悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

文字の大きさ
上 下
45 / 88

第45話 微笑ましい

しおりを挟む
「へぇ、そんな事になっているのね」
「詳しくは分からないけど、恐らくビースト・クォーターが獣化する影響の名残みたいなものじゃないかしら?」
「日常生活には問題ないのでしょう? だったら、いいんじゃない」
「ええ、だからわたしも父様達も特に気にしてないわ」
 シーリアの屋敷に通され、そのままシーリアの部屋に案内されたザガード達。
 そして、二人は茶を飲み、リエリナがザガードがこうなっている経緯を話した。
「ねぇ、ザガード。その耳も尻尾は動くの?」
「はい。動かせますよ」
 そう言って、ザガードは耳とピコピコと、尻尾は左右に揺らした。

「ふ~ん。動かせるのね」
 興味深そうにザガードの耳と尻尾を見るシーリア。
 シーリアの屋敷には、獣人の使用人もいるのだが、ザガードみたいに人間寄りではなく、獣寄りの姿なので、人間の姿で耳と尻尾を生やしているザガードは新鮮なのだろう。
 ザガードも久しぶりに見るシーリアを見て、綺麗になったなと内心で思った。
 凛々しい顔立ち。切れ長の目に空の様に青い瞳。その瞳と同じ色の髪は腰まで流していた。
 身長は女性からしたら高身長。スレンダーの体型だが、女性の象徴もなかなかに大きく育っている。
 腰は柳の様に細く、尻もキュッと締まっていた。
「もう、リア。久しぶりに会いに来た友達よりも、その従者の方が気になるの? 悲しいわ。やっぱり、女の友情は男人の前では霞の様に儚いものなのね」
 ハンカチを出して、目元に当てながら、ヨヨヨっと泣く真似をするリエリナ。

「もう、拗ねないでよ。リナ。悪かったわよ」
 泣く真似とは言え、友人にそんな事をさせるのは悪いと思ったのか謝るシーリア。
「ふふ、そうやってちゃんと謝ってくれるから、大好きですよ。リア」
 リエリナはニッコリと笑う。
 その笑顔を見て頬を膨らませるシーリア。
 
(本当に仲が良いな。この二人は)
 微笑ましい会話を聞きながら、ザガードはほっこりしていた。
 普通の令嬢の茶会は、誰かの醜聞や自分の自慢話などするものだ。
 だが、この二人は楽しく茶飲みながら話をしていた。
 近況報告や身近にあった楽しい話などを面白おかしく話している姿を見ていると、仲が良いのだなという事がよく分かる。
 凛々しい見た目に反して、直情的で正義感が強いシーリア。
 大人しそうな見た目で、実は腹黒く計算高いリエリナ。
 似てないからこそ、この二人は仲が良いのだろう思うザガード。

「ああ、そうだわ。ザガード。喉は渇いた?」
「いえ、わたしは」
「突っ立ているだけでも、喉も乾くでしょう。今、貴方の分の茶を淹れてあげる」
 シーリアはザガードに分を淹れようしてくれたので、ザガードは要らないと言おうとしたが、リエリナから視線を感じた。
 ザガードは首を向けると、リエリナは微笑んだ。
(好意なのだから受けなさい)
 そういう風に言っている様な笑みであった。
 なので、ザガードは茶を飲む事にした。
「さぁ、どうぞ」
「頂戴します」
 ザガードは一言言って、まだ湯気立つティーカップを手に取り茶を喉に流し込んだ。
 その瞬間。耳と尻尾がピーンと立った。

(熱かったのね)
(ちょっと熱すぎたかしら?)
 ザガードの反応を見て、リエリナ達はそう思った。
「どう、茶の味は?」
 シーリアが訊ねると、ザガードはカップから口を離して。
「とても、美味しかったです。適温でするりと喉に流し込めました」
「熱くなかった?」
「いえ、大丈夫です」
 ザガードは顔色変えずに答えたが、身体は正直であった。
 頭頂部から生えている耳が、シーリアの言葉に同意するかのように、ピコピコと動いた。
 それを見て、二人は微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

愛する妹が理不尽に婚約破棄をされたので、これからお礼をしてこようと思う

柚木ゆず
ファンタジー
※12月23日、本編完結いたしました。明日より、番外編を投稿させていただきます。  大切な妹、マノン。そんな彼女は、俺が公務から戻ると部屋で泣いていた――。  その原因はマノンの婚約者、セガデリズ侯爵家のロビン。ヤツはテースレイル男爵家のイリアに心変わりをしていて、彼女と結婚をするためマノンの罪を捏造。学院で――大勢の前で、イリアへのイジメを理由にして婚約破棄を宣言したらしい。  そうか。あの男は、そんなことをしたんだな。  ……俺の大切な人を傷付けた報い、受けてもらうぞ。

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下真菜日
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...