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第7話 最後の挨拶
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カゲヒコとキャンティは王都にある建物の上に座り、舞い散るビラを眺めていた。
二人は魔法で姿を消しているため、ビラに気を取られた住民達に見咎められることはなかった。
「こんな文言で釣れるかね。さすがにあからさま過ぎないか?」
「釣れますよ。絶対に」
魔法でばらまいたビラの一枚を見やり疑わしげにつぶやくカゲヒコであったが、答えるキャンティの口調は断言的である。
その眼には成功を確信した強い光が宿っている。
四覇天の一人、クリョウカンは闇魔法の使い手である。
闇魔法は幻術や認識疎外の魔法が多くあり、その達人を探し出して捉えることは賢者であるカゲヒコをもってしても至難である。
そのため、魔族の言語で書かれた呼び出しのビラをまくことでクリョウカンをおびき寄せることをカゲヒコは発案した。
ビラの文言を考えたのはクリョウカンのことをよく知るキャンティであったが、その内容はあまりにもストレートなものだった。
「クリョウカンは確かに神策鬼謀の策士です。しかし、それ以上に先代様の忠臣でもあります。先代様の遺品をちらつかせれば、たとえ罠であるときが付いていても必ず飛び込んできます」
「遺品、ねえ。そんなものがあったかな?」
「しらじらしいですね。貴方が持っているのでしょう?」
キャンティは口笛を吹いて嘯くカゲヒコを睨みつける。
勇者パーティが先代魔王から奪っていった物は、目の前の男が必ず持っている。それを確信しているのだ。
「魔王ニクジャガンの心臓のことを言ってるのかい」
先代魔王・ニクジャガン。
人類を憎み、殲滅を志した魔王の正体は『昼歩く吸血鬼』である。
不死の肉体を持つ吸血鬼を倒すためには、木の杭などで心臓を潰したうえで灰を日光にさらすことが必要になる。
高位の吸血鬼であれば灰からでも蘇ることがあるため、やりすぎなくらい殺し尽くさなければならない。
しかし、困ったことに日光に耐性を持っていた魔王ニクジャガンは勇者の聖剣に胸を貫かれ、灰となってもまだ復活して襲ってきた。
結局、魔王ニクジャガンを殺しきれなかった勇者パーティは、ニクジャガンの肉体をいくつかに分けて封印することにした。
当然、ニクジャガンを慕っている魔族はその復活を狙ってくるだろう。
最も重要な部位である『心臓』はカゲヒコのアイテムボックスに入れられており、時間の止まった異空間に永遠に収納する予定だった。
「なるほどな、俺を殺して心臓を奪いに来るってわけか」
カゲヒコは天を仰ぎ、フー、と長い息を吐いた。
心臓の管理を買って出たのはカゲヒコ自身であるが、
勇者パーティの元締めであるブレイブ王国は信用できないし、未成年者である他のメンバーに危険な役目を押し付けるわけにはいかない。
「ま、命を狙われる理由なんて10も20も変わらないな。どうせ明日とも知れない怪盗生活だ。ついでに魔王軍も相手になってやるさ」
「ふん、私達をついでとはずいぶんと言ってくれますね」
「ははっ、そういえば気になってたけど、君は先代魔王の心臓を取り返そうとは思わないのか?」
前から気になっていたことを尋ねると、キャンティは整ったまゆをへの字に曲げた。
「不忠者、そう呼ばれるのでしたら甘んじて受ける覚悟です。しかし、私が忠義を誓っているのは現・魔王であるチョコレータパフィ様です。お父君である先代魔王への敬意よりも、パフィ様への忠義のほうが勝ります」
「ほー、だったらいいけどな」
カゲヒコは疑わしげな表情をしながらも、とりあえず肩をすくめて納得するふりをする。
そんなカゲヒコの顔をキャンティは強く睨みつけて、
「もしも私が誰かを殺すとしたら、先代様のためではなくパフィ様につきまとう悪い虫を駆除するためでしょうね。たとえば・・・オーバーアイテムと交換にいやらしいことをする契約をしている殿方とか」
「おっかねえなあ、そんなに睨むなよ」
激しい殺意のこもった視線を受けて、カゲヒコは降参をするように両手を広げるのであった。
二人は魔法で姿を消しているため、ビラに気を取られた住民達に見咎められることはなかった。
「こんな文言で釣れるかね。さすがにあからさま過ぎないか?」
「釣れますよ。絶対に」
魔法でばらまいたビラの一枚を見やり疑わしげにつぶやくカゲヒコであったが、答えるキャンティの口調は断言的である。
その眼には成功を確信した強い光が宿っている。
四覇天の一人、クリョウカンは闇魔法の使い手である。
闇魔法は幻術や認識疎外の魔法が多くあり、その達人を探し出して捉えることは賢者であるカゲヒコをもってしても至難である。
そのため、魔族の言語で書かれた呼び出しのビラをまくことでクリョウカンをおびき寄せることをカゲヒコは発案した。
ビラの文言を考えたのはクリョウカンのことをよく知るキャンティであったが、その内容はあまりにもストレートなものだった。
「クリョウカンは確かに神策鬼謀の策士です。しかし、それ以上に先代様の忠臣でもあります。先代様の遺品をちらつかせれば、たとえ罠であるときが付いていても必ず飛び込んできます」
「遺品、ねえ。そんなものがあったかな?」
「しらじらしいですね。貴方が持っているのでしょう?」
キャンティは口笛を吹いて嘯くカゲヒコを睨みつける。
勇者パーティが先代魔王から奪っていった物は、目の前の男が必ず持っている。それを確信しているのだ。
「魔王ニクジャガンの心臓のことを言ってるのかい」
先代魔王・ニクジャガン。
人類を憎み、殲滅を志した魔王の正体は『昼歩く吸血鬼』である。
不死の肉体を持つ吸血鬼を倒すためには、木の杭などで心臓を潰したうえで灰を日光にさらすことが必要になる。
高位の吸血鬼であれば灰からでも蘇ることがあるため、やりすぎなくらい殺し尽くさなければならない。
しかし、困ったことに日光に耐性を持っていた魔王ニクジャガンは勇者の聖剣に胸を貫かれ、灰となってもまだ復活して襲ってきた。
結局、魔王ニクジャガンを殺しきれなかった勇者パーティは、ニクジャガンの肉体をいくつかに分けて封印することにした。
当然、ニクジャガンを慕っている魔族はその復活を狙ってくるだろう。
最も重要な部位である『心臓』はカゲヒコのアイテムボックスに入れられており、時間の止まった異空間に永遠に収納する予定だった。
「なるほどな、俺を殺して心臓を奪いに来るってわけか」
カゲヒコは天を仰ぎ、フー、と長い息を吐いた。
心臓の管理を買って出たのはカゲヒコ自身であるが、
勇者パーティの元締めであるブレイブ王国は信用できないし、未成年者である他のメンバーに危険な役目を押し付けるわけにはいかない。
「ま、命を狙われる理由なんて10も20も変わらないな。どうせ明日とも知れない怪盗生活だ。ついでに魔王軍も相手になってやるさ」
「ふん、私達をついでとはずいぶんと言ってくれますね」
「ははっ、そういえば気になってたけど、君は先代魔王の心臓を取り返そうとは思わないのか?」
前から気になっていたことを尋ねると、キャンティは整ったまゆをへの字に曲げた。
「不忠者、そう呼ばれるのでしたら甘んじて受ける覚悟です。しかし、私が忠義を誓っているのは現・魔王であるチョコレータパフィ様です。お父君である先代魔王への敬意よりも、パフィ様への忠義のほうが勝ります」
「ほー、だったらいいけどな」
カゲヒコは疑わしげな表情をしながらも、とりあえず肩をすくめて納得するふりをする。
そんなカゲヒコの顔をキャンティは強く睨みつけて、
「もしも私が誰かを殺すとしたら、先代様のためではなくパフィ様につきまとう悪い虫を駆除するためでしょうね。たとえば・・・オーバーアイテムと交換にいやらしいことをする契約をしている殿方とか」
「おっかねえなあ、そんなに睨むなよ」
激しい殺意のこもった視線を受けて、カゲヒコは降参をするように両手を広げるのであった。
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