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第6話 怪盗シャドウ抹殺計画

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 気がつけば、暗い部屋の中で椅子に座っていた。

「う・・・ここは・・・?」

 彼女の名前はマティルダ・マルストフォイ。
 スレイヤー王国騎士団に所属しており、「怪盗シャドウ対策部隊」の隊長を務めている女騎士である。

 マティルダは椅子に座らされた状態で縄に縛られていた。椅子の背もたれごと拘束されているため、立ち上がることすらできない。

「いったいどうしてこんな所に・・・? 私は、たしか・・・」

 マティルダはぼんやりとする頭に活を入れて、直前の記憶を思い起こす。
 たしか、自分は怪盗シャドウの手掛かりを求めて王都で聞き込みをしていたはずである。
 それなのに、いったいどうしてこんな場所に・・・

「目を覚ましたかね。マティルダ・マルストフォイ君?」

「っ、誰だ!?」

 突然、かけられた声にマティルダは鋭く反応する。
 声がした方向を見ると、暗闇に薄ぼんやりと浮かぶ影があった。

「あなたは・・・」

 徐々に暗闇に目が慣れていき、相手の姿がはっきりとしていく。
 そこに立っていたのは、腰の曲がった老人であった。

 灰のシャツの上に医師のような白衣を羽織った老人は、あごひげを撫でながらのっそりとマティルダに歩み寄ってくる。

「ほっほっほっ、気分はどうかね? 頭は打っていないかね? 吐き気などの症状があれば遠慮なく言いたまえよ」

「貴様・・・何者だ? 私をどうするつもりだ!?」

 気遣わしげな老人の言葉を無視して、マティルダは目を鋭くして詰問する。
 老人の態度は終始、穏やかなものであったが、拘束されているマティルダとしては落ち着いてなどいられない。
 比較的、治安が良いスレイヤー王国でも誘拐や人身売買は横行しているのだから。

「落ち着きのない娘じゃな、まあ良い。わしの名前はローウィ・サンダロン。マジックアイテムを研究している発明家じゃよ」

「発明家・・・?」

「うむ」

 聞き覚えのない単語に訊き返すと、ローウィと名乗った老人は鷹揚に頷いた。

「お主のことは良く知っておるよ。怪盗シャドウを担当している騎士じゃろう? 随分とてこずっているようじゃな」

「・・・誘拐犯には関係ない」

 痛いところを突かれて、マティルダが悔しそうに表情をしかめた。
 怪盗シャドウ対策部隊の隊長に就任してから数ヵ月ほど経つが、いまだにシャドウを捕らえるどころか、仮面の下の正体を暴く手掛かりすらもつかめていない。

「ほっほっ、老人をそう邪険にするもんじゃあない。ワシはお主の手助けがしたいと思って、ここに招待したのじゃよ」

「手助け、だと?」

「そうとも。シャドウを捕まえるための力をお主に渡したいと思ってな」

 老人の提案を受けて、マティルダは胡散臭そうに表情を歪めた。
 いくら世間知らずな所がある貴族出身の女騎士とはいえ、こんな妖しげな老人の提案に飛び乗るほど愚かではなかった。

「なあに、そんなに疑うことはない。ワシはお主を傷つけるつもりはない。お主にはワシのモルモットに・・・違うな、実験台、でもなくて、ええと・・・そう、被験者になってもらいたいだけじゃ!」

「・・・・・・」

 マティルダを安心させようと話し続けるローウィであったが、老人が口を開くたびにマティルダの疑心は深まっていく。

「悪いが、断らせてもらう。他をあたって・・・」

「そうか、やってくれるか! それは有り難い!」

「なっ!」

「うむうむ、お主ならばそう言ってくれると思っていたぞ? さすがは騎士の鑑じゃな!」

「ま、待て! 誰がやると言った!?」

「最近は耳が遠くなっていかんのー。ほっほっ、晩御飯はまだかのー?」

「こ、この・・・!」

 マティルダはジタバタと暴れて拘束を抜け出そうとするが、太いロープは微塵も解ける様子はない。

「ほっほっほっ、やる気満々じゃのう。頼もしいわい」

「く、くそっ! ほどけっ!」

「では、さっそく始めるかのう」

 ローウィは懐から注射器を取り出した。
 冗談のように明るい緑色の液体で満たされた注射器を、マティルダの首元へとプスリと突き刺す。

「くっ・・・かっ・・・ああっ・・・やあっ・・・」

 得体のしれない液体を体内に入れられて、マティルダの身体がぶるりと震える。艶のある悩ましげな声が口から漏れだす。

「心配はいらん。命を脅かすような毒薬じゃあない。次に目覚めるときには、シャドウの首を抱えているはずじゃよ」

「・・・ああっ・・・」

 孫にかけるような優しげな口調でローウィが言う。
 マティルダの意識は底なし沼に沈むように、闇の中へと呑み込まれていった。
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