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第1話
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九州筑前国。
その国に港湾都市博多。
九州の中でも有数の港湾都市にして、日明貿易の拠点の一つであるからか多くの人達が行き交っていた。
他の土地から来た商人、船乗り、市内に住む町人、都市を守る為の兵士達。
少し離れた所には、花街があり懐が温かい者達は其処に足を向けていった。
貿易の拠点である事からか、毎日様々な商品が商いされていた。
硫黄、銅などの鉱物、扇子、刀剣、漆器や屏風といった物。
他には奴隷が売られていた。
応仁の乱以降、政変、天変地異により国は荒れ果てた。
それにより多くの人々が明日の食う物が困るという生活を送る様になった。
食う物を得る為、野盗となり貧しい人々から奪う者もいれば、自分の家族を人買いに売り食べ物を得る者もいた。
今も市内を人買いに買われ奴隷となった人々が数珠繋ぎで、港へと向かって行った。
野盗に襲われて売られたか、家族に食べ物を与える為に身売りされたかして売られた人々は先導する者に従い歩いていた。
奴隷になった者達は男性と女性の比率は半々であった。年齢も上は三十代、下は十代であった。
見た目は此処に来るまで歩いて来たからか、服は汚れたままで、碌に身体を洗っていないのか異臭を漂わせていた。奴隷の列を眺めている者達もその異臭に手で鼻を抑えていた。
「この先は港だよな」
「可哀そうに。外国に売られるとは、もう二度と故郷に足を踏む事は出来ないな」
「まぁ、奴隷として売られるんだ。よっぽど、運が良くないと生きられないだろうがな」
奴隷になっている者達を哀れそうに見ながら、市民達は自分はああ、ならないで良かったと思っていた。
市内を通り抜けた奴隷達は港に入ると、外航用の船の前まで来た。
「早く乗り込めっ。ぐずぐずするなっ」
奴隷達を連れてきた商人が手に持っている鞭で地面を叩いた。
その音を聞いて、奴隷達は言われるがまま船に乗り込んだ。
その奴隷達の中で十代半ばの少年が足を止めて後ろを振り返った。少年の名前は狂介と言う。
家は代々刀工をする家であった。
だが、狂介が住んでいた土地に野盗が来て、狂介の家族を斬り殺した。
狂介はまだ幼い上に、女性の様に細面で切れ長の目を持っていたので、売れれば金になると思い生かされた。
それで、今こうして奴隷となっていた。
振り返った先には町人達が行き交いながら、楽しそうに話していたり商売の話をしているのが見えた。
「おいっ、そこ、何をしているっ。早く入らぬかっ」
商人が怒鳴り声を上げると、狂介は船に乗り込んだ。
船に乗り込むと、奴隷達は甲板に立たされた。
男性と女性を分けられて立たされている。皆、自分の立場を思い沈んだ顔をしていた。
商人は船の乗組員を顎でしゃくった。
すると、乗組員達は男性の奴隷達の側に来て身体検査しだした。
奴隷達は異臭を発しているので、乗組員達は顔を顰めつつ身体の何処か傷が無いか、異常なないかを調べた。
乗組員たちは調べ終わると、乗組員たちの纏め役に報告した。
「男性の奴隷達は全員、異常なしです」
「良し。全員、船倉に押し込んでおけ。終わったら、女共の方の検査を行う」
「分かりました」
商人にそう命じられて、纏め役の乗組員は他の乗組員達に手で合図を送った。
その合図を見て、乗組員達は触れたくないのか、棒を持ってきて奴隷達を小突きながら、船倉に入る様に促した。
促された奴隷達は船倉へと向かって行った。
その道すがら、狂介が歩きながら外を見た。
時刻は夕方から夜になろうという時間であった。
夜の闇に包まれる前に、灯りをつける店がぽつぽつと増えて行った。
灯りがついた店に町人達は入って行った。
「おい。何処を見ている?」
乗組員が歩きながら何処かを見ている狂介が気になり声を掛けた。
「……町」
「町って、そんなの見て、どうするんだよ?」
「……多分、もう見る事が出来ないから、最後に目に焼き付けておこうと思って」
「はっ、そうかい。まぁ、好きにしな」
狂介達これからの事を憐れんだのか、乗組員は特に何もしなかった。
狂介は船倉に入るまで、博多の街の明かりを見続けた。
そして、それが狂介達が見る日本の最後の光景であった。
その国に港湾都市博多。
九州の中でも有数の港湾都市にして、日明貿易の拠点の一つであるからか多くの人達が行き交っていた。
他の土地から来た商人、船乗り、市内に住む町人、都市を守る為の兵士達。
少し離れた所には、花街があり懐が温かい者達は其処に足を向けていった。
貿易の拠点である事からか、毎日様々な商品が商いされていた。
硫黄、銅などの鉱物、扇子、刀剣、漆器や屏風といった物。
他には奴隷が売られていた。
応仁の乱以降、政変、天変地異により国は荒れ果てた。
それにより多くの人々が明日の食う物が困るという生活を送る様になった。
食う物を得る為、野盗となり貧しい人々から奪う者もいれば、自分の家族を人買いに売り食べ物を得る者もいた。
今も市内を人買いに買われ奴隷となった人々が数珠繋ぎで、港へと向かって行った。
野盗に襲われて売られたか、家族に食べ物を与える為に身売りされたかして売られた人々は先導する者に従い歩いていた。
奴隷になった者達は男性と女性の比率は半々であった。年齢も上は三十代、下は十代であった。
見た目は此処に来るまで歩いて来たからか、服は汚れたままで、碌に身体を洗っていないのか異臭を漂わせていた。奴隷の列を眺めている者達もその異臭に手で鼻を抑えていた。
「この先は港だよな」
「可哀そうに。外国に売られるとは、もう二度と故郷に足を踏む事は出来ないな」
「まぁ、奴隷として売られるんだ。よっぽど、運が良くないと生きられないだろうがな」
奴隷になっている者達を哀れそうに見ながら、市民達は自分はああ、ならないで良かったと思っていた。
市内を通り抜けた奴隷達は港に入ると、外航用の船の前まで来た。
「早く乗り込めっ。ぐずぐずするなっ」
奴隷達を連れてきた商人が手に持っている鞭で地面を叩いた。
その音を聞いて、奴隷達は言われるがまま船に乗り込んだ。
その奴隷達の中で十代半ばの少年が足を止めて後ろを振り返った。少年の名前は狂介と言う。
家は代々刀工をする家であった。
だが、狂介が住んでいた土地に野盗が来て、狂介の家族を斬り殺した。
狂介はまだ幼い上に、女性の様に細面で切れ長の目を持っていたので、売れれば金になると思い生かされた。
それで、今こうして奴隷となっていた。
振り返った先には町人達が行き交いながら、楽しそうに話していたり商売の話をしているのが見えた。
「おいっ、そこ、何をしているっ。早く入らぬかっ」
商人が怒鳴り声を上げると、狂介は船に乗り込んだ。
船に乗り込むと、奴隷達は甲板に立たされた。
男性と女性を分けられて立たされている。皆、自分の立場を思い沈んだ顔をしていた。
商人は船の乗組員を顎でしゃくった。
すると、乗組員達は男性の奴隷達の側に来て身体検査しだした。
奴隷達は異臭を発しているので、乗組員達は顔を顰めつつ身体の何処か傷が無いか、異常なないかを調べた。
乗組員たちは調べ終わると、乗組員たちの纏め役に報告した。
「男性の奴隷達は全員、異常なしです」
「良し。全員、船倉に押し込んでおけ。終わったら、女共の方の検査を行う」
「分かりました」
商人にそう命じられて、纏め役の乗組員は他の乗組員達に手で合図を送った。
その合図を見て、乗組員達は触れたくないのか、棒を持ってきて奴隷達を小突きながら、船倉に入る様に促した。
促された奴隷達は船倉へと向かって行った。
その道すがら、狂介が歩きながら外を見た。
時刻は夕方から夜になろうという時間であった。
夜の闇に包まれる前に、灯りをつける店がぽつぽつと増えて行った。
灯りがついた店に町人達は入って行った。
「おい。何処を見ている?」
乗組員が歩きながら何処かを見ている狂介が気になり声を掛けた。
「……町」
「町って、そんなの見て、どうするんだよ?」
「……多分、もう見る事が出来ないから、最後に目に焼き付けておこうと思って」
「はっ、そうかい。まぁ、好きにしな」
狂介達これからの事を憐れんだのか、乗組員は特に何もしなかった。
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