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プロローグ
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しおりを挟む膝をついたまま数字をカウントしているカゲヒコに対して、騎士団長が眉をひそめて問いかける。
「それは何の数字だ、賢者クロノ?」
「8・・・7・・・6・・・」
カゲヒコは騎士団長の言葉に応えることなく、数字のカウントを続ける。無視された騎士団長は表情を歪めて怒鳴りつける。
「なんの数字だと聞いている! 答えろ!」
「・・・3・・・2・・・1・・・はい、ドン」
パアンッ!!
カゲヒコは騎士団長の問い詰めに応えることなく、カウントを終えた。
次の瞬間、玉座の間に破裂音が響き渡った。
「ひぎゃああああああああっ!?」
「陛下!?」
国王が手にしていた【魔封の王錫】が音を立ててはじけ飛んだ。木製の錫杖の破片が近距離から国王の手や顔に突き刺さる。
「ち、血が・・・ワシの顔から、血がああああああっ!?」
「へ、陛下!? しっかりしてください!」
「【魔封の王錫】、魔力を封じる力を持つオーバーアイテム。俺みたいな魔法使いにとっては天敵みたいなマジックアイテムだ。それを魔王城から持ち帰ってきて、あんたらに献上したのは俺達だぞ? 自分に向けられたときのための準備くらいしてるっての」
「き、貴様!」
嘲るような口調で説明するカゲヒコ。騎士団長は憤怒の表情を浮かべて剣を抜き放つ。しかし、そこにはすでにカゲヒコの姿はなかった。
「第4階梯魔法【空間転移】。俺はこう見えても賢者だから、無詠唱で使えるんだぜ? 油断しちゃいけない」
「ひ、ひいいっ!?」
カゲヒコは玉座から転げ落ちた国王のすぐ傍へと魔法で移動して、手や顔から血を流してうずくまった老人の身体を足で踏みつけた。
「ふぎっ!? ぶ、無礼者! ワシを誰だと思って・・・」
「ただの人質、今はな」
「人質だと!? 陛下から離れろ!!」
「そういうわけにはいかないな。騎士団長、この王様の命が欲しかったら近づくなよ。色々と恨みもあるし、殺っちゃうよ?」
「くっ・・・」
騎士団長とて国で一番の剣の達人。正面から戦えば、勇者とだって互角に近い戦いができる自信がある。
しかし、自分が目の前の賊に斬り込むよりも、人質となった国王の命が奪われる方が速いだろう。
「要求は何だ・・・?」
「別に無茶な注文なんてしない。俺の話を最後まで聞くこと、ただそれだけだ」
「話だと? 貴様の話を聞く価値など・・・」
「ひぎゃあああっ!?」
「くっ!」
カゲヒコは足の下の国王をげしげしと踏みつける。潰された老人の口から哀れな声が漏れる。
「聞く気になったかね、騎士団長くん?」
「くっ・・・さっさと話せ!」
「よろしい」
カゲヒコは頷き、勇者パーティーと騎士達が見守る中で両手を広げた。
「ブレイブ王国は俺達勇者パーティーを利用するだけ利用して、約束を違えた。もうこんな国のために働いてやる義理はない。俺は好きなようにやらせてもらう」
「好きなようにだと!? 国王陛下にこんな狼藉を働いておいて、これ以上何をするつもりだ!?」
騎士団長が怒鳴りつけるが、カゲヒコはどこ吹く風とばかりに受け流す。
「本日をもって賢者を引退する! 俺は賢者をやめて、怪盗に転職する!」
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