堕ちた英勇の子

正海広竜

文字の大きさ
上 下
10 / 17

第九話

しおりを挟む
 アイギナ達を加えたエドワード達はある所へ向かった。

「何処に行くのかしら?」

「この学院に入った時に偶々見つけた所です」

 アイギナが訊ねて来たので、エドワードが簡単に説明した。

 偶々、森の実習の時にオスカーとエドワードが見つけた所だ。色々と手を加えて、秘密基地みたいな所となった。エドワード達が向かっているのは、その内の一つだ。

 その場所の事を知っているのはアイギナ達以外のエドワードの幼馴染達と義妹達だけだ。

「そうなの。そんな所があるなんて、知らなかったわ」

「まぁ、パッと見ではそうなっているとは思えない所にありますからね」

「それは楽しみだわ。それにしても」

 アイギナはエドワードの周りを見た。

 エドワードの周りにはクリュネ達が居た。

 クリュネ達はエドワードに甘えている様に見えるが、実際はアイギナとエドワードが近付きすぎない様にくっついていた。

「仲が良いのね。貴方達」

 そんなクリュネ達を見て微笑ましいモノを見たかのように目を緩ませる。

「すいません。人見知りが激しくて皇女様に対して失礼だと思うのですが・・・・・・」

 済まなそうに頭を下げるエドワード。

「ヘレネは分かるけど、クリュネとストラーって人当たりが良いと思ったけど?」

「……そうだな」

 シモンファルトが不思議そうに首を傾げるが、ランドルフは意味ありげに笑う。

 ランドルフの妹がクリュネ達と同じ学校で同じクラスなので、クリュネ達がエドワードの事をどう思っているのか知っているからだ。

 ちなみに、その妹はオスカーに好意を持っていた。

「……まぁ、気持ちは分かるけどね」

 苦笑いするオスカー。

「ふふふ、お兄ちゃん大好きっという感じね」

「そうだな」

 ルイーズとアンリの二人はクリュネ達の行動を見て微笑んでいた。

 エドワードからしたら不敬に問われないか気が気でなかったが、アイギナが特に何も思っていない様なので安堵した。

 そうして歩いていると、大きな樹が見えた。

 樹齢数百年は経っていそうな大木で幹ですら人が五人くらい横に並ぶ位に太く、沢山ある大木の中でもこの樹だけは一際高かった。

 それに比例して枝もかなり太かった。

「これはこの学院が設立した時からあるオークの木のようだけど、これがどうかしたの?」

「まぁ、見ていてください」

 エドワードは笑いながらオスカー達に合図を送った。

 それを見たオスカー達は樹の根元に向かう。

 根元には洞があったが、木が生えており進むのを妨害させていた。

「この場所は悪くないけど、幾度に木をどけるのが面倒だよね」

「同感っ」

「うむ」

 オスカーは呟きながら木を折っていく。その呟きにシモンファルト達も同意した。

 そうして、木を折って進むと木製の扉が見えた。

 オスカーはその取っ手に手を掛けながら呟いた。

「中途半端はいけない」

 そう呟きながら扉を開いた。

 開かれた扉からは黄金色に輝く空間が見えた。

「じゃあ、御先に」

 オスカーがそう言ってアイギナ達に一礼してその扉を潜った。

 シモンファルトとランドルフも同様にアイギナに一礼してその扉を潜っていった。

「あれは?」

「潜れば分かりますよ」

 そう言ってエドワードが扉を潜る様に促した。

「姫様。まずは我々が」

 ルイーズとアンリの二人がそう言うなり、扉を潜った。

 少しすると、アンリが戻って来て。

「問題ありませんわ」

「そう。じゃあ」

 安全を確認されたアイギナはアンリと一緒に扉を潜った。

 眩い空間の中を通り抜けると。

「……此処はっ」

 アイギナの目には広い草原が目に入った。

 青い空に開かれた野原。

 先程までは森の中であったのに、どうして野原に出ているのか不思議であった。

 遠くには何かの動物が草を食べているのが見えた。

「何なの、此処は?」

「此処はあの木の中に扉の中にある異空間ですよ」

 アイギナの疑問に義妹達と共に扉を潜ったエドワードが答えた。

「異空間なの?」

「はい。何かしらの魔法道具だと思います。特に害がないので俺達の秘密基地みたいな感じで使っています」

「……そう」

 これほどの異空間を作り出す魔法道具などそうそうお目に掛かれないのでアイギナは興味深そうに見ていた。

「少し行った所に小屋があります。其処で詳しく話します」

「お願いね」

 エドワードはアイギナの案内をした。

 無論、クリュネ達はエドワードから張り付く様にくっついていた。
エドワードの案内で進むアイギナ達。

 アイギナの友達兼護衛役をしているルイーズは警戒していたが、アンリの方はのほほんとしていた。

 そうして歩いていると、立派な作りの小屋が見えてきた。

 小屋と言う割には大きく、明かりを取り入れる窓などが付けられていた。

「あの小屋?」

「ええ、元々あった小屋を俺達が改造してああなりました。この空間は雨が降らないので」

 主に改造したのはエドワードとランドルフで、オスカーやシモンファルトはその手伝い。

 アルティアに至っては手伝いもしないのに、何だかんだ言って五人の中で一番使用頻度が高い。

「そうなの」

 アイギナは面白そうに小屋を見ていた。

 すると、其処に一頭の馬が駆け寄って来た。

 黄金色の毛で体格も立派で大高は二メートル近くあった。

「大きい馬ね。誰の馬なの?」

「・・・・・・自分のです」

 エドワードは失礼が無いように馬を宥めつつ答える。

「エドの。名前は?」

「ドヴェルクと言います」

「そう」

 アイギナはドヴェルクに触れようと手を伸ばしたが、ドヴェルクは身を捩りアイギナの手から離れた。

 そして、ドヴェルクは鼻を鳴らすと、離れて行った。

 その様を見てエドワードは頭を下げた。

「申し訳ありません。あいつ、人見知りで中々人に懐かないんです」

 普段からドヴェルクはエドワード以外の誰かに身体を触られるのも乗られるのも嫌がる。

 アルティナに至っては見つけるなり威嚇してくる。

 威嚇されたアルティナも喧嘩を売られていると感じたのか、よくドヴェルクの背に乗ろうと頑張っているが、未だに成功していない。

「別に良いわ。馬は元来、臆病な生き物なんだから」

 アイギナは気にした様子はないのを見てエドワードは安堵の息を漏らした。

 ルイーズもアンリも特に気にした様子はなかった。

「では、どうぞ」

 エドワードが小屋の扉を開けてアイギナ達を入れた。

 室内は思ったよりも広く、それでいて色々な物が置かれていた。

 食事用のテーブルやイス。置物や玩具。果てはダンベルなどの身体を鍛える器具などが置かれていた。

「狭い所ですが。御寛恕を」

「別に気にしていないわ。むしろ、秘密基地というのはこんな感じなのかしらね」

 アイギナは小屋の中を面白そうに見て回っていた。

 その間とばかりにオスカー達やルイーズたちがお昼の準備をしていた。 

 クリュネ達にはその間の世話役をさせた。

 この間、誰も一言も話していないがアイコンタクトを取り決めていた。

 学年は違えど、エドワード達は幼馴染なのである程度のやり取りは目を見ただけで出来た。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...