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第3話 ホーンテッド・キャッスル

(11) 完

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「タッタタッター、ターラーラー!」

 黒野カゲヒコは鼻歌を口ずさみながら、上機嫌にサブロナ城の掃除をしていた。
 かつてアンデットが支配していた城からは邪悪な気配は消えており、埃っぽい臭いと窓から差す太陽の香りに包まれている。

「ターラーラーラー、第2階梯魔法【清掃】」

 カゲヒコが魔法を発動させると、長年、人の手が入らずに堆積している埃と天井の蜘蛛の巣がまとめて消え失せる。

「持つべきものはマイホーム! 俺も今日から一国一城の主か!」

 ルリアが昇天したことにより、サブロナ城に巣食っていたアンデットは残らず消滅した。
 残ったのは無人の城。それも人がめったに立ち入ることのない絶好の隠れ家スポットだ。
 せっかくなので、カゲヒコはこの城を自分のものにして、怪盗シャドウのアジトにすることにした。

「もう! 何がマイホームですか! 大変だったんですよ!?」

 一緒に城の掃除をしていたサーナが左右でくくった髪を揺らして抗議の声を上げる。

「サブロナ一家はいなくなりましたけど、ここはれっきとしたスレイヤー王国の領地なんですからね! ここに人が立ち入らないように情報操作するのに、どれだけの手間がかかったと思ってるんですか!」

「いいじゃないか、それくらい。今回の報酬と思えば安いものだろう?」

 サブロナ城からアンデットがいなくなったと聞けば、スレイヤー王家は城を壊して領地を再利用するかもしれない。そのため、サーナを始めとした闇ギルドのエージェントに頼んで、さらに危険なアンデットが城に現れたと情報操作をしてもらった。
 おかげで冒険者達の足も遠のいており、あとは賢者であるカゲヒコが結界を張って幻術やゴーレムなどの防御機構を設置すれば、難攻不落のアジトの完成である。

「ちゃーんとルリアからこの城に住んでいいって許可は貰ったからな。存分に利用させてもらうさ」

「もう! ちゃっかりしてるんだから!」

「ほれほれ、話してる暇があるならそっちの荷物を運べ。中身は盗んだ美術品だから丁寧に扱えよ」

「はいはい、わかりましたよー」

『これはどこに運ぶの? お兄さん?』

「あー、それは絵画だから寝室の方へ・・・」

 ピタリ、とカゲヒコの動きが停止する。サーナもまた、あんぐりと口を開いて銅像のように固まる。

『あれ? どうかしたの?』

「・・・いや、ルリア。何でここにいる?」

 そこにいたのは、昇天したはずのサブロナ姉妹の妹。幽霊少女のルリアである。

『ここは私の城だもん。いるのは当たり前でしょ!』

「そりゃそうだけど・・・」

「て、天国に行ったんじゃないんですかあ?」

 震える声でサーナがつぶやく。考えてみれば、サーナはルリアに会うのは初めてだ。ツインテールをプルプルと震わせて、闇ギルドの小さなエージェントは涙目になっている。

『だってー、ひどいんだよ。私、せっかくお空の上まで飛んでったのに、天国の門に入れてくれなかったんだよー』

 話を聞いてみると、どうやらルリアは天国から入国拒否をされてしまったらしい。
 その原因は彼女の現世での行いである。さまよう魂をアンデットに作り変えたことや、城に入ってきた冒険者を殺したこと、その冒険者の魂をさらにアンデットにしたことなどなど。
 それらの罪状により、天国の門番から地獄行きを宣告されてしまったらしい。

「いや、まあ、確かに・・・」

「それはそうですよねえ」

『お姉ちゃんは先に天国に入っちゃったから、また一人きりになっちゃったんだよ! 一人で地獄に行くの怖いし、また城に戻ってくるしかないじゃない!』

「なんというか・・・ご愁傷様。文字通りに」

 カゲヒコは呆れ半分、同情半分にルリアに慰めの言葉をかける。しかし、ルリアに落ち込んだ様子はなく、むしろテンション高めにカゲヒコに抱きついてくる。

『しかたがないからね、ルリアはお兄さんが死ぬのを待つことにしたんだ!』

「は?」

『お姉ちゃんから聞いたよ! お兄さんって泥棒さんなんだよね。だったら、お兄さんが死ぬのを待ってて、一緒に地獄に行ってあげる! 二人だったら怖くないよ!』

 えへん、と胸を張るルリア。カゲヒコは嫌そうな表情をする。

「えー・・・」

『えへへ、それまでずっと一緒だからね!』

 ルリアの満面の笑みを見て、カゲヒコは肩を落とした。
 せっかく手に入れた念願のマイホームには、どうやら同居人がついてくるようである。
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