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第八十六話【二人きりの観光】前

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 朝食を終えた力也と冬真は、バルコニーの椅子へと腰掛けていた。既にこの集まりの本題である内容は全て終え、後は好きな時に帰っていいことになっている。

「何時に帰る?」
「うーん、何時でもいいけど、せっかくだからどっか寄って帰るとか?」
「どっか・・・・・・」

 せっかくここまで来たのだから、遊んで帰ろうかと誘われ力也はスマホを取り出し検索を始めた。二人とも、昨日と今日を入れて三日間休みにしてあるし、少し遅くなってもレンタカーも丸二日間借りてあるので明日の朝でも間に合う。 

「結構寄れそうなとこあるな」
「お前が行きたいとこでいいけど」
「そう言われても・・・・・・」

 スマホの検索に映っているのは面白そうなところばかりだった。別荘が多いこの辺りは観光する場所も沢山あり、気になる場所が多い。

「ってかなにがあるんだ?」
「え~と、水族館、動物園、遊園地、あと古い町並みがみれるとことか・・・・・・あ、お城もある」
「結構あるんだな」

 その説明に冬真も、スマホの画面を覗き込んだ。確かに色々な楽しそうな場所が出ている。

「なんなら途中どっかで一泊してもいいし、好きなとこ選べよ。沢山頑張ったご褒美」
「ご褒美は昨日貰ったんだけど・・・・・・」
「じゃあ、俺の所為で三位以内に入れなかったお詫び」
「まだ気にしてるのかよ」
「だって俺の所為だし」

 自分の所為だと言っているわりには、既に落ち込んでいるようには見えない。よく見れば若干楽しそうでもあることから、お詫びと称して力也のわがままを期待しているのだろう。

「じゃあ、ここにするか」
「決まった?」
「ああ、ここ。ユートピアってとこ、ついでに近くに古い町並みとお城があるからそこ寄って帰ればいいかなって」

 内容を見せられ、場所を地図で確認する。ユートピアは小さな動植物園と遊園地が一緒になったような場所らしく、動物とのふれあいが楽しめるとあった。
 城と古い町並みは買い物も楽しめるらしく、ちょっと歩くのに良さそうだ。

「ああ、いいんじゃないか?」
「じゃあここで、どうする? 泊まる?」
「マンション帰ってもやることは同じだしな」

 その言葉に、じっととした目線を力也は向けた。冬真とそういうことをするのは好きだが、昨日散々楽しんだのに、この流れでそれを言うのか。

「冬真、ヤルの好きだよな」
「お前がエロ可愛いからだろ。それにSubを気持ちよくさせて、沢山可愛がりたいのはDomのさがだし」

 そんなわけがないと言いたいところだが、昨日のDom達の様子を見ていると、否定をしづらい。
 お仕置きにしても展示にしても、多くのDomが辱めるというよりも愛でるというような視線や仕草だった。
 羞恥心を煽るような言葉や接触はあったが、それでも沢山褒めてくれていると感じられたし、愛でられているとも感じた。

「お前だって、沢山可愛がられるの嬉しいだろ?」
「それはそうだけど・・・・・・」

 Sランクになってから、行為の最中に溶けるような幸せと快感が強くなってしまっている力也は、記憶に残る内容に少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。

「恥ずかしそうな力也可愛い」

 気づけば当たり前のように抱きしめられていた。ギュウギュウと両手で抱きしめ頭をなでられ、ため息を吐く。近くに感じる冬真の息や鼓動や体温が気持ちいい。

「あっ」

 その瞬間力也の手からスマホが転がり落ち、床を滑った。慌てて手を伸ばしたその先で力也のスマホを拾ったのは、冬真の学校の教師で今回スタッフとして呼ばれていたDomだった。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 にこりと優しいがどこか気まずそうな笑みを向けられ、力也は思わずじっと見つめ返した。

「あれ? 確か冬真の学校にいた・・・・・・」

 そこまで言った力也はあの日の会話を思い出した。昔助けて貰ったDom達が教師の中にいたと冬真が教えてくれたことを。

「・・・・・・もしかして、俺を助けてくれたのって・・・・・・」
「違う」
「でも・・・・・・」
「違うって」

 否定されるがその雰囲気では信じることができず、冬真へと視線を向ければ複雑そうな表情を浮かべるが、少し躊躇すると仕方なさそうに頷いた。

「そっか・・・・・・会えたら、あの時のお礼を言いたかったんですけど・・・・・助けてくれてありがとう、倒れちゃってごめんなさいって・・・・・・」
「・・・・・・辛い目に合うSub達を救いたい。そう思うDomは君が思っているよりもずっと多い。君が屑のDomの所為で希望を失うことがなく幸せそうで本当に良かったと思う」

 彼はそう慈愛の笑みを浮かべると、力也にスマホを手渡し、向こうに行ってしまった。

「冬真・・・・・・」
「いいこ」

 なにか言いたげな視線を投げかけられ、やはりバレバレだったかと言うように苦笑しながら冬真は頭を撫でた。

「お礼も言ねぇのかよ」
「ちゃんと伝わってるって、嬉しそうだったろ?」
「そう?」
「そうだって、言ってただろ? お前が幸せそうにしているのが嬉しいって」
「うん」

 小さく頷くと甘えるように頭をゴシゴシとこすりつけた。もっとしっかり言葉にしたかった。それでも、ずっと心残りだった想いが一つなくなった気がする。

「助けて貰ってから、呼び出しが止まったんだ。写真も撮られてたから心配だったんだけど、青木先生が大丈夫だって言ってくれて、でも学校行ったらいるんだって思ってたら・・・・・・なんか俺の顔みると逃げるようにいなくなったんだ」

 思い出しながらポツポツと語る力也の頭を撫でつつ、冬真は頷いた。

「あれって・・・・・・なにしたんだ?」
「え?」
「何かしたんだろ? すげぇ怯えた顔してたし、なんか引っ越した奴もいるって聞いたし」

 確信をつく質問に、さてどう説明しようかと口ごもった。何をやったかは大体想像がつく、大方いま冬真がSランクとしてやっているような事か、執行部がやっているような内容だろう。学校に来ていたと言うことは、未成年だと言うことを考慮した厳重注意という処置だった可能性もある。
 いずれにせよ彼らはDomの力を失ったか、人に命令することに恐怖を感じるように状態に落とされたと言うことだろう。

「あー、多分先生達にすげぇ怒られたとかだろ。先生達怒るとすげぇ怖ぇし」
「そう言えば、軍隊みたいなノリだっていってたな」
「そうそう、厳重注意されただけだろ」

 その説明で納得したらしい様子に、気づかれないように息を吐く。おそらく力也が思い浮かべる厳重注意とは違い、Domでさえ睡眠もまともにとれなくなるようなものだが、そこまで教える必要はない。

「それより何時に出かける? ゆっくりしたいだろ?」
「何時に帰ってもいいんだよな?」
「ああ、一応傑さんに声をかけて確認してからになるけど何時でも帰れると思う」
「じゃあ、一緒に聞きに行ってからにする」

 調べているうちに行きたい気持ちが盛り上がってきたのだろう、早くいきたいというような力也の様子に頷くと立ち上がった。

 傑は何人かの参加者やスタッフに聞けばすぐに見つかった。見つからなかったら、電話をかけようかと思っていたが、その心配はいらず、声を掛け合って教えてくれた。

「傑さん!」
「お、どうした?」
「実は、力也と寄りたいことがあるのでもう帰ろうかと思いまして」
「力也さん帰っちゃうんですか?」

 結衣に残念そうに聞かれ、力也は苦笑を浮かべ、結衣の肩に手を置いた。

「また帰ったら遊べるだろ? それに結衣には傑さんもついてるし」
「そうですね」

 照れたような表情を浮かべた結衣に笑いかけ、楽しかったことを伝える。

「どこに寄るんですか?」
「ユートピアって施設」
「ああ、そこなら結構寄る奴が多いから、割引券あるはずだ。確かもってたから後で持っていてやるよ」
「ほんとですか?」
「ああ、気に入って宣伝してる奴がいるから余分にあるんだ、帰るときに渡してやる」
「ありがとうございます」

 嬉しい情報に、二人はガッツポーズをした。どうやら冬真や力也と同じように、パーティついでに観光する参加者が多いらしく、色々情報があるらしい。

「他に面白い情報とかあります?」
「ユートピアの中にはレストランがあるんだが、その中の一つに温室の中でバイキングができるってのがあるからおすすめだって聞いた」
「なら昼はそこにするか」
「行くのはユートピアだけなのか?」
「いえ、ついでに近くにあるお城と古い町並みをみて帰ろうかなって」

 そう説明すれば、神月はスマホの地図を立ち上げた。見やすいように大きく拡大し、城の周辺を映す。

「確か、この辺りに貸衣装屋と資料館があったと思う。それと、この城とはべつに古城跡があって、それが確かこの山のとこだ。たいした物はないが、景色は綺麗だしちょっと寄るにはいいかもな」
「ありがとうございます」

 お城の周辺はあまり調べていなかったため、いい情報を教えて貰えたと二人は頭に入れておいた。
 こうなるとやはり、途中で一泊したほうがいいかもしれない。そう思い、冬真はレンタカーを手配してくれた友人へ電話をかけた。

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