79 / 85
第7話 最後の挨拶
(6)
しおりを挟む
カゲヒコとキャンティは王都にある建物の上に座り、舞い散るビラを眺めていた。
二人は魔法で姿を消しているため、ビラに気を取られた住民達に見咎められることはなかった。
「こんな文言で釣れるかね。さすがにあからさま過ぎないか?」
「釣れますよ。絶対に」
魔法でばらまいたビラの一枚を見やり疑わしげにつぶやくカゲヒコであったが、答えるキャンティの口調は断言的である。
その眼には成功を確信した強い光が宿っている。
四覇天の一人、クリョウカンは闇魔法の使い手である。
闇魔法は幻術や認識疎外の魔法が多くあり、その達人を探し出して捉えることは賢者であるカゲヒコをもってしても至難である。
そのため、魔族の言語で書かれた呼び出しのビラをまくことでクリョウカンをおびき寄せることをカゲヒコは発案した。
ビラの文言を考えたのはクリョウカンのことをよく知るキャンティであったが、その内容はあまりにもストレートなものだった。
「クリョウカンは確かに神策鬼謀の策士です。しかし、それ以上に先代様の忠臣でもあります。先代様の遺品をちらつかせれば、たとえ罠であるときが付いていても必ず飛び込んできます」
「遺品、ねえ。そんなものがあったかな?」
「しらじらしいですね。貴方が持っているのでしょう?」
キャンティは口笛を吹いて嘯くカゲヒコを睨みつける。
勇者パーティが先代魔王から奪っていった物は、目の前の男が必ず持っている。それを確信しているのだ。
「魔王ニクジャガンの心臓のことを言ってるのかい」
先代魔王・ニクジャガン。
人類を憎み、殲滅を志した魔王の正体は『昼歩く吸血鬼』である。
不死の肉体を持つ吸血鬼を倒すためには、木の杭などで心臓を潰したうえで灰を日光にさらすことが必要になる。
高位の吸血鬼であれば灰からでも蘇ることがあるため、やりすぎなくらい殺し尽くさなければならない。
しかし、困ったことに日光に耐性を持っていた魔王ニクジャガンは勇者の聖剣に胸を貫かれ、灰となってもまだ復活して襲ってきた。
結局、魔王ニクジャガンを殺しきれなかった勇者パーティは、ニクジャガンの肉体をいくつかに分けて封印することにした。
当然、ニクジャガンを慕っている魔族はその復活を狙ってくるだろう。
最も重要な部位である『心臓』はカゲヒコのアイテムボックスに入れられており、時間の止まった異空間に永遠に収納する予定だった。
「なるほどな、俺を殺して心臓を奪いに来るってわけか」
カゲヒコは天を仰ぎ、フー、と長い息を吐いた。
心臓の管理を買って出たのはカゲヒコ自身であるが、
勇者パーティの元締めであるブレイブ王国は信用できないし、未成年者である他のメンバーに危険な役目を押し付けるわけにはいかない。
「ま、命を狙われる理由なんて10も20も変わらないな。どうせ明日とも知れない怪盗生活だ。ついでに魔王軍も相手になってやるさ」
「ふん、私達をついでとはずいぶんと言ってくれますね」
「ははっ、そういえば気になってたけど、君は先代魔王の心臓を取り返そうとは思わないのか?」
前から気になっていたことを尋ねると、キャンティは整ったまゆをへの字に曲げた。
「不忠者、そう呼ばれるのでしたら甘んじて受ける覚悟です。しかし、私が忠義を誓っているのは現・魔王であるチョコレータパフィ様です。お父君である先代魔王への敬意よりも、パフィ様への忠義のほうが勝ります」
「ほー、だったらいいけどな」
カゲヒコは疑わしげな表情をしながらも、とりあえず肩をすくめて納得するふりをする。
そんなカゲヒコの顔をキャンティは強く睨みつけて、
「もしも私が誰かを殺すとしたら、先代様のためではなくパフィ様につきまとう悪い虫を駆除するためでしょうね。たとえば・・・オーバーアイテムと交換にいやらしいことをする契約をしている殿方とか」
「おっかねえなあ、そんなに睨むなよ」
激しい殺意のこもった視線を受けて、カゲヒコは降参をするように両手を広げるのであった。
二人は魔法で姿を消しているため、ビラに気を取られた住民達に見咎められることはなかった。
「こんな文言で釣れるかね。さすがにあからさま過ぎないか?」
「釣れますよ。絶対に」
魔法でばらまいたビラの一枚を見やり疑わしげにつぶやくカゲヒコであったが、答えるキャンティの口調は断言的である。
その眼には成功を確信した強い光が宿っている。
四覇天の一人、クリョウカンは闇魔法の使い手である。
闇魔法は幻術や認識疎外の魔法が多くあり、その達人を探し出して捉えることは賢者であるカゲヒコをもってしても至難である。
そのため、魔族の言語で書かれた呼び出しのビラをまくことでクリョウカンをおびき寄せることをカゲヒコは発案した。
ビラの文言を考えたのはクリョウカンのことをよく知るキャンティであったが、その内容はあまりにもストレートなものだった。
「クリョウカンは確かに神策鬼謀の策士です。しかし、それ以上に先代様の忠臣でもあります。先代様の遺品をちらつかせれば、たとえ罠であるときが付いていても必ず飛び込んできます」
「遺品、ねえ。そんなものがあったかな?」
「しらじらしいですね。貴方が持っているのでしょう?」
キャンティは口笛を吹いて嘯くカゲヒコを睨みつける。
勇者パーティが先代魔王から奪っていった物は、目の前の男が必ず持っている。それを確信しているのだ。
「魔王ニクジャガンの心臓のことを言ってるのかい」
先代魔王・ニクジャガン。
人類を憎み、殲滅を志した魔王の正体は『昼歩く吸血鬼』である。
不死の肉体を持つ吸血鬼を倒すためには、木の杭などで心臓を潰したうえで灰を日光にさらすことが必要になる。
高位の吸血鬼であれば灰からでも蘇ることがあるため、やりすぎなくらい殺し尽くさなければならない。
しかし、困ったことに日光に耐性を持っていた魔王ニクジャガンは勇者の聖剣に胸を貫かれ、灰となってもまだ復活して襲ってきた。
結局、魔王ニクジャガンを殺しきれなかった勇者パーティは、ニクジャガンの肉体をいくつかに分けて封印することにした。
当然、ニクジャガンを慕っている魔族はその復活を狙ってくるだろう。
最も重要な部位である『心臓』はカゲヒコのアイテムボックスに入れられており、時間の止まった異空間に永遠に収納する予定だった。
「なるほどな、俺を殺して心臓を奪いに来るってわけか」
カゲヒコは天を仰ぎ、フー、と長い息を吐いた。
心臓の管理を買って出たのはカゲヒコ自身であるが、
勇者パーティの元締めであるブレイブ王国は信用できないし、未成年者である他のメンバーに危険な役目を押し付けるわけにはいかない。
「ま、命を狙われる理由なんて10も20も変わらないな。どうせ明日とも知れない怪盗生活だ。ついでに魔王軍も相手になってやるさ」
「ふん、私達をついでとはずいぶんと言ってくれますね」
「ははっ、そういえば気になってたけど、君は先代魔王の心臓を取り返そうとは思わないのか?」
前から気になっていたことを尋ねると、キャンティは整ったまゆをへの字に曲げた。
「不忠者、そう呼ばれるのでしたら甘んじて受ける覚悟です。しかし、私が忠義を誓っているのは現・魔王であるチョコレータパフィ様です。お父君である先代魔王への敬意よりも、パフィ様への忠義のほうが勝ります」
「ほー、だったらいいけどな」
カゲヒコは疑わしげな表情をしながらも、とりあえず肩をすくめて納得するふりをする。
そんなカゲヒコの顔をキャンティは強く睨みつけて、
「もしも私が誰かを殺すとしたら、先代様のためではなくパフィ様につきまとう悪い虫を駆除するためでしょうね。たとえば・・・オーバーアイテムと交換にいやらしいことをする契約をしている殿方とか」
「おっかねえなあ、そんなに睨むなよ」
激しい殺意のこもった視線を受けて、カゲヒコは降参をするように両手を広げるのであった。
0
お気に入りに追加
1,141
あなたにおすすめの小説

『俺だけが知っている「隠しクラス」で無双した結果、女神に愛され続けた!』
ソコニ
ファンタジー
勇者パーティから「役立たず」として追放された冒険者レオン・グレイ。彼のクラスは「一般職」――この世界で最も弱く、平凡なクラスだった。
絶望の淵で彼が出会ったのは、青い髪を持つ美しき女神アステリア。彼女は驚くべき事実を告げる。
かつて「役立たず」と蔑まれた青年が、隠されたクラスの力で世界を救う英雄へと成長する物語。そして彼を導く女神の心には、ある特別な感情が芽生え始めていた……。
爽快バトル、秘められた世界の真実、そして禁断の恋。すべてが詰まった本格ファンタジー小説、ここに開幕!
見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる
グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。
『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。
2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。
主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる