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第6話 怪盗シャドウ抹殺計画
(10) 完
しおりを挟む「ふい~、今回は難儀したぜ」
「お疲れさまでした。大変だったみたいですね?」
いつもの食堂で、いつものウェイトレスがお茶を入れてくれた。
カゲヒコはやすい茶葉で淹れられた出涸らしのお茶を、やや顔をしかめながら喉へと流し込む。
「ローウィ・サンダロン・・・噂には聞いていましたが、想像以上に頭のネジが外れた方みたいですね」
呆れた調子で言って、サーナはカゲヒコに同情の視線を向けた。
「あのじいさんとはいずれ決着をつけないとな。貸しを作ったままにするのは性に合わない」
すでにローウィ・サンダロンはこの世にはいないのだが、それを知らないカゲヒコは真剣な表情でそんなことを口にした。
「まあ、怪盗として悪党の道を進むことを選んだ以上、ああいう手合いが出てくることは予想していたさ。それも承知で、こういう生き方を選んだんだからな」
「・・・窮屈じゃありませんか、あなたの生き方は」
少し気を使ったような調子のサーナに、カゲヒコはニヤリと笑う。
「窮屈なだけじゃあないさ。少なくとも、退屈ではないからな」
「怪盗も辛いですね」
「闇ギルドほどじゃあないさ」
カラン、コロン。食堂のドアベルが鳴った。どうやら新しい客が入ってきたようだ。
カゲヒコはサーナから視線をはずして、手元のお茶と茶菓子を片付けにかかった。サーナもその場を離れて新しい客の元へ行く。
「いらっしゃいませー・・・あら?」
「一人だ・・・・・・静かに食べられる席にしてくれ」
「ん!?」
聞き覚えのある声だった。バレないようにちらりと振り向くと、そこには鎧を身に着けた女騎士の姿があった。
先日の夜に嫌というほど見た女、マティルダ・マルストフォイである。
マティルダはカウンターの隅の席に座り、下をうつむきながらサーナへと注文を告げる。
「お酒・・・とにかく酒をくれ」
「ええと、今はお昼ですけど・・・大丈夫ですか?」
「いいんだ・・・飲まないとやっていられない」
サーナが注文通りに酒の瓶を持っていくと、マティルダはそれをコップに注ぐことなくラッパ飲みをしだした。
あまりにも豪快な飲みっぷりに、サーナも離れた席で見ていたカゲヒコも、そろって目を丸くしてしまう。
「ず、ずいぶんと良い飲みっぷりですね・・・その、何か嫌なことでもあったんですか?」
サーナが恐る恐る尋ねると、マティルダはバッと顔を上げて爛々とした目でサーナを見つめる。
「ひっ・・・!」
「よくぞ聞いてくれた! ひどい目に遭ったんだ!」
マティルダは怯えた様子のサーナへと、ここ数日の出来事を熱く語りだした。
何者かに拉致されて監禁されたこと。
おかしな薬品を注射されてそこから記憶がなくなってしまったこと。
気が付けば、全裸にマントを羽織っただけの姿で廃墟で眠っていたこと。
「そのせいで・・・私はその格好で家に帰ることになったんだぞ!? あんな姿で、裸同然の格好で・・・!」
「そ、それは災難でしたね・・・」
サーナがちらりと、カゲヒコのほうを睨みつけた。
「ええっと・・・確かに配慮が足りなかったかなあ?」
新設のつもりでマントをかけてあげたのだが、よくよく考えても見ればそれだけで若い女性の肌を隠しきれるわけもない。
ましてや、目の前にいる女騎士は見るからにグラマラスな体型をしているのだから。
「いっぱい見られた・・・! 知ってる人にも、知らない人にも、足やら胸やら見られてしまった・・・! もうお嫁に行けない・・・!」
マティルダはボタボタと涙をカウンターへと落として、次の瞬間には憤怒の表情で猛然と立ち上がった。
「これも全部、怪盗シャドウのせいだ! 私を拉致して、裸で放り出したのもシャドウに違いない! あの変態泥棒目・・・! 絶対に見つけ出して殺してやるうううううっ!」
「うわあ・・・」
カゲヒコは情けない声を出して、天を仰いだ。
どうやら、殺人マシーン・マティルダに追いかけられる日々はこれからも続きそうであった。
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