堕ちた英勇の子

正海広竜

文字の大きさ
上 下
13 / 17

第十二話

しおりを挟む
「入学式の時は公務があって会えなかったけど、その制服似合っているわね。二人共」

「お褒めの言葉。恐縮です」

「き、恐縮です」

 エドワードはすんなりとアルティナは詰まりながらも挨拶に答えた。

 アルティナはカサンドラの事が苦手であった。

 アイギナの朗らかな雰囲気とは違い冷気さえ感じる冷たくも妖しい雰囲気。

 睨みつけている様にしか見えない目。

 ポーカーフェイスで何を考えているか分からせない。

 普段から明朗快活を地でいくアルティナ。

 考えを悟らせない様に冷徹に振舞うカサンドラ。

 性格が違うからか馬が合わない二人。

 エドワードはカサンドラとは幼馴染達とは別に親しくしているのでカサンドラの雰囲気を苦手と感じる事はなかった。

「入学式の時に使いの者から、手紙で『何かの部に入るのを決める時は、先に騎乗部の説明会を聞きに着なさい』と書かれていたので参りましたが」

「まだ、入るか決めていないんでしょう。じっくり考えたら良いわ。今日、呼んだのは、久しぶりに顔を見たいと思ったから呼んだようなものだし」

「左様で」

 この人らしいなと思いながら頷くエドワード。

「そう言えば、アイギナ様は学院でお見掛けしましたが、お元気そうでしたよ」

「そう、まぁ。アイギナなら今頃、媚を打って自分の派閥を作ろうと頑張っているでしょうね」

 アイギナの名を聞くなり、カサンドラは鼻で笑いながら茶を飲む。

 アイギナとカサンドラは腹違の姉妹だが、仲が悪かった。

 エドワードの母のラトレダが後宮の警備を統括している関係で、エドワードは偶に皇女達の母親である妃たちが催す茶会に参加していた。

 なので、それなりに親しくしているのであった。

 カサンドラの話を聞いて苦笑するエドワード。

 暫く会っていなかったが、昔のまんまだなと思い笑った。

「‥…女性の前で他の女性の話をするのは失礼よ。エド」

「これは失礼しました」

 何が気に入らないのか、カサンドラの声に苛立ちが混じっていた。

 エドワードは何が気に入らないのか分からず、とりあえず謝った。

「それとカサンドラ様」

「何かしら?」

「わたしはこの騎乗部にも入りたいです」

「あら、随分と早く決めたわね。でも、他の部にも入るのね」

「はい。友達に誘われましたので」

 アイギナの名を出さないのは、カサンドラとアイギナは仲が悪いので名を出したら妨害とかするかも知れないと思ったからだ。

「友達ね……オスカーかシモンファルトのどっちかしら?」

 カサンドラはエドワードの友達と聞いて、オスカー達の名を挙げた。

 これはエドワードの交友関係を知っているからこそ言える事であった。

「ああ~……シモンですね」

 元々、シモンファルトがアイギナを連れてきた事でアイギナが入っている部に入る事を決めたので、シモンファルトに誘われたというのもあながち間違いではなかった。

「そう……まぁいいわ。其処の所は好きにしなさい」

「ありがとうございます」

 カサンドラのが好きにしろと言うので、エドワードは頭を下げた。

 これで駄目だと言いでもしたら、面倒な事になったので助かったと思うエドワード。

 その後は久しぶりに会うからか雑談に興じる二人。

 その間、アルティナは終始無言であった。

 しばし、雑談に興じていたエドワード達であったが。カサンドラが思い出したように手を叩いた。

「いけない。騎乗部に関する説明を忘れていたわね。ごめんなさい」

「お気になさらずに。それで、騎乗部に関する説明とは何を話すのですか?」

「基本的に騎乗できる魔物であれば、学院が用意するわ。餌代、世話代なども全部込みで」

「ほぅ、それは気前がいいですな」

「ただし、あまり大型な種は駄目だからね。昔、大型の火竜を用意しろという人も居たけど、勿論却下されたから」

 カサンドラは話を聞いて同意とばかりに頷くエドワード。

「どんな魔物に乗りたいのかは入部した時に書いて提出して頂戴、後はこちらで用意して、提出した人に合っているかどうかを調べるから」

「自前で用意するのは大丈夫ですか?」

 其処が気になり訊ねるエドワード。

 騎乗部に入るのであれば、愛馬のドヴェルクにしようと思っていた。

「別に良いわよ。偶に自前で用意するのがいるから。ただし、さっき言ったみたいに大型の竜とかは無しよ」

「心得ております」

 流石に大型の竜に乗るなど有り得ないだろうと思うエドワード。

「そうそう、その内茶会を開くのだけど、参加する?」

「それはご勘弁を」

 ついでとばかりに勧めてくるカサンドラにエドワードは断りを入れた。

「つれないわね。まぁ、良いわ。これで説明は終わりだけど」

「では、失礼します。この後、妹達と一緒に買い物をする予定になっていますので」

 聞きたい事を聞けたエドワードは長居は無用とばかりに、ありもしない予定を言って一礼して教室から出て行った。

 呆気にとられるアルティナ達。

「ふぅ、じゃあ。仕方がないわね。ティナ」

「は、はい」

「貴方は暇? 暇でしょう。暇よね?」

 目が笑っていない笑顔を浮かべつカサンドラはアルティナに訊ねる。

 もし、用事があると言えばどうなるか分からない。

 そういう顔であった。

「え、えっと・・・・・・・はい。なにも、ありません」

「そう。じゃあ、ちょっと久しぶりにお話をしましょう。暇なのだし」

「は、はい・・・・・・」

 蛇に睨まれた蛙の様に固まるアルティナ。

 カサンドラは笑顔であった。

(え、エド~~~~~~~~~~~‼)

 アルティナは心の中で此処には居ないエドワードに恨みの声を上げた。



 教室を出たエドワードは校門まで早足で駆け抜けた。

「・・・・・・どうにか切り抜けた」

 誰も居ないので、思わず安堵の息をもらすエドワード。

 生贄アルティナを置いて来た事には何の罪悪感を感じなかった。

「すまない。ティナ。明日、お詫びするから」

 エドワードは心の中でアルティナに謝った。

 そうして、校門を潜ると。

「あ、出て来た」

「お兄ちゃん~」

 校門を出るとクリュネとストラーが出迎えた。

「どうした? 二人共。今日は早く帰れと言っただろう」

「ぶ~、お兄ちゃんをお迎えに来たのに~」

「可愛い妹達が迎えに来たのに、そんな事を言うの。信じられない~」

 頬を膨らませながらエドワードの対応に文句を付けるクリュネ達。

「ヘレネは?」

 エドワードは首を動かすが、ヘレネの姿が無いので訊ねた。

「ヘレネなら、うちに居るわよ」

「今日の授業の予習をしていると思う」

「真面目なあいつらしいな」

 一人だけ勉強しているヘレネの姿を頭に思い浮かばせて噴き出すエドワード。

「じゃあ、帰りにお土産に何か買って帰るか」

「「賛成」」

 エドワードはクリュネ達の手を掴みながら家の帰路についた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最狂裏ボス転生~チート能力【迷宮の主の権限】を駆使して世界を騙せ~

てんてんどんどん
ファンタジー
VRMMOラスティリア。 プレイヤーは勇者となり、500年前魔王と戦い散っていった英雄たちを召喚して、使役。 彼らとともに魔王を倒し世界を救う、本格幻想ファンタジー!! ……が売り文句のVRMMOの世界に転生してしまった俺。 しかも転生先が500年前の滅亡する世界。英雄たちが魔王と戦っていた時代の、裏ボスの青年期。 最強の迷宮とスキルを所持した裏ボスに転生したものの、魔王は勇者の攻撃しか効かない。 ゲーム上では結局魔王も裏ボスも、互いに争い勝敗がつかぬまま封印されてしまうのだ。 『こうなったら裏ボスと裏ボスの迷宮の力を駆使して魔王を倒し世界の崩壊を止めるしかない!』 通常の方法では魔王は倒せない。 ならば裏をかいてやるのみ!!正義も悪も等しく騙し世界すら欺いて魔王を倒し世界の崩壊を覆してみせる! ずる賢く立ち回り、英雄達を闇に染め配下に加え、魔族の力を取り込みながら魔王を倒すために迷宮の拡大をはかれ! こうして世界を巻き込んだ、ダークヒーローのペテン劇場がいま幕を開ける。 ※他サイトでは別のタイトルで投稿してます(文字数にひっかかったのでタイトル変更)

神魔“シエル”という怪物が生まれてから現在に至るまでの話

小幸ユウギリ
ファンタジー
 かつては人間の、今や魔族の手に堕ちた大国が、一夜にして滅んだ。それは邪神が呼び寄せてしまった“悪魔”によって。  『根源』を取り込まず、純粋な力のみで【原点】と対等に殺し合えてしまう悪魔、【魔神王】シエル。  古い昔にまで遡って、少し語ろうと思う。  これは、自我すら持たなかったはずの生き物が。  本物の怪物……本物の“神魔”になり。  大好きで愛しているヒトを探す話だ。 ※この作品は『深淵の中の希望』の続編的な作品です。先に『深淵の中の希望』を読むことをオススメします。 ※恋愛要素がありますが、あくまで育成・子育てのようなものです。 【追記】 プロローグ〜11話まで1日おきに、12話以降は週一投稿に変更します。

適合者

ひま☆やん
SF
組織の手により作られた、人造異能者である『適合者』。彼ら、彼女らは様々な特殊能力を持ち、その能力を活用して闇の世界で暗躍する。 ※現在移転作業中。

婚約者に言い寄る伯爵令嬢を苛めたらオカマと魔物討伐に行かされた件※若干のBL表現があります

水中 沈
ファンタジー
才色兼備のイザベラ・フォーリー公爵令嬢は婚約者である皇太子アレックスに言い寄る伯爵令嬢シンシャ・リーナスを苛めに苛め抜いた。 それが明るみになり、ある日パーティ会場でイザベラは断罪されてしまう。 その瞬間、イザベラに前世の記憶が蘇る。 日本人として暮らしていた記憶が戻った今、婚約者がいながらシンシャに敬慕するアレックスへの恋心はチリとなり消えた。 百年の恋も冷めた今、追放でもなんでもすればいいじゃない。 今まで社交界で積み上げてきた地位と権力を使ってもっと良いイケメンと結婚してやるわ! と息巻いていたイザベラだったが、予想に反してオカマ3人が率いる0部隊への三年間の兵役を命じられる。 「オカマ部隊での兵役だなんて冗談じゃないわ!!!」 一癖も二癖もあるオカマ達とイザベラが織りなすドタバタ劇の末とは・・・

処理中です...