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第3話 ホーンテッド・キャッスル

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 スレイヤー王国の南方にあるトライデント公国は南を海に面していて、漁業と開運貿易で栄えている新興国である。
 その東部地域に小さな領地を与えられているロット男爵の館に侵入するのは、怪盗シャドウにとって容易い仕事だった。

「そうですか・・・妹と会ったんですね」

「事情を話してくれるんだろうな」

「もちろんです。全て、お話いたします」

 シャドウの姿を目にしたロット夫人は落ち着いた様子で、騒ぐことなくシャドウに事情を話してくれた。どうやら、闇ギルドに依頼をしたことでシャドウのように怪しい人物が現れるかもしれないことを予想していたらしい。

 枯れ木のようにやせ細った老婆は、億劫そうな様子でベッドから身を起こす。枕元のテーブルに置かれていた水差しからコップに水を注ぎ、色を失った唇を湿らせる。

「あれは、50年前のことです・・・」

 ロット夫人の話は途中まではルリアから聞いた話と同じだった。異なっていたのは、ルリアと別れてから先の部分だ。

 ルリアと最後の別れを済ませたサリア・サブロナは城に残っていた兵士達を集めて、最後の突撃の準備をした。しかし、城を討って出る直前になって、兵士達の強い要望により城で働いていた侍女と入れ替わることになったらしい。
 一刻も早く王都から応援を呼ぶためには、サリア自身が国王の下にたどり着かなければならない。そのためには、たとえ臣下を犠牲にしてでも生きてもらわなければ困る。そんな風に説得をされて、サリアは渋々ながら侍女の服に着替えて、決死隊が突撃する混乱に乗じて城を脱出した。

 もしも敵国の兵士に捕まってしまえば、たとえサリアの正体がばれなかったとしても、敵兵の慰み者にされ奴隷として売り飛ばされる可能性がある。脱出は決して楽なものではなかった。
 しかし、幸いにしてサリアは無事に王都にたどり着くことができ、親交のあった王都の貴族を通じて国王に救援を頼むことに成功した。

「でも・・・それがかえっていけなかったのです」

 国王が迅速に救援を送ったことで、焦った敵国はサブロナ城へと火をかけてしまった。その結果、ルリアは宝物庫でサリアの帰りを待ったまま焼け死ぬことになった。

「・・・それは結果論だろ? 仕方がなかったと思うがね」

「・・・私もそう思うようにしました。でも、出来ませんでした」

 自分の行動の結果として妹を死に追いやってしまったサリアは心を病んでしまった。そんな彼女を気遣って、国王は彼女をスレイヤー王国の表舞台から消し去ることにした。サリア・サブロナが生き残っていることが知れたら、他の貴族から「家族と領地を捨てて逃げ出した女」として非難を受けるかもしれないからだ。
 サリアは名誉の戦死を遂げたことになり、密かにトライデント公国の療養地へと送られた。

「そこで出会った夫と結婚して、ロット侯爵家に嫁ぐことになりました。夫は私の素性の一切を詮索せず、心を病んだ憐れな女を慈しんでくれました」

「なるほど。幸せに暮らしてきたわけだ」

「ええ、妹がアンデットになっていることも知らずに・・・」

 ほう、とロット夫人は溜息をついた。

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