悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

文字の大きさ
上 下
64 / 88

第64話 とんでもない話を聞かされた

しおりを挟む
「・・・・・・ふう~」
 ザガードは深く息を吐き、持っている訓練用の剣を見た。
 刃引きはされているが、刀身の部分が少し欠けていた。
「此処の所、身体を動かしていなかったからか訛ったようだ。この程度の鍛練で刀身が欠けるとは」
 ザガードは一人ごちる。
「この程度、ね・・・・・・」
 その言葉を聞いた公爵家護衛団の団長であるベルハルトは訓練場にうず高く積まれている物を見た。
 全部、人だ。
 公爵家で雇われて護衛団の団員であった。

 護衛団の訓練をしている所に、ザガードが入って来たので急遽、護衛団団員全員相手の鍛練をする事になった。
 ちなみに扇動したのはベルハルトであったが、彼は参加しなかった。
 子供の頃のザガードと鍛練していたので十分に強さが分かっているからだ。
 ベルハルトの予想通り、参加した団員達は全員倒れた。
「やれやれ、これでも選りすぐりの精鋭なんだけどな。お前に掛かったら赤子を捻る様なものだな」
「そうでもないと思うが?」
 ザガードは普段よりも砕けた口調でベルハルトと話す。
 小さい頃から兄貴分と慕っていた事とベルハルトが公式の場でなければフレンドリーで良いと言われているのでこのような口調で話す様になった。

「ふむ。暫く見てない間に、随分と力を付けたようだな。ザガード」
 訓練場の入り口から声が聞こえて来た。
 訓練に参加してない者達とベルハルトとザガードはその声が聞こえた方に顔を向けて、その声の人物を見るなり一斉に跪いた。
「ああ、そんなに畏まらなくて良い。自由にしろ」
「はっ」
 その声の人物にそう言われて、ベルハルトは直ぐに立ち上がり楽な体勢をとった。
 そんなベルハルトの態度を見ても周りの者達は跪いたままであった。
(((どうして、あんな気軽な態度を取れるのだろう?)))
 跪いている者達は心の中で思った。
 何せ、その人物はこのローレンベルト家の次期当主であるミハイル=フォン=ローレンベルトその人なのだから。
 淡い金髪の短髪。鋭い刃の様な目元。緑色の瞳。
 気品があり整った顔立ち。スラリとした長身。
 その貴公子然とした姿は女性であれば振り返る程だ。

「話したい事がある。ベルトハルト。ザガード。着いて来い」
「はいはい」
「はっ」
 ベルトハルトは気軽に、ザガードは畏まりながら返事をしてミハイルの後を追い掛けた。


 ミハイルが何処に行くのか知らないが、ザガード達はその後に付いて行く。
「御曹司。普段は領地に居るのに、今日は何かあったのですかい?」
「部屋に着いたら話す。それまで待て」
「了解」
 ベルトハルトとのやり取りを聞きながら、ザガードも思った。
 普段は領地で代官をしているミハイルが此処に居る事に。誰もが何かあったのではと思う。
「ああ、そうだ。ザガード」
「はっ」
「妹が迷惑を掛けてないか」
「いえ、何も」
「そうか。妹はお前を自分の専属の近侍にさせた事に喜んで、何かしら迷惑をかけていると思ったぞ」
「大丈夫です。リエリナ様はわたしに無体な事はしません」
「・・・・・・そうか。ふん、まだ何もしてないか。存外、あいつも臆病者のようだ」
「は?」
「いや、何でもない」
 ミハイルが何か言ったようだが、ザガードの耳には届かなかった。
 その後は三人は一言も話さなかった。


 そうして歩いていると、ある部屋の前に着いた。
 ミハイルがドアを開けて入って行ったので、ザガード達も入って行った。
 部屋に入ると、其処にはセイラやウェイン達やオイゲンとコウリーンも居た。
 ミハイルがオイゲン達の傍まで行くと、ザガード達はウェイン達の傍に寄った。
「御屋形様。皆、集まりました」
「うむ」
 ウェインにそう言われたオイゲンはザガード達を見る。
 何時もは柔和な顔を浮かべるのに、今は真剣な顔をしていた。

「・・・・・・今日、皆を呼んだのは他でもない。五日前ほどに国王陛下であられるィグリス様が御倒れになった」
 オイゲンの言葉を聞いて、皆言葉を失った。
「幸い発見が速かったので今は問題ないが、意識は無いそうだ」
 それを聞いて、皆の頭の中にはある言葉が浮かんだ。
 後継者問題という言葉が。
「ィグリス陛下は御隠れになってはいないが、この事は誰にも話さない様に」
「「「「はっ」」」」
 皆一礼した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

美しい姉と優秀な姉に邪見にされても、王子を取られても、国外追放されても、最後に幸せになるのはこの私です。

西東友一
ファンタジー
ヘスポリス王国のアプリコット家三女アンナは、とあることが原因で、王家なのにみすぼらしく、言葉数も少なかったので、長女ヘルミンと二女フランソワにイジメられていた。 そんなある日、珍しくフランソワがアンナに香水をあげた。嬉しくなったアンナはお散歩に出かけると、横転した馬車と倒れている美しい青年を見つけた。 彼の名は、パリスティン。トリストン王国の第一王子だった。 この出会いが、王子を、三姉妹を、世界の運命を変えるできごとになるとは――― まだ誰も知らない。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下真菜日
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...