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第四話【ギャップ】後

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「NGねぇって本気?」
「わりと本気」
「変な奴。力也、Lick」【舐めろ】

 微妙に届かないだろう口の上に指を差し出せば、舌を差し出し必死に伸ばしてくる。起き上がれば簡単だろうに、上半身を起こすこともなくほんの少し触れる指先をペロペロと舐める。

「うまいか」
「ちょいしょっぱい」

 仕草は従順だが、発せられる言葉は素のまま、間違いなく力也はSubとしての本能ではなく理性を持って冬真のコマンドに従っている。
 ちぐはぐなSub、一つ一つに違和感を感じそれでいて自然体、捕らえられた野生動物というのはこういうものなのだろうか。
 
「口開けとけ」

 この後の展開が予想できたのだろう、大きく口を開けたその中に指を差し込む。
 グッと小さい呻きをあげるも、力也は拒むことなく口を開け続ける。差し込んだ指を二本に増やしてもそれは同じだった。
 生理的な涙と開けた口の端からダラダラと絶え間なく唾液を垂らしながらも力也は冬真を見ていた。その瞳はどこか挑戦的でそれでいて楽しそう。

「かむなよ」

 その瞳に笑い返し、指を一気に奥深くへと突っ込む。その瞬間、ビクッといままでにない反応があった。散々食べた後だ口の中を刺激されてはたまらないだろうに、喉を絶え間なく動かし嘔吐を堪えている。
 ビクビクと微かに震える体は余裕がないことを示しながらも、視線だけは外すことがない。
 少ししてあげたままだった手と足が力を無くしたころ冬真は指を抜き去った。

「くはっ…はぁはぁ……」

 乱れた呼吸を整えようと体を上下させる力也の瞳は力を失っているものの、それでもいまだ自身の意識を保っていた。

「今日はここまでにする。力也、Goodboy」【よくできました】

 必死に呼吸を整えようとしているその身体を抱きしめ起こす。唾液と涙で汚れた体でも冬真にとってなにも嫌悪感などない。だてにその業界で生きてきたわけではない。

「ありがとうございました」

 背中を撫でていればすぐ落ち着いた力也はSubらしく、そうお礼をいうと元の雰囲気に戻った。

「吐くかと思った」
「よく我慢できたな」
「正直かなりきつかったけど、おごってもらったし、勿体ないなって」
「俺が与えたからってことか?」
「それもあるけど、普通に勿体ないじゃん。せっかくうまかったのに」
「なんだよそれ」

 本当に素のままの反応に、笑いがこみ上げる。機嫌を伺ってしたのかと思えば、わざとではなくそれも自然体、終わって笑う様子も幸福というよりは楽しかったと言わんばかりだ。

「で、そうどうだった?」
「うーん、そうだな。まずちょっと驚いたのはお前が予想以上に従順だったとこか」
「Subってそんなもんだろ」
「そりゃそうなんだけど、お前の場合なんて言って言うか…もっと反抗するかと思ってたから」
「あー、それよく言われる」

 身体を離され立ち上がった力也は軽く腕を伸ばし、舌で口周りを舐めながら少し考える様にいった。

「ヤンチャ系?ツンデレ?生意気?なんかいつもその辺期待されんだよな」
「見た目からして、そっち系だからな」
「わかるけど、同意でPlayすんだから反抗したら意味わかんねぇじゃん」
「それでも、意にそわないコマンドには従えないだろ」
「そんときはセーフワード使うからいいじゃん。ってかこれいうと大体それっきりになるんだけど……もうバレてるし、俺グレアの強制効いてないから本気で嫌だったら普通に動けるし」
「全然効いてないのか」
「全然ってわけじゃないけど、コマンドで支配されてる時でも意識はあるから、いざとなれば切り替えられるってか、火事場のバカ力みたいな感じ」

 あっさりと支配されきっていないことを明かすのは、もうあきらめている証拠だろう。

「なるほど、やりにくい奴だな」
「それもよく言われる。で、どうする?」
「どうって」
「これっきりにするのかってこと」
「いや、お前がよければこれからも続けたい。お前をもっと知りたい」
「……マジで」
「わりと本気」

 言い方を真似て言えば、驚いた顔のあとこらえきれなかったかのように大きく笑い出した。

「俺も楽しかったし、これからもよろしくお願いします」
「よろしく」

 手を差し出してきたから握り返す、契約とまではいかなくとも確かなものが繋がったそんな気がした。

 もっともその後何気なくした質問の答えでちょっと揉めたのだが。

「だからなんでそんなに声かけられてんだよ!」
「アンタの所為だろ!俺に文句言うなよ」
「連絡先、全部だせ」
「えー、せっかくもらったのに、予備でいいじゃん」
「ダメ!」
「どうせ出かけても振られるし」
「それが甘いんだって!いいから出す」

 珍しくモテたからって記念に持っておきたいとか訳の分からないことを言い出す、力也相手に冬真は本気で声を荒げていた。それでも、怯えることのない力也は散々ごねた後に仕方なさそうに名刺を取り出してきた。
 本当に、Domとしてはやりにくい相手だ。
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