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第八十七話【【満たし満たされ】】中

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 情けない事に、気づけば謝るのが口癖のようになっていた。謝ると言っても力也は怒っていない、俺の事を責めてもいない、ただちょっと困っているだけだ。
 困っているのがわかっているならやめればいい、そう思うのになかなかこの正体不明の不安は消えてくれない。
 大切な人を困らせている状態ではとてもじゃないが、主人だと胸を張れない。
 それでなくとも、いつも力也に頼って甘えてばかりの頼りない主人なのだから。

「冬真、俺そんなに俺が信用できない?」
「え?」
「俺、無茶ばかりするけど、ちゃんと冬真のとこに帰ってくるよ?」

 ここ数日正体不明の不安に駆られ、自分を制御できずにいたら、そう力也に言われてしまった。いや、言われてしまったのではなく、言わせてしまった。
 信用されていないと感じさせてしまったことに、罪悪感が溢れる。Subである力也が主人である冬真に、それを尋ねるにはおそらくかなりの不安と覚悟を決めてのことだろう。
 主人に信用されていないと思うのは、とても辛いことのはずだ。

「ち、違う。そうじゃない!」

 慌てて否定するが、その後が続かない。力也を信じていないわけがない、信じられないとしたら自分自身だ。
自分自身の力が冬真は信じられない、Sランクになってもすぐに心を乱されるし、Subを従えるのに必要だと言われた安定感がない。
力也を手放したくない、離れて欲しくない。そんな想いばかりが心を満たしている。

「そうじゃないんだ。・・・・・・ごめん、どう言ったらいいのかもわからない。力也を信じていないわけじゃなくて、なんとなく不安なんだ。自分でもおかしいと思ってるし、呆れてる。でも、何故か離れていると不安で苦しくてしょうがないんだ」

 傷つけてしまった申し訳なさで、更に息苦しさを感じながらそう言った冬真の目を力也はじっと見ていた。その瞳は自分が本当に信用されていないのではと考えているようではなく、ただ聞きたかったから聞いたというように見えた。
 
「俺、ご主人様捜索で一番だったよ。展示だって、冬真がいたから怖くなかった。誰に何をされるかわかんない状況でも、冬真が見ていてくれるから安心できた。それでも、冬真はまだ怖い?」
「ごめん、お前が沢山頑張ってくれたのも信じてくれたのもわかってる。パーティの時はすごい嬉しかったし、誇らしかった。それなのに、今は不安なんだ」

 とんでもなく情けない告白をしているのはわかっているが、他に言い様がない。

「そっか・・・・・・」

 あまりの情けなさに呆れてしまったのではと一瞬思った瞬間、力也は立ち上がった。
 立ち上がり、冬真の目の前に行くと普段よりも本気で体重をかけ抱きついてきた。

「じゃあ、冬真の不安がなくなるまで俺を好きにしていいよ」

 そう言うと、受け止めるように背中に回していた冬真の手の片方を自分の服の中に、もう片方をズボンの中に誘導した。
 いつにない積極的な誘い方に驚く冬真に、少し恥ずかしそうに甘い瞳を向けると、にこりと笑う。

「体中染め上げれば冬真が安心するならそれでいいし、一生消えない印を刻みつけたいって言うならどこにつけてもいい。縄で縛って自由を奪ってもいいし、なんか管理したいって言うなら冬真がいいって言うまで我慢する」

 それはあまりにもDom性を誘うような魅力的な誘い方だった。自分の物と考えている相手からのその言葉に、興奮するよりも先に泣きたいほど嬉しくなる。
 それほどまでに自分を想い、信頼してくれていることに心が温かくなる。

「ありがとう、嬉しい」

 愛情を込めたグレアをおくると、その首筋にあるCollarへそっとキスをする。

「ピーピー」

 調子に乗って、たまにするハリネズミの真似までされ、笑いながら首筋を舐める。

「お言葉に甘えて安心するまで好きにさせてもらう」
「任せて」

 余裕そうな笑みを浮かべる力也の、ニップルピアスを軽く引けば、その顔がゆがんだ。

「・・・・・・にしても、どこでこんな誘い方覚えたんだよ。誰かに教えて貰った?」
「教えて貰ってない」
「うっそだ。Subの先輩達に教えて貰ったんだろ?」

 ニップルピアスを捻るように引っ張れば、力也は逃げるどころか胸を差し出すように体を反らせた。

「ご主人様をその気にさせて沢山可愛がって貰える方法とか言われたんじゃないのか? それとも生意気だっていじめて貰える方法として教えて貰ったのか?」
「教えて貰ってないっ!」
「えー、じゃあ自分で考えたってこと? こんな鬼畜心を誘うような言葉考えるほど、好きにされたかった? いつもあんなに可愛がってんのに足りなかった?」

 無論、これは先ほどの言葉が自分の為を思って、全てを捧げる気で言った物だとわかっていながらの発言だ。あんな健気な言葉を言わせておいて、こんな事を言うなど、我ながら性格が悪いと思いながらも力也の反応が可愛くてやめられない。

「どれが足りなかったんだ? もっと縛って貰いたかった? せっかく優しくやってるのに、力也はキツい方が好みだった? 皮膚に食い込んで痕が残るぐらいキツく縛って欲しかった?」

 耳元で笑いながら聞けば、展示で縛られた事を思い出したのだろう、うまく答える事もできずに力也は身をよじらせた。

「そう言えば、体にタトゥーしてるSubもいたよな。あれを見てやってみたくなっちゃった?」

 あの場にいたSub達は誰も愛されているのを全面に出していたが、その体には傷痕やご主人様の趣味らしいタトゥーやいくつものピアスを開けている者もいた。
 港ほどピアスを開けているSubはいなかったが、敏感な部分にピアスを開けているSubはいた。
 タトゥーも主人の名前のような簡単な物もあれば、Collarのように首を一周している物や腹にハートのような大胆な物もあった。
 あまりそういう物を好まない冬真がそれを不快と思わなかったのは、彼らがそれを恥とは思っていなかったからだろう。
無論、からかえば恥ずかしがるだろうが、彼らは隠そうとはせずに堂々としていた。それは彼らがその傷に負の感情を持っていなかった証拠だ。

「お尻に名前残った時も嬉しそうだったもんな。俺の名前刻んで欲しくなった? でもそんなことしたらプール行けなくなっちゃうよな? 見えないとこならいいか、例えばこことか」

 ズボンの中に入れていた手を動かし、かすかに感じる下着をずらし、割れ目をなぞるように撫でれば力也は恥ずかしそうな目で冬真を見下ろした。

「そこじゃ、冬真しか見れないじゃん」
「それでいいだろ?」

 他に誰に見せるというのだろうかと、一瞬どす黒い独占欲のような感情がわき上がりそうになる。しかし、それを止めるようにもう一つの可能性が思い浮かんだ。

「自分でも見れる場所の方がいい?」
「できれば」

 恥ずかしそうにしながらも、それだけが気になっているらしい反応に、苦笑を浮かべ力也に笑い返す。

「力也Kiss」【キスしろ】

 力也は言われたとおりに、両手が塞がってしまっている冬真の唇へと力也はキスをした。なにを勘違いしたのか一瞬粘り着くような独占欲をだしたものの、すぐに落ち着いた冬真の唇をご褒美のように舐めれば、その表情が更に緩む。

「力也お前、煽りすぎ」

 冬真がお返しとばかりに、ニップルピアスを引っ張れば、ビクッと震えながらニヤッと笑みを浮かべた。

(ダメだ。本当に力也がいなきゃダメなんだ)

 力也はDomではない、相手に強い影響を与えるグレアを発する事はできない。だと言うのに、今冬真はその笑みに深い安心感を覚えていた。

「そんなに無茶苦茶にされたい?」
「冬真にならされてみたいかも」
「ヤラシイ」

 敵わないと何度も思い知らされながらも、その首筋に強く吸い付き所有者としての印を残す。くすぐったそうな様子に、逃げないようにタグを噛み引き寄せる。

「セーフワードは?」
「マイルド」

 ここまで誘っているのに、律儀に確認してくることに笑いながら、応じると力也はもう一度自分からキスをした。

「風呂行く?」
「いかない。準備してある」

 そう言いながら、冬真の手を更に奥に誘うように、押せばその指は秘部へと伸ばされた。一本どころか、二本の指をいっきに差し込まれ、力也は大きく体を反らせた。

「はっぅ」
「マジで用意してあんな、もうトロトロじゃねぇか」
「すぐいれてもいいよ」
「まったく、トレーニングにジムに行くって言ってたのに、なんでしっかり用意してあるんだよ」

 孝仁と会った後にトレーニングに行くと言っていただけなのに、どこで準備して来たのだろうか、誰かに見られたらどうするつもりだったのだろうか。わざわざ聞かなくても、力也の事だ、誰かに見られるようなヘマはしていないだろうが、少しもやっとするのはどうにもならない。

「早く無茶苦茶にされたくて、そんなヤラシイことしてたのかよ。そうやって俺を焦らしてた? それよりも早く帰ってきて欲しいって俺が思うぐらいわかっただろう?」
「・・・・・・ごめん」
「準備なんかしなくても、俺がしてやるのに、それとも俺に綺麗にされるのを避けた? 好きにしていいって言ったのに、そういうことするのかよ。悪い子」
「ごめんなさい、お仕置きして」

 失敗したと思ったのだろう、謝りながらもそれでも甘えるように体重をかけてしがみついてきた。許して欲しいと謝罪すると言うより、お仕置きを期待して強請るようなその様子に悪い笑みが浮かぶ。
 可愛い、可愛い力也をいじめたい、沢山いじめて可愛がりたいそんな想いがわき上がる。

「力也Strip」【脱げ】
「はい」

 これからお仕置きされると言うのに、力也はどこか楽しそうに服を脱いだ。下着に手をかける前に止めればキョトンとしたが、冬真の目が下着をとらえているのに気づき笑った。

「尻触ったときに布の感触ないなと思ったらやっぱりそれかよ」
「冬真このタイプ好きだよな」
「お前もだろ。いつの間にかバリエーション増やしやがって、タンス開けたときにびっくりしただろ」
「アハハッ、なんかおもしろくなっちゃって」

 そう笑いながら、力也は後ろまで見せるように一回転した。前から見たら普通に見えたその下着は予想通り、臀部の部分がなく丸見えの状態だった。

「着替え室で見られたらどうすんだよ」
「その辺は気をつけてるけど、見られたら冬真の趣味だって言っていい?」
「勝手に着てるくせに」

 人の所為にして逃げようとしている事に、苦笑を返しながらも頷けば、力也は楽しそうに笑いながらその場に座った。

「お仕置き何?」
「とりあえずStay」【待て】
「はーい」

 こんな風に楽しそうに笑う力也だが、何をされてもいいわけじゃなく、お仕置きの中にはされたくないことも、怖いことももちろんある。その中の本当の恐怖も、されたくないことも冬真は知っている。
 知っているだけでなく、実行することもできる。それでも今これほどワクワクしているのは、絶対的な信頼があるからだろう。
 自分の言動で本気で冬真が怒っている訳がないことを理解し、身を委ねることを楽しく思っている。
 お仕置きPlayは力也にとってスリルを楽しむダイブのような物なのかも知れない。
落ちたら最後逃げることも抵抗することもできないなか、体と命を任せ、自分の経験を生かしその状況を楽しむ。
強い意志がある者でないと楽しめないそんな状況。

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