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第3話 ホーンテッド・キャッスル

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『あれ? お兄さん、だあれ?』

 突然、現れた仮面の男を見て少女が首を傾げた。
 対するシャドウは、予想外の事態に隠れるのも忘れて立ち尽くしている。

『お兄さんも幽霊だよね。壁をすり抜けてきたし』

「・・・お兄さん、も?」

『ひょっとして死んだばかりでわかってないの? 大丈夫、ルリアもお兄さんと同じ幽霊だから怖くないよ』

 どうやら少女の名前はルリアというらしい。
 ピンク色のドレスを着た栗毛の少女は、ふわふわと浮かんでシャドウの元へと飛んでくる。

(ゴースト・・・いや、レイスか)

 シャドウ・・・賢者クロノ・カゲヒコは勇者パーティーとしての旅の途中で、何度かゴーストと呼ばれる存在を目の当たりにしてきた。

 魔族との戦いでの戦死者、モンスターに敗れた冒険者、幼い子供を残して亡くなった母親。強い未練や後悔を残して死んだ人間がゴーストと呼ばれるアンデットとして蘇ることはよくあることだ。しかし、そんなゴースト達の多くは生前の記憶や人格を崩壊させており、ときに無差別に人を襲うモンスターとなっていた。
 そんな中で、ごく稀に生前の人格をそのまま残してゴーストとなる者がいる。それが『レイス』と呼ばれるアンデットモンスターで、多くの場合、とんでもなく強力な力を持っている。

「・・・道理で50年間、誰も財宝にたどり着けないはずだ。こんなのが居るなんてな」

『どうしたの、お兄さん? どこか痛いの?』

 ルリアがシャドウの顔をのぞき込んで、小首を傾げる。無垢で可愛らしい挙動であるが、おそらく彼女こそがこの城に住まうアンデットのボスだろう。

(・・・参ったな)

 シャドウは困り果ててため息をついた。
 すでにルリアの背後に、財宝が入っていると思われる宝箱が見えている。しかし、目の前の少女がそれをおとなしく渡してくれるわけがない。

(力ずくで無理矢理、奪う? 冗談だろ)

 怪盗とは紳士的であるべきだ。子供に暴力を振るなんて許されないことである。

「あー、ルリアちゃん。ちょっと話があるんだけど・・・」

『あ! やっぱりお話できるんだ! ちゃんとお話ができる幽霊と初めて会った!』

 ルリアは嬉しそうにシャドウの腕をとって、自分の腕を絡ませる。
 ちなみに、今もまだ【怪盗】の魔法は発動したままである。存在強度を低くするというこの魔法は、いわば自分の肉体を霊体にするのに等しい。そのため、同じ霊体であるゴーストやレイスにはこうして触れることができるのだ。

『えへへ~、嬉しいな。やっと話し相手ができた! ここにいる子達は私のことを守ってくれるけど、お話できないから退屈だったんだ~!』

「う・・・」

 ルリアはニコニコと笑いながら、腕を組んだまま栗毛のふわふわとした頭をシャドウの胸にこすりつけてくる。

「・・・俺は鬼か」

「何か言った? お兄さん?」

「いや・・・」

 この状況で宝を奪って逃げるとか、鬼畜過ぎる。
 泥棒だからって、やっていいこととダメなことがあるだろう!

「ねえねえ、お兄さん。ルリアとお話しよう?」

「・・・そうだな、ルリアちゃんの話を聞かせてくれよ。君はどうして、この城に住んでいるんだい?」

「ルリアのこと? えーとねー」

 シャドウは観念したようにその場に座り込んだ。膝の上に乗ってくるルリアの身体を後ろから抱きしめて、情報収集を試みる。
 願わくば、彼女の話の中にこの状況を打開する方法があることを祈りながら。

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