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番外編【放し飼い中】後
しおりを挟む保護施設をでて、次はどこに行こうかと思いながら適当に歩く。ジムに寄ってみようかと思った時、“ガシャン”となにか大きな音が聞こえた。
なんの音だろうと振り返ってみると、二人の男性がもめているのが見える。いや、もめているというより一人が詰め寄られていた。
「なにしてくれるんだよ!」
「ごめんなさい!」
聞き覚えのある声に近づいてみれば、詰め寄られている方は、ミキだった。辺りには酒の匂いが充満し、道にはガラスの破片が落ちている。どうやら酒の瓶を落として割ってしまったらしい。
「かかったじゃねぇか!」
「ご、ごめんなさい」
「謝って済むわけねぇだろ! 弁償しろ!」
激高する男の様子に、ミキはガタガタと震えていた。あまりの勢いと怯えように一瞬男がDomかと思ったが、そうではない。
「ミキ、どうしたんだ?」
「力也さん!?」
「ああ?」
ミキに詰め寄っていた男は、力也の声に睨むようにこちらを見た。しかし、次の瞬間目を見開き顔色を変えた。
「なんかすごい音聞こえたけど、瓶割っちゃったのか?」
そんな男の様子には気づかず、力也はミキの傍に寄るといつも通りの様子で話しかけながら男の服を確認した。確かに服にかかっているが、それほど酷いようには見えない。
それよりもミキの方に大分かかっている。
「う、うん・・・・・・」
「そいつがぶつかってきたんだ!」
「とりあえず落ち着いてください。かけちゃったのは事実なんで、クリーニング代を出します」
先ほどとは違いなにか焦っているようになっている男に、力也は千円を差し出した。ズボンだけなら十分足りるだろう。
「・・・・・・チッ、てめぇのSubならしっかりしつけとけよ!」
不満そうに見えた男は舌打ちをすると、その金を持ち立ち去った。
「なんか勘違いされた。・・・・・・ミキ、大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
「丁度通りかかって良かったけど、なにがどうなったんだ?」
詳しく聞いてみると、どうやら珍しい酒をみつけて買って帰ろうとしたはいいが重たくて、ゆっくり歩いているとさっきの男性に後ろからぶつかられたらしい。
その所為で酒を落としてしまい、更にその男性の服にかかってしまい、先ほどの騒ぎになったと言うことだった。
「ぶつかってきたのアイツかよ」
「フラフラしてたので、邪魔だったんですよねきっと・・・・・・」
「普通に追い抜かせばいいのにな」
不安そうな様子に、頭を撫でればミキは安心したように息を吐いた。
「ありがとうございます。力也さんが来てくれて助かりました。いつもはどうしていいかわからないので」
「こういうことってたまにあるのか?」
「肩をぶつけられるとかはたまに・・・・・・ここまでのはあんまりないんですけど」
さすがにターゲットになりやすい自覚があるのだろう。苦笑を浮べる様子に、力也は息を吐いた。例えDomではなくともそういう輩はいるため、気をつけていてもどうしようもない時もある。
かといって、常に誰かと一緒と言うわけにも行かないだろうし、Subなりの防御方法のCollarとタグならばミキはつけている。
「どこにでもタチの悪いのはいるからな。にしても、これどうするか」
「とりあえず片付けます。力也さん、手伝ってくれます?」
「ああ」
二人して道に落ちてしまった瓶を片付け、袋に入れる。幸い、エコバックに入っていたため、それほど道にガラスは散らばっていなかった。
「こんなもんか」
「ありがとうございました」
「ついでだし、送ってく。店でいいんだよな」
ミキの手には他にも荷物が持たれていたので、割れた瓶が入った袋を力也が持ち店へ向かう。
「にしても、俺もCollarしてんのになんで勘違いされたんだ?」
「見えなかったとか」
「細いからかな」
今日ミキがつけているCollarと比べれば確かに細めではあるが、ちゃんとタグもついているのにと力也は首を傾げた。それ以前に、相手のSubに対する印象が力也と合っていなかっただけのような気もする。
「ただいま」
「おかえり・・・・・・!?どうしたの!?」
店に入った瞬間、服が濡れたミキと力也をみて驚きキッチンにいた彰が慌てて走ってきた。ちょうどいた二組の客も驚いたようにこちらをみている。
「お酒落としちゃって・・・・・・」
「酒!? なんで俺頼んでないよな?」
「おいしそうだったからつい、ごめん」
苦笑を浮べたミキの様子に、彰は自分を落ち着けるように息を吐いた。そうしてミキの手をとりまじまじと見る。
「怪我は?」
「してないよ」
「ならよかった。買い物ありがとう」
怪我がないことがわかり、笑顔に戻った彰はミキの頭を撫でた。どこか不安そうなミキを落ち着けるように撫で、肩を抱き寄せる。
「えっとそれで、力也さんは手伝ってくれたんですよね? ありがとうございます」
「ううん、力也さんは助けてくれたんだよ」
「助けてくれた?」
「うん、ぶつかって絡まれて」
「え!?」
ミキの説明に気になって聞いていたらしい、店内の客達もザワザワとし始めた。心配症なDomたちの様子に、詳しく説明すればなにがあったのか理解できたらしい客達も息吐いた。
「そっか、とにかく無事でよかった。力也さんお世話になりました。ありがとうございます」
「いや、それより服着替えてきたほうがいいんじゃないか?」
「そうですね。ちょっと行ってきます。力也さんゆっくりしていってください」
力也に頭を下げた彰は、力也の持っていた袋を預かるとミキを連れて奥へと引っ込んだ。送ってくるだけのつもりだったがそう言われてしまえば帰ることもできずにいると、客のDom達が力也を手招きした。
「りっくん、偉かったね。こっちおいでおごってあげるよ」
初めて会う相手だったが、【サブチャン】をみていたのだろう。そう呼ばれ、力也が傍に寄るとメニューを見せてきた。
「え? 俺たいしたことしてないけど」
「いいから、どれにする?」
「仲間救ったんだからご褒美だよ!」
満面の笑みで言われ、戸惑っているともう一人のDomも声を張りあげてこっちをみている。どうみてもおごりたがっている様子に断りにくく、力也はメニューをみた。
(ジュースとかなら・・・・・・)
Subを甘やかしたいだけのDom達が、力也がなにを頼むのかワクワクしながらみていると服を着替えたミキと彰が戻ってきた。
「お待たせしました。力也さんお礼に好きな物食べていってください」
「んだよ。俺たちがおごろうと思ったのに」
「俺のSubのことなんで俺がお礼しますよ」
「ずるい!」
なんでおごりたがっているのかがわからないが、ここは遠慮していてはダメだとわかり力也は遠慮なく食べたいものを上げた。
「じゃあ、これとこれと・・・・・・」
「すぐ作りますね。ミキ手伝って」
「うん」
そう言うと二人は仲良く料理を始めた。先ほど、力也に声をかけていたDomたちもパートナーのSubとの楽しそうな食事を再開した。
(いいな)
そんな穏やかで幸せそうな様子をみつつ、出された料理をのんびり楽しんでいると不意に冬真に会いたくなってきた。
先ほど少し話したし、朝も会ったのにと思いつつ、自分を自分で笑いながらなんとなく首のタグに彫られた冬真の名前と言葉を指先でなぞる。
寂しいというほどではないが、いつも考えているし、すぐに会いたくなると言っていた冬真の気持ちが少しわかった気がした。
帰ってきたら甘えたい、今日のことを話せばきっと褒めてくれるだろう。安心するあの手に撫でられ、抱きしめられ褒められたい。
母の話をして喜ぶ冬真の姿が見たい、寂しかったと言ってくれるだろう冬真の声を聞きながら甘えたい。
そのなんともSubらしい思いに力也はおかしそうに笑った。
帰ってきたら素直に甘えてしまいそうな自分の気持ちで、もしかしたら放し飼いはこれが狙いなのかもしれないと思った。
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