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衛生管理をお願いします。
しおりを挟むピチョン・・・ピチョン
何処からか聞こえてくる水音でエメロードは、うっすらと目を開けた。
(ここは・・・?たしか、襲撃されて?えっと・・・庇ったんだっけ・・・で?肝心の庇ったのは何処へ行ったの?)
状況を把握する前に、悪態をついてしまったのは仕方がない。
ふう・・・と息を吐き出し、状況を把握することをエメロードは優先することにした。
先ずは、自分の体を。
足は縛られていない。
だが・・・手には手枷が嵌められている。
なんて言うことだ。
これで既に行動が制限される。
矢を受けている肩は・・・動かすと痛みが走る。
ただ、動かせない訳ではない。
無理をしなければならない状況にならないと良いのだが。
次に自分が寝かされている場所を確認した。
一言で言えば、牢屋だ。
見るからに堅牢な柵。
冷たい石畳の床と壁。
決して清潔とは言えない場所だ。
そして明り取り用の窓が天井付近に、申し訳程度に誂えてある。
そこから漏れる光は・・・ない。
どうやら日が暮れてしまったようだ。
(昼食後に襲撃されたから・・・少なくとも六時間は経っているかしら?)
「クリスタリザシオン?目が覚めたか?」
暗い牢の中で声がこだまする。
スフェールだ。
どうやら他にも牢があり、そこに居るらしい。
「殿下?無事ですか?」
「あぁ・・・問題ない。あの時、其方が庇ってくれたので・・・。それよりも其方の体は?」
初めて沈んだスフェールの声を聴く。
今までは、怒っているか悔しそうにしている所しか知らないエメロードからしたら、新鮮だ。
「肩は勿論、傷みます。動かせない訳ではありませんが、出来れば安静にさせて欲しいです。それであの後、私達はどうなったのですか?」
「其方の意識が無くなった後、追っての男達がやって来た。戦ったのだが、相手が多かった・・・。私では歯が立たず、二人一緒に運ばれたようだ」
「ようだ?」
「あぁ、私も意識を失い、この場所についた時に気が付いた」
「では、ここがどのような場所かも検討が?」
「いや、馬車から降ろされた時にちらっとだが、白の尖塔が見えた。少なくとも城下の何処か・・・だと思う」
「なるほど・・・ここは地下であっていますか?」
「あぁ・・・建物に入り階段を降りたので地下で間違いない。・・・何故その様な質問を?」
「地下牢など持つ貴族が居てたまるか・・・と。まぁここが二階です。と言われても信じませんけどね。こんな石造りの二階があれば、目立って仕方がありませんから」
貴族が地下牢を持っていない・・・とは言えない。
怪しい趣味の奴などごまんと居るのだ。
現にエメロードは、ある富豪の屋敷に地下牢があり、そこに囚われた女性が居たことを知っている。
まぁ、そこは『地下牢』と言っても、豪華な調度品がある部屋で、そこに檻がある・・・と言ったものだったが。
とにかく、自分達が今居る場所が、何処かの建物の地下牢・・・と言うことは、助けが来るのに時間が掛かるだろう。
それでなくても城下街の建物は多い。
そこから地下のある場所を探すとなると至難の業だ。
ギィ・・・バタン
カツ・・カツ・・・カツ
重い扉が開く音がして、階段を降りてくる足音が聞こえる。
エメロードの檻は丁度階段の前になる。
暫くすると灯りの中に人が浮かび上がった。
「おや?起きられましたか。どうですか、居心地は?」
エメロードの前にやって来たのは男だ。
さして身長は高くないように見受けられる。
精々、エメロードよりちょっと高い・・・と言ったところだろう。
髪は黒く短めに切りそろえられている。
瞳は琥珀を嵌めた様な金だ。
恰好はラフな感じではあるが、仕立ては良い物のようだ。
「ふふっ観察は終わりましたか?」
至極楽しそうに男は言う。
「見るのは好きですが、見られるのも中々いいですね」
楽しそうではなく楽しいようだ。
エメロードは変態か・・・と早々に結論を出した。
「それで?変態さん、質問があるのだけれどいいかしら?」
「なんと?!私を変態と呼んだのは貴女が初めてですよ」
「そうなの?皆さん、随分とおべっかが上手なのですね」
ころころと男をバカにするように、エメロードは煽る。
「面白いお嬢さんだ。質問ですね?いいですよ、お答えしましょう。ただし、何でも・・・とはいきませんが」
その言葉にエメロードはにっこりと笑って言葉を紡ぐ。
「えぇ、そうでしょうね。答えてくれるだけでも嬉しいわ。確か、私達を襲った奴らは私達を殺すと言っていたわ。今現在も私が生きていると言うことは、貴方は襲って来たのとは違う一味・・・と言うことですか?」
「その答えは『いいえ』ですね。同じです」
「そう。ところで私が受けた矢に毒が塗ってあったと思うのだけれど、それで私は死ななかったのかしら?」
「そうですねぇ・・・致死量ではあったのですが、あの毒は効き目は早いのですが、その後はゆっくりと効いていき死に至らしめる物なんです。本来ならばその予定で問題なかったのですが、邪魔が入ったでしょう?その邪魔者が問題で、貴女を殺すことが難しくなってしまったので、解毒しました」
「邪魔者とは?」
「おや?私が気付いていないとも?・・・隣の牢に居る王太子殿下です」
後半を苦々しく言う男。
つまりエメロードは、スフェールのおかげで助かったのだ。
認めたくないが。
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