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幕間 花咲く乙女
南洋の紫蘭⑫
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「ふう、だいぶ町も直ってきましたねー」
あの誘拐事件から1ヵ月。かなり建物の復旧が進んできた町並みに、私は満足して頷いた。
獅子王国との戦いで破壊された建物は、お猿さん達の活躍によって大部分が建て直されている。
今も道の端では大きな身体のお猿さんが座っていて、近くの宿屋の女将さんからハムを挟んだパンを受け取っている。
自分の友達である動物さんと、生まれ故郷の人々が和気あいあいと過ごしている光景を見て、自然と私の顔も緩んでしまう。
ちなみに、誘拐事件以来アリオテ殿下とは会っていない。
数百匹のネズミさんに引きずられてどこかに消えていく殿下を見送ったのを最後に、一度も私の前に姿を見せていなかった。
「王宮からの復興支援は増えましたし、きっとわかってくださったのですよね。今度、お会いするときは友人として会いたいものです」
のほほんとつぶやく私のもとへ、復興作業の責任者の一人が駆け寄ってきた。
「スーレイア様、貿易商の方がお見えになりました」
「ああ、来てくださったのですね」
どうしてもこの国は様々な物資が不足しているため、他国からの輸入に頼っている部分があった。
戦後の混乱によって離れている商人も多いため、いまだに訪れてくれる貿易商は希少である。
「お初にお目にかかりますよ、ラウロス嬢。私は貿易商をしておりますベイム・サーベルスと申します」
現れたのは二十代ほどの若い男だった。
どことなく聞き覚えのあるような声に、私は瞬きを繰り返した。
「・・・ひょっとして、どこかで会いましたか?」
「いえいえ! 私達は初対面ですよ!」
「そうですか?」
うーん、と私は腕を組んで頭をひねりました。
もしかすると、ご主人様と一緒に旅をしていたときに声を聞いたのかもしれません。
「まあまあ、そんなことはさておいて商談の話に入りましょう! 今回、私が仕入れてきた商品はこちらで、お支払いは・・・」
明細が書かれた羊皮紙の書類を受け取り、私は目を見張りました。
「いくらなんでも安すぎますよ! こんなお値段では赤字にしかならないでしょう!?」
明細に書かれていたのは物資の量に反して、驚くほど安い値段であった。こんな取引ではどう考えても、貿易商の側に損しかないはずなのだが・・・。
書類を押し返そうとする私に、男性はぶんぶんと両手を振りました。
「いいんですよ、この値段で!」
「でも・・・」
「私はこの国の生まれですから、復興のために力を尽くすのは当然です! それに・・・スーレイア様にはいろいろと借りがありますから」
「借り?」
私は首を傾げました。やはりどこかであったのかと記憶を呼び起こそうとしますが、やはりその顔に見覚えはありません。
「こちらの話ですよ。忘れてください」
「そんな言い方されたら余計に気になるのですけど・・・」
「まあまあ、これからもできる限り安値で物資を仕入れてきますので、どうぞ末永くお付き合いください」
男性は恭しく頭を下げた後、なぜか明後日の方向へと顔を向けました。
「・・・そういうわけで、勘弁してくれよな?」
「はあ?」
男性の視線を追いかけると、建て直したばかりの民家の屋根にカラスさんが停まっています。
カラスさんはなぜか貿易商の男性を強く睨みつけており、その赤い両眼には敵意のようなものが浮かんでいます。
(カラスさんを苛めたりしたのかしら? 仲直りできたのならいいのですけど)
「そうですか・・・事情は分かりませんが、物資を安くいただけるのならありがたいことです。これでこの国の復興もますます進みます」
この調子ならば、三年と言わず一年か二年で復興作業が終わるかもしれない。
そうなれば、予想していたよりも早くご主人様のもとへと行くことができるだろう。
(ご主人様、思っていたよりも早くお会いすることができそうです。待っていてください)
私は北の空を見上げながら、青空に愛しい男性の顔を投影した。
いずれ再会するご主人様を想い、一人の奴隷として生きる喜びに胸を震わせながら。
南洋の紫蘭 完
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