上がった。

「よし、後はどこ行きたい?」
「とりあえず一通り見て回りたいな」
「了解」

 校舎内でも、生徒達が色々な出し物をしていた。定番のお化け屋敷や迷路などだけでなく輪投げなどのゲームができるクラスもあった。
 
「しっかし、どこ行ってもSubには甘いな」

 まさに接待と言いたくなるほどの大歓迎をされ、苦労せず景品を貰ってしまった力也は苦笑した。

「Dom科はな」
「そう言えばSub科はレンタルSubやってるんだよな?」
「ああ、一番人気のやつな。今までも何人かとすれ違ったけど気づかなかったか?」
「普通にパートナーだと思ってた」
「パートナーってこともあるけど、レンタルSubがほとんどだな。大人気だから、パートナーが決まってても参加してもらってるんだよ」

 30分という短い時間だが、Dom科のほぼ全員が何度でも申し込む為、Subはいくらいても足りない。混乱を防ぐため、当日はキャンセル待ちのみで本来は予約だった。

「数日前に予約とれるんだけど、それがまた戦争だったんだよな」
「予約って直接?」
「そうそう、体育館が予約受付になるから、授業終わりにダッシュするんだ」
「うっわ、凄そう」
「少しでも早くいこうとするからな。普通に皆廊下走るし階段も走り降りる」
「ヤバいな」

 その状況を思い浮べ、力也は呆れたように呟いた。あの勢いで、走ってくると考えると迫力が凄そうだった。

「って言っても30分しか楽しめないんだけど、とにかく誰でもいいからレンタルしたいって奴ばかりだからな。片っ端から予約とってくんだよ」

 一人一回と決まっていたが、手当たり次第に申し込むためSub科の生徒達は休憩以外は、大忙しだった。

「レンタルして皆なにするんだ?」
「学校内を回ったり、Playルームでのんびりしたりだな」
「のんびりって? Play?」
「そうだな。・・・・・・見た方が早そうだな、いってみるか」

 そう言うと冬真はPlayルームへ向かった。
PlayルームはレンタルSub用の場所になっており、受付の奥にはクッションなどや飲み物やぬいぐるみなどが置かれた遊ぶ用のスペースがあった。
そのスペースではSubの生徒達がDomの客と共にくつろいだり、軽い指示に従ったりしていた。それはちょっとしたドッグランやキッズルームのように見えた。

「いらっしゃいませ、Playルームのご利用ですか?」
「え?」

 感心しつつ見ていたら、受付のSubの生徒にそう聞かれ力也は聞き返した。先ほどの話しだと、予約していなければSubと遊ぶことはできない筈だし、そもそも自分はSubだ。

「Playルームは休憩場所としてパートナー同士で使うこともできるんだ。あんな感じに」

 意味がわからずにいると冬真がわかりやすく付け足してくれた。それと同時に指さされた方を見れば、明らかに学生ではない年頃のペアがソファーに座りくつろいでいた。

「学校内はごちゃごちゃしてるだろ? ここなら無駄に声をかけられる事もないからゆっくりできるんだ」

 確かに、学校内は楽しいがSubには視線が集まりDom達には声をかけられるため、確かに落ち着かない事もあるだろう。PlayルームにいるDom達はSubに視線を送ることはあっても、自分のSubがいる為それ以上は注目してはこない。

「なるほどな」
「で、どうする? 利用するか?」
「大丈夫」

 いくら声をかけられても、Sランクで抵抗力のある力也が疲れるほどの物でもない。それにのんびりするならば、家に帰ってからで十分だ。

「戻るか?」
「ああ」

 途中、剣道部の前を通った力也が興味を持ち覗き込んだことで体験に参加することになってしまった。

「りっちゃんさん、剣道の経験はあります?」
「一応」

 スタントマンとして殺陣にも参加していることを予想し、初心者だとは思っていないだろう口調で聞かれ力也は平然と答えた。
 撮影の殺陣は少し前にやったが試合をするのは久しぶりだった。現役で練習している学生達の相手になるだろうかと思いつつ、礼をとり構える。

「初め!」
「力也、Attack」【戦え】

 試合開始の合図と共に、冬真が発したコマンドで力也の体は自然に動いた。相手の剣を受け止め、はらうと畏れることなく前へと踏み出した。

「面!」
「一本!」

 旗があがり、見事勝利した力也はその勢いのまま、他の生徒にも勝利していった。

(やべぇ、震えるぐらい格好いい)

 その姿を見守る冬真は鳥肌が立つのを感じた。何かが駆け上がるかのように、体が震え目を離せなくなる。面の向こうにある力也の瞳が輝いているのがわかり、何故か胸が締め付けられるような気持ちさえする。

「ありがとうございました」

 あっという間に試合を終え、面を脱いだ力也は冬真を見て驚いた。

「冬真!? どうかした?」

 何故か自らの肩を抱きしめた冬真のその瞳からは涙が流れていた。慌てて走り寄り、どうしたのかと覗き込むと冬真は驚いた顔をした。

「え?」
「泣いてる」

 その言葉で自分の状態に気づいた冬真は心配そうに覗き込んでいる力也を抱きしめた。

「なんかあった?」
「なんにも・・・・・・ただ、力也が格好よすぎただけ」
「なんだよそれ」

 おかしそうに笑いながらも、なだめるように背中を叩かれその手と体の温かさにまた涙がこぼれる。

「力也、愛してる」

 愛情を込めたグレアと共に言われ、驚きながらもご褒美のように思えた力也は嬉しそうに冬真へ顔をすり寄せた。

 体育館に戻ると、力也達が出していた店にはすっかり物がなくなっていた。他の店も大分売れたらしく、客も少なくなっていた。

「お帰り」
「すみません、遅くなって。全部売れたんですね」
「売れたよ。これりっくんの分」

 そう言うと、力也の品物の売り上げをマコは渡してくれた。リサイクルショップに持っていっても二束三文で買いたたかれる物ばかりなのに、意外と売り上げがあった。

「ありがとうございます」
「子供食堂の方も手応えあったし、今日は大成功です」
「あ、じゃあこれも・・・・・・」
「いえ、大丈夫ですよ。そっちは力也さんの分なんで」

 寄付しようかと思ったのだが、あっさりと断れてしまった。結衣や彰も頷いているところをみると、ここは大人しく貰ったほうがいいらしい。

「せっかくだから、母さんにお土産か服でも買って帰ろう」
「そうだな」

 頭を撫でられ、ありがたく受け取ることにした力也はそれを鞄へとしまい込んだ。確かに、母の物があったのだから母の物を買って帰った方がいいだろう。

「俺たちはもう帰るけど、りっくんたちはどうする?」

 少し早いが、品物もなくなり特に用事もなかったのだろう。パートナーの傑がいない結衣とマコ達はもう帰るつもりらしい。

「冬真どうする?」
「力也がいいなら帰るか。寄り道もしたいし」

 同じく学園祭を堪能したらしい港達やミキ達も帰ることになり、個々に用事があるためそのままお開きになった。

「たのしかった」
「よかったな」

 母のお土産を探しながらの帰り道、上機嫌な力也へ冬真は笑みを返す。忙しかったが、今日だけでまた力也の新しい魅力が見えた。
 新しい事、新しい場所に行く度に力也は新たな魅力を見せてくれる。無論、何気ない日々を送る姿も魅力的な姿なのだが、新しい事に挑戦するときの力也の瞳は凄く楽しそうに輝いていて目を離せない。
 目を離せばどこかに飛んでいきそうなその姿が冬真にとっては、力也の魅力だった。
 不安にならないのかと聞かれそうだが、そんなことはない。力也はかならず自分の元に戻ってくるという自信が冬真にはあった。
 時には新しい事、楽しい事に目移りして、こちらを見ていない時もあるかもしれない。それでも必ず力也は戻ってくる。
 それでももしいつまでたっても戻ってこなければ、呼べばいい。
 焦る必要はない、力也の中には必ず自分がいる。どんな時も力也は冬真の物であり、それは多少離れたところで変わることはない。
 だから、沢山楽しめばいい、好きに動けばいい。楽しそうなその姿を見つめていたい、冬真はあらためて今日そう思った。
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