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ここからが、本番

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「さて、殿下。私が話していることに対しては、ご理解頂けましたでしょうか?」

「・・・あぁ、理解はしている」

 ふむ、理解はしているけど、認めたくないのかしら?

「・・・と、言うかエメロード・クリスタリザシオンと言ったな、何故其方が私の宮に居るのだ?そもそも私に其方がここに来たと報告がなかったぞ」

「あら?それは可笑しいですね?・・・もしや、殿下には報告が不要だと思われたのかもしれませんね」

 エメロードはこれまたいけしゃあしゃあと、話していく。
 実際問題、ないとは思うが、万が一にも王太子が夜這いなんてかけられて、次代の王妃に!なんてあってはならないので、侍女などと違って令嬢が宮に滞在するのであれば、スフェールには必ず話はいくだろう。

「どうせ、国王からの命だろう。だがそれにしても、私にこの仕打ちは不敬罪に問われても、文句は言えぬだろう?さて、刑はどうするか?」

 その言葉に、エメロードはスフェールの前に1枚の紙を見せた。

「それは?」

「国王陛下には事前に許可を頂いております。私の良きようにしてくれ・・・と。それから手加減を頼む。と記載されておりますわ。それにしても殿下・・・哀れですわね。このような小娘に、国王陛下から『王太子殿下の教育係に、任命する』と命を下され、更には内容は私に一任する・・・と。一国の王太子が辺境伯の娘に、教えを請わねばならないなど!」

 声高らかにエメロードは、スフェールに喧嘩を売る。
 これぞ正に、悪役!

 今回の事に対してエメロードなりに考えた結果だ。
 どうせ周りからちょっとずつ攻めて行っても何も変わらないだろう。
 ならば、どん底まで落として、発散させればいいのだ。
 そして、後々思い出しては恥ずかしくなる、黒歴史にしてやろう!これがエメロードが考えだ。

 怒ればいい。悔しがればいい。泣けばいい。
 今まで我慢していた感情を爆発させて、木端微塵にすればいいのだ!

「な・・なんだと!!!好き勝手に言わせておけば!!!ふざけるのも大概にしろ!!私が貴様から教えを乞うようなことは何もない!!!気分が悪い!!!」

 怒りで顔を真っ赤にしてスフェールは喚き、部屋から退出して行った。
 扉を勢いよく開けて・・・それにエメロードが

「殿下、はしたないですわ。子供じゃないんですから~」

 と声をかけて、見送った。
 笑顔で、手を振って。

「あの・・・エメロード嬢?これは・・・ちょっと」

「あら?カイユー様。殿下を追いかけなくてもよろしいのですか?」

「いや、それどころではないでしょう?」

「それどころですわ。殿下はお茶を被ってしまいましたもの・・・風邪を引かれなければよろしいのですが・・・」

 この場に居る者の心が今、一つになっただろう。
『お前がかけたんだよ!』と。
 誰も決して言わないが。

 そして再びカイユーを見たエメロードは、扉を指した。
 これは、つまり、あれです。
 “出て行け。追いかけろ”との指示です。
 それを見たカイユーは、すぐさま行動した。

『彼女に逆らうと、次にどんな攻撃をされるかわからない・・・』と思ったからだ。
 そして、『何故彼女に協力をするなんて、自分は言ってしまったのだろう』と早くも後悔をしていた。
 その後悔は既に遅いですよ・・・と何処からともなく声がした気がしたが、カイユーは気付かなかった。否、気づきたくなかった・・・・。


 *  *  *


「あぁ・・・僕の天使は本当によくやっているよ。なぁ、そうは思わないかい?」

「そうですね、ノレッジ。あの子の欲しがっているものを、早速送ってあげましょう」

 ここは言わずもがな、クリスタリザシオン家のサロンである。
 エメロードから早速送られて来た、報告書を二人で読んでいたところだ。

「それにしても・・・エメロードも無茶をしますね・・・叩き折って、どん底まで落として、這いあがってこれなかったらどうするのか」

 そこへ、扉を開けて入って来たブビリオが、会話に参加する。

「ブビリオ・・・エメロードがその辺の手加減が出来ないと?」

「そんなこと、思ってもいませんよ!ただ・・・王太子だけに集中出来てたら・・・と思ったんです」

「それも、そうだな・・・」

 そう言って、一家はそれぞれに思案する。
 エメロードに万が一・・・と言うことはないだろう。

 だが、何事も予想外の事はあるのだ。
 それに対して、周到な用意は必要になるだろう。
 ただ、今現在、彼らが出来ることは、自分たちに出来る精一杯の支援を、愛しい家族のために行うだけである。
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