4 / 8
4
しおりを挟む
「国王陛下の御入場である!」
リチャードの指先がカトリーナの触れるよりも先に、入口に立っている侍従が大声で宣言する。
突然の婚約破棄、笑いだしたカトリーナにあっけにとられていた貴族らも、臣下の礼をとって入口に頭を下げる。
「皆の者、遅れて済まなかったな……………む?」
数人の従者を引き連れて、王が会場へと足を踏み入れた。
国王エドワード・フロストは頭を下げている貴族らに順繰りに見やる。やがてその視線は床にうずくまったカトリーナと、別の女性と腕を組んだ息子へと向けられた。
どうやらリチャードは事前に王に相談することなく、勝手に婚約破棄をしたようだ。王は怪訝な顔になって息子に問いかける。
「リチャードよ、これはなんの騒ぎだ? カトリーナはどうしたというのだ?」
「父上、これは……」
「国王陛下、聞いてくださいませ! 私、婚約破棄をされたんです!」
リチャードが言い訳の言葉を吐くよりも先に、カトリーナが言う。
「リチャードがそちらの女性と結婚するからと、私のことを捨てたんです! これで我が父と国王陛下が交わした契約は白紙になりました!」
「なんだと……!?」
カトリーナの言葉にエドワード王は愕然とした表情になった。
唇をワナワナと震わせて、慌てた様子でリチャードの肩を掴む。
「この馬鹿者! 余に無断で何てことをしたのだ!?」
「ち、父上!?」
「撤回しろ! 今すぐにカトリーナ嬢に謝罪をして、婚約破棄を撤回してもらうのだ!」
かつてないほど興奮した父親の姿に、リチャードは大きく目を見開いた。
王は年を経てから生まれた息子に甘く、声を荒げて怒られたことなど1度としてなかった。
故に今回のことも許してくれると思っていたのだが……目の前の父親の剣幕を見るに、勝手に婚約破棄したことを許すつもりはなさそうである。
そんな親子の会話をよそに、カトリーナは立ち上がって上機嫌にクルリと回る。
「いけませんことよ、国王陛下! すでに契約は破棄されたのです! 撤回なんて許しません!」
「そ、そんな……どうか、どうかお許しを……!」
エドワード王は床に膝をついて、カトリーナの脚に追いすがる。
「父上、何をしているのですか!?」
フロスト王国において最高権力者であるはずの男が、1人の令嬢の脚に縋っている。あってはならない光景にリチャードは声を裏返らせた。
王の懇願を受けたカトリーナであったが、相変わらず嬉しそうな顔をしたまま願いを一蹴する。
「ダメです、許しません! これより契約の破棄を認めて、父上が貴方達に与えた物を回収させていただきます!」
「なっ……!」
「きゃあっ!」
瞬間、シャンデリアの明かりに照らされていた部屋が暗闇に落とされた。視界を閉ざされる中、会場にいた人々から悲鳴が上がる。
しかし、すぐに光は戻ってきた。青白い炎が会場のあちこちに現れて周囲を照らしたのである。
――――――――――
お知らせ
以下の作品も投稿していますので、どうぞよろしくお願いします。
・悪役令嬢だから暗殺してもいいよね! 婚約破棄はかまいませんが、無実を証明するためにとりあえず毒殺します。
・悪逆覇道のブレイブソウル ゲームの悪役に転生したので勇者も魔王も倒してハーレムを作る
リチャードの指先がカトリーナの触れるよりも先に、入口に立っている侍従が大声で宣言する。
突然の婚約破棄、笑いだしたカトリーナにあっけにとられていた貴族らも、臣下の礼をとって入口に頭を下げる。
「皆の者、遅れて済まなかったな……………む?」
数人の従者を引き連れて、王が会場へと足を踏み入れた。
国王エドワード・フロストは頭を下げている貴族らに順繰りに見やる。やがてその視線は床にうずくまったカトリーナと、別の女性と腕を組んだ息子へと向けられた。
どうやらリチャードは事前に王に相談することなく、勝手に婚約破棄をしたようだ。王は怪訝な顔になって息子に問いかける。
「リチャードよ、これはなんの騒ぎだ? カトリーナはどうしたというのだ?」
「父上、これは……」
「国王陛下、聞いてくださいませ! 私、婚約破棄をされたんです!」
リチャードが言い訳の言葉を吐くよりも先に、カトリーナが言う。
「リチャードがそちらの女性と結婚するからと、私のことを捨てたんです! これで我が父と国王陛下が交わした契約は白紙になりました!」
「なんだと……!?」
カトリーナの言葉にエドワード王は愕然とした表情になった。
唇をワナワナと震わせて、慌てた様子でリチャードの肩を掴む。
「この馬鹿者! 余に無断で何てことをしたのだ!?」
「ち、父上!?」
「撤回しろ! 今すぐにカトリーナ嬢に謝罪をして、婚約破棄を撤回してもらうのだ!」
かつてないほど興奮した父親の姿に、リチャードは大きく目を見開いた。
王は年を経てから生まれた息子に甘く、声を荒げて怒られたことなど1度としてなかった。
故に今回のことも許してくれると思っていたのだが……目の前の父親の剣幕を見るに、勝手に婚約破棄したことを許すつもりはなさそうである。
そんな親子の会話をよそに、カトリーナは立ち上がって上機嫌にクルリと回る。
「いけませんことよ、国王陛下! すでに契約は破棄されたのです! 撤回なんて許しません!」
「そ、そんな……どうか、どうかお許しを……!」
エドワード王は床に膝をついて、カトリーナの脚に追いすがる。
「父上、何をしているのですか!?」
フロスト王国において最高権力者であるはずの男が、1人の令嬢の脚に縋っている。あってはならない光景にリチャードは声を裏返らせた。
王の懇願を受けたカトリーナであったが、相変わらず嬉しそうな顔をしたまま願いを一蹴する。
「ダメです、許しません! これより契約の破棄を認めて、父上が貴方達に与えた物を回収させていただきます!」
「なっ……!」
「きゃあっ!」
瞬間、シャンデリアの明かりに照らされていた部屋が暗闇に落とされた。視界を閉ざされる中、会場にいた人々から悲鳴が上がる。
しかし、すぐに光は戻ってきた。青白い炎が会場のあちこちに現れて周囲を照らしたのである。
――――――――――
お知らせ
以下の作品も投稿していますので、どうぞよろしくお願いします。
・悪役令嬢だから暗殺してもいいよね! 婚約破棄はかまいませんが、無実を証明するためにとりあえず毒殺します。
・悪逆覇道のブレイブソウル ゲームの悪役に転生したので勇者も魔王も倒してハーレムを作る
36
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
ヒロインでも悪役でもない…モブ?…でもなかった
callas
恋愛
お互いが転生者のヒロインと悪役令嬢。ヒロインは悪役令嬢をざまぁしようと、悪役令嬢はヒロインを返り討ちにしようとした最終決戦の卒業パーティー。しかし、彼女は全てを持っていった…
婚約破棄をしてくれてありがとうございます~あなたといると破滅しかないので助かりました (完結)
しまうま弁当
恋愛
ブリテルス公爵家に嫁いできた伯爵令嬢のローラはアルーバ別邸で幸せなひと時を過ごしていました。すると婚約者であるベルグが突然婚約破棄を伝えてきたのだった。彼はローラの知人であるイザベラを私の代わりに婚約者にするとローラに言い渡すのだった。ですがローラは彼にこう言って公爵家を去るのでした。「婚約破棄をしてくれてありがとうございます。あなたといると破滅しかないので助かりました。」と。実はローラは婚約破棄されてむしろ安心していたのだった。それはローラがベルグがすでに取り返しのつかない事をしている事をすでに知っていたからだった。
【完】婚約破棄ですか? これが普通ですよね
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
王国の夜会で第一王子のフィリップからアマーリエ公爵令嬢に婚約破棄を言い渡された。よくある婚約破棄の一場面です。ゆるっとふわっと仕様です。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
辺境伯と悪役令嬢の婚約破棄
六角
恋愛
レイナは王国一の美貌と才能を持つ令嬢だが、その高慢な態度から周囲からは悪役令嬢と呼ばれている。彼女は王太子との婚約者だったが、王太子が異世界から来た転生者であるヒロインに一目惚れしてしまい、婚約を破棄される。レイナは屈辱に耐えながらも、自分の人生をやり直そうと決意する。しかし、彼女の前に現れたのは、王国最北端の辺境伯領を治める冷酷な男、アルベルト伯爵だった。
悪役令嬢がキレる時
リオール
恋愛
この世に悪がはびこるとき
ざまぁしてみせましょ
悪役令嬢の名にかけて!
========
※主人公(ヒロイン)は口が悪いです。
あらかじめご承知おき下さい
突発で書きました。
4話完結です。
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。
やまぐちこはる
恋愛
領地が災害に見舞われたことで貧乏どん底の伯爵令嬢サラは子爵令息の婚約者がいたが、裕福な子爵令嬢に乗り換えられてしまう。婚約解消の慰謝料として受け取った金で、それまで我慢していたスイーツを食べに行ったところ運命の出会いを果たし、店主に断られながらも通い詰めてなんとかスイーツショップの店員になった。
貴族の令嬢には無理と店主に厳しくあしらわれながらも、めげずに下積みの修業を経てパティシエールになるサラ。
そしてサラを見守り続ける青年貴族との恋が始まる。
全44話、7/24より毎日8時に更新します。
よろしくお願いいたします。
【完結】婚約破棄されましたが国を追放されたのは私ではなく糾弾してきた王子の方でした
愛早さくら
恋愛
「お前との婚約は破棄する!」
卒業式の日。そう、大勢の前でネフィを糾弾してきたのは幼い頃からの婚約者である、ここ、カナドゥサ国のレシア第一王子でした。
ネフィはにんまりと笑みを浮かべます。
なぜなら、周り中全てが自分の味方であることを知っていたからです。
だからネフィは答えました。
「構いませんわ。ですが私と婚約を破棄して、国を追われるのは貴方の方でしてよ?」
そう告げるネフィの隣には……
・定番中の定番みたいな話を私も書いてみたくなって!
・でもあんまりざまぁはないです。多分。
・地味に某お話と同じ世界観。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる