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第二十一話

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 門番の非情な言葉に俺は立ち尽くす事しか出来なかった。
「まぁ、お前の気持ちも分からないでもないが。規則だからな」
 そう言って門番が俺を哀れそうに見た。
 そんな憐れみが籠った視線を向けられるのは、何故だと思い、俺は自分の身体を見た。

 すると、どうだ。
 今更ながら、着ていた制服がボロボロだという事に気付いた。
 マールスとの修行で服は穴だらけの上に擦り切れてばかりであった。
 ズボンもダメージジーンズみたいにボロボロであった。
 誰がどう見ても、野盗か何かに襲われて命からがら逃げ出して無一文になった人と思うだろう。

 見た俺もそう思ったからな。
「ど、どうにかできません?」
「駄目だ。入市税を払えない奴は入れられない」
 懇願しても無下にされるだけであった。
 どうしたものかな。
 俺が悩んでいると、門番達が顔を見合わせて頷いた。
「何か売る物は無いのか? 手数料は貰うが、俺達が代わりに市内に入って売ってやってもいいぞ。その金で入市税を払えば良い」

 おお、そういう抜け道もあるのか。
 しかし、スキルの無限収納には何も入れてないんだよな。
 俺が首を振ると、門番が指を指した。
「じゃあ、このまま東に行った所に、それなりに大きな村がある。其処で金を稼ぐんだな」
「村は金を払わなくても入れるんですか?」
「ああ、問題ない」
「教えてくれてありがとうございますっ」
 門番の好意に礼を述べた。
 そして、門番達に手を振って、東に向かって行った。
 
 教えられた通りの道を進んでいく。
 改めて、道を見てみると、舗装されているのが分かった。
 と言っても、アスファルトで舗装した訳では無く、石畳舗装であった。
 平らな石を敷き隙間は砂利で詰め込まれていた。
 不思議なのが、道の端には、常夜灯の様な物が等間隔で置かれていた。
 察するに、夜になると光って道になるのだろう。
 
 光るのは燃料なのか分からないが、今度知っている人に訊ねてみる事にした。
 そう思いながら道を歩いていた先に、木の柵が見えて来た。
 明らかな人工物を見た俺は村かなと思いながら向かった。
 予想通り、村が見えた。
 入り口の近くには見張りなのか、三十代後半の男が一人立っていた。
 男は俺と見るなり、ジッと見て来た。
「此処はバジル村だ。何か用か?」
 バジル村か。
 確か、香草にそんな名前の奴があったな。
 男は俺をジッと見つつ、持っている槍を構えた。
 穂先はボロボロで少し錆も浮いていた。

 これは、かなり年季が経っている槍の様だ。
 っと、このままだと不審人物になりそうだな。
「・・・・・・旅人のマゴイチと言います。暫く、この村で厄介になりたいのですが」
「旅人か・・・・・・」
 男は俺をジロジロと見る。
 特に荷物を持っていない上に、服はボロボロなので、どう思うだろうか?
「・・・・・・野盗か何かに襲われたのか。可哀そうに」
 男はそう言って、俺を憐憫の目を向けて来た。
 これなら、何とか村に入れそうだな。
「宿屋は一軒しかないからな。服屋も古着屋だけだ。ぞ道のりは、村に入って真っ直ぐ行くと井戸がある。其処から右に曲がって進むば古着屋。真っ直ぐ行って左に曲がれば宿屋があるからな」
「ありがとうございます」
 
 見張りの男は村に俺みたいな奴が来る事が多いのか、まず、何処に行くのか分かっているかの様に、宿屋と古着屋が何処にあるのか教えてくれた。
 男に礼を述べた俺はまずは古着屋に向かった。
 ボロボロの服のままだと目立つからだ。
 そうして、教えられた通りの道を進むと、井戸があった。
 其処を右に曲がって数歩歩くと、木の看板が掲げられた家屋を見つけた。
 看板には服が描かれていた。恐らく古着屋だろう。
 そう思い、ドアノブに手を掛けて回した。
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