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第2話 ゴブリンの秘宝
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「ゴブリンの討伐? 面倒だなあ」
「しょうがねえだろ。これも強制依頼だ」
冒険者ギルドで口の悪い少女と出会ってから1週間後。
突然、冒険者ギルドから王都に住むすべての冒険者に強制依頼が出された。内容は、王都北方の森に異常発生したゴブリンの群れの討伐である。
ゴブリンが大量発生することはこの世界では珍しくはないことだが、今回はその規模が異常に大きいという事だ。
アイアンランクという下位の冒険者であるカゲヒコまで強制参加させられることからも、事態の重さが窺える。
森への突入はブロンズ以上の冒険者が行うことになっている。カゲヒコ達アイアンの冒険者に与えられたのは、森の外周で逃げてくるゴブリンを討伐することである。
森の南方で待機しながら、カゲヒコは顔見知りの冒険者から事情を聞いていた。
「すでに北方の村が3つほど潰されているらしい。男や家畜はみんな喰われて、女は・・・まあ、言わなくてもわかるよな」
「まあな。この世の地獄の一つだろ?」
ゴブリンが人間やエルフの女を攫ってすることなど、冒険者であれば常識である。身体が壊れるまで繁殖に利用され、あとは食肉加工されるという最も無残な末路が待っている。
一応は勇者パーティーとして世界平和のために戦っていたことがあるカゲヒコにとっても、ゴブリンの所業には気分が悪くなるものがあった。
「おっと、シルバーランクのお出ましだ」
「みたいだな」
森の南側に馬車が2台、やってきた。止まった馬車の中から、質のいい装備に身を包んだ冒険者たちが降りてくる。
黄金の剣と鎧を身につけた剣士。黒い甲冑に包まれた戦士。白いローブ姿の魔術師。上質な革でできた軽装の盗賊。
服装はまちまちであったが、一様に言えることは、彼らの持っている雰囲気がここにいるアイアンの冒険者達とはまるで違うということだ。研ぎ澄まされた刃のような気配を持つ彼らこそが、冒険者ギルドの主力、シルバーランクである。
「全員シルバーか、どうやらゴールドランクはいないみたいだな」
「そういえば、ゴールドの連中ってギルドでも見たことないな」
「ったく、カゲヒコは何も知らねえな。ゴールドの冒険者は基本的にギルドや貴族から直接依頼を受けて仕事をしてるから、俺達みたいに依頼を取りにギルドに顔を出したりしねえんだよ」
「ふーん」
冒険者の男が嘲るように言う。それを気のない言葉で受け流しつつ、カゲヒコはシルバー冒険者の観察を続ける。
「お、あの娘は・・・ライムちゃんだったっけ?」
シルバー冒険者の中には、先日、ギルドで会ったライムの姿もある。ハーフプレートに身を包んだ少女は、腰に細剣をさげて仲間の女性冒険者と森に入っていく。
「おお、『銀翼の乙女』か! 相変わらず美人ばかりだねえ。くくっ、あいつらがゴブリンにやられるところも見てみたいもんだぜ!」
「おいおい、さすがにその想像は下衆が過ぎるだろう」
「いいじゃねえか、あーあ、抱きてえなあ」
『銀翼』の女性冒険者を欲望丸出しの目で見る知人を横目に見つつ、カゲヒコは森に入っていく一団を見送った。
「・・・む?」
なんとなくであるが胸にざわつく気配があった。勇者パーティーにいた頃から何度となく感じてきた嫌な気配である。
「何事もないといいんだが、こういう嫌な予感は外れた試しがないんだよな」
ボソリとつぶやき、カゲヒコは空を仰ぐ。頭上には不安を後押しするように曇天が広がっていた。
「しょうがねえだろ。これも強制依頼だ」
冒険者ギルドで口の悪い少女と出会ってから1週間後。
突然、冒険者ギルドから王都に住むすべての冒険者に強制依頼が出された。内容は、王都北方の森に異常発生したゴブリンの群れの討伐である。
ゴブリンが大量発生することはこの世界では珍しくはないことだが、今回はその規模が異常に大きいという事だ。
アイアンランクという下位の冒険者であるカゲヒコまで強制参加させられることからも、事態の重さが窺える。
森への突入はブロンズ以上の冒険者が行うことになっている。カゲヒコ達アイアンの冒険者に与えられたのは、森の外周で逃げてくるゴブリンを討伐することである。
森の南方で待機しながら、カゲヒコは顔見知りの冒険者から事情を聞いていた。
「すでに北方の村が3つほど潰されているらしい。男や家畜はみんな喰われて、女は・・・まあ、言わなくてもわかるよな」
「まあな。この世の地獄の一つだろ?」
ゴブリンが人間やエルフの女を攫ってすることなど、冒険者であれば常識である。身体が壊れるまで繁殖に利用され、あとは食肉加工されるという最も無残な末路が待っている。
一応は勇者パーティーとして世界平和のために戦っていたことがあるカゲヒコにとっても、ゴブリンの所業には気分が悪くなるものがあった。
「おっと、シルバーランクのお出ましだ」
「みたいだな」
森の南側に馬車が2台、やってきた。止まった馬車の中から、質のいい装備に身を包んだ冒険者たちが降りてくる。
黄金の剣と鎧を身につけた剣士。黒い甲冑に包まれた戦士。白いローブ姿の魔術師。上質な革でできた軽装の盗賊。
服装はまちまちであったが、一様に言えることは、彼らの持っている雰囲気がここにいるアイアンの冒険者達とはまるで違うということだ。研ぎ澄まされた刃のような気配を持つ彼らこそが、冒険者ギルドの主力、シルバーランクである。
「全員シルバーか、どうやらゴールドランクはいないみたいだな」
「そういえば、ゴールドの連中ってギルドでも見たことないな」
「ったく、カゲヒコは何も知らねえな。ゴールドの冒険者は基本的にギルドや貴族から直接依頼を受けて仕事をしてるから、俺達みたいに依頼を取りにギルドに顔を出したりしねえんだよ」
「ふーん」
冒険者の男が嘲るように言う。それを気のない言葉で受け流しつつ、カゲヒコはシルバー冒険者の観察を続ける。
「お、あの娘は・・・ライムちゃんだったっけ?」
シルバー冒険者の中には、先日、ギルドで会ったライムの姿もある。ハーフプレートに身を包んだ少女は、腰に細剣をさげて仲間の女性冒険者と森に入っていく。
「おお、『銀翼の乙女』か! 相変わらず美人ばかりだねえ。くくっ、あいつらがゴブリンにやられるところも見てみたいもんだぜ!」
「おいおい、さすがにその想像は下衆が過ぎるだろう」
「いいじゃねえか、あーあ、抱きてえなあ」
『銀翼』の女性冒険者を欲望丸出しの目で見る知人を横目に見つつ、カゲヒコは森に入っていく一団を見送った。
「・・・む?」
なんとなくであるが胸にざわつく気配があった。勇者パーティーにいた頃から何度となく感じてきた嫌な気配である。
「何事もないといいんだが、こういう嫌な予感は外れた試しがないんだよな」
ボソリとつぶやき、カゲヒコは空を仰ぐ。頭上には不安を後押しするように曇天が広がっていた。
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