127 / 317
第3章 南海冒険編
26.不運な海賊
しおりを挟む
時間は少しさかのぼる。
ブルートスの町へと侵入した海賊であったが、全員がまっすぐ総督府へと向かったわけではない。
どんな集団にでも和を乱す人間は必ずいるもので、それがならず者の海賊となれば尚更である。
総督府に向かう一団から3人の海賊がこっそりと抜け出し、近くの民家へと侵入した。
無人の民家は玄関が開け放たれており、鍵開けなどの技能がなくとも侵入は容易であった。
海賊達はしばらくタンスの中などを物色していたが、やがて怒鳴り声とともに家具を蹴り飛ばした。
「ちくしょうっ! 何も残ってねえ!」
「ちっ・・・やっぱり、無駄足だったか」
海賊の一人が床にツバを吐き捨てて、ガリガリと頭を掻く。
「なあ、おい。こんな事してていいのか? 見つかったらどやされるぜ?」
「いいんだよ。俺達みたいな下っぱ、どうせ手柄を立てたってたいした褒美はもらえないんだ。だったら、こっちで良い思いをさせてもらおうぜ」
「良い思いって・・・」
仲間の言葉に、男は部屋の中を見回した。
民家の床には衣類や食器などが散乱している。これは海賊達がやったわけではなく、彼らが侵入したときからこの有り様だった。
この民家の住人はよほど慌てて逃げたのだろうが、それでも貴重品はしっかり持ちだしたようだ。民家の中には銅貨の一枚も残されてはいなかった。
「こんなことなら、昨日のうちに略奪しときゃ良かったんだ! わざわざ逃げる時間をやるなんて、あのオカマ野郎は何を考えてやがる!」
「おいおい・・・誰かに聞かれたらサメのエサにされるぞ」
ガンガンと床に落ちた食器を踏みつける仲間を窘めながら、男は窓から外を見る。
民家の外からは人が争う声と音が響き続けている。
今頃、総督府では血の雨が降るような戦いが繰り広げているのだろう。
「・・・ま、命がけの戦いなんてやってられないからな。危険な大金より安全な小銭だ」
男はぼやいて、扉に向かって一歩踏み出した。
ギシッ。
「・・・・・・ん?」
たまたま足を踏み込んだその部分。そこだけ足音の具合が違うことに気が付いた。
「ここは・・・床下か?」
散乱した衣類を足でどかすと、床板を外せそうな部分が現れた。
「・・・ダメもとで調べてみるか」
男は床板を外して、中を覗き込んだ。
――その瞬間
「ぎっ・・・!?」
床下から伸びてきた手が男の首をがっしりと掴み、暗い穴底へと引きずり込んだ。
上半身が床下へと飲み込まれ、残された足がバタバタと宙を蹴る。
「お、おいっ! どうした!?」
仲間の異変に気が付いた他の海賊が慌てて駆け寄るが、すぐに男の足は動かなくなってしまう。
2人がかりで床下から引っ張り上げられた男の首にはくっきりと人の指の痕がついており、首の骨が折られていた。
「ひっ・・・し、しんで・・・!」
「ちっ、バレちまったみたいだな」
「なっ、誰だテメエは!」
床の穴からのっそりと現れた大男に、海賊は泡を食ったように叫ぶ。
「ったく、俺は今年で60だぞ? 老人を狭い場所に押し込みやがって」
「よ、よくもなかまばっ・・・」
「うるせえよ、他の奴らに気づかれるだろうが!」
大男が目にも止まらぬ速さで右手を振り、そこに握られた戦斧が海賊の首を切り落とした。
「ひっ・・・」
二人の仲間の死にざまを見て、最後の一人になった海賊が尻もちをつく。その足元にじんわりと水たまりが広がっていく。
「この程度で漏らすような覚悟で戦場に出てくるんじゃねえよ。目障りだ!」
「ひぷっ!?」
大男は残された海賊の脳天へと戦斧を振り下ろして、頭蓋骨を左右に両断する。
民家の壁に血しぶきが飛び散り、部屋には大男が残された。
「ちょっとちょっと! 勘弁してくださいよ、ボイルさん!」
「今のは不可抗力だろ! ったく、運の悪りい奴らだ」
床下から声が上がり、穴から若い男が現れた。
3人の海賊を始末した大男。その正体は傭兵ギルドのギルドマスターのグレン・ボイルである。
床下に部下とともに潜んでいたボイルは、海賊の死体を蹴って場所を空けると、倒れていた椅子を起こして腰を下ろした。
「いてて・・・狭い場所に入ってたおかげで腰にきちまった。年は取りたくねえなあ」
「マスターは一生現役ですから心配いりませんよ・・・どうやら、他に海賊はいないようですね」
「ああ、騒ぎにならなくて何よりだ。これで作戦を続行でき・・・」
プオーーーーーー
総督府の方角からラッパの音が聞こえた。
ボイルは鋭く窓の外へと視線を走らせて、座ったばかりの重い腰を上げる。
「・・・予定よりも少し早いようだが、ゴーサインが出たみたいだな」
「そうですね。行きましょう!」
「おうよ! 海賊共に目にもの見せてやるぜ!」
部下が剣を抜いて、民家の扉を開け放った。
ボイルは自慢の戦斧を片手に、戦場となった町へと躍り出た。
ブルートスの町へと侵入した海賊であったが、全員がまっすぐ総督府へと向かったわけではない。
どんな集団にでも和を乱す人間は必ずいるもので、それがならず者の海賊となれば尚更である。
総督府に向かう一団から3人の海賊がこっそりと抜け出し、近くの民家へと侵入した。
無人の民家は玄関が開け放たれており、鍵開けなどの技能がなくとも侵入は容易であった。
海賊達はしばらくタンスの中などを物色していたが、やがて怒鳴り声とともに家具を蹴り飛ばした。
「ちくしょうっ! 何も残ってねえ!」
「ちっ・・・やっぱり、無駄足だったか」
海賊の一人が床にツバを吐き捨てて、ガリガリと頭を掻く。
「なあ、おい。こんな事してていいのか? 見つかったらどやされるぜ?」
「いいんだよ。俺達みたいな下っぱ、どうせ手柄を立てたってたいした褒美はもらえないんだ。だったら、こっちで良い思いをさせてもらおうぜ」
「良い思いって・・・」
仲間の言葉に、男は部屋の中を見回した。
民家の床には衣類や食器などが散乱している。これは海賊達がやったわけではなく、彼らが侵入したときからこの有り様だった。
この民家の住人はよほど慌てて逃げたのだろうが、それでも貴重品はしっかり持ちだしたようだ。民家の中には銅貨の一枚も残されてはいなかった。
「こんなことなら、昨日のうちに略奪しときゃ良かったんだ! わざわざ逃げる時間をやるなんて、あのオカマ野郎は何を考えてやがる!」
「おいおい・・・誰かに聞かれたらサメのエサにされるぞ」
ガンガンと床に落ちた食器を踏みつける仲間を窘めながら、男は窓から外を見る。
民家の外からは人が争う声と音が響き続けている。
今頃、総督府では血の雨が降るような戦いが繰り広げているのだろう。
「・・・ま、命がけの戦いなんてやってられないからな。危険な大金より安全な小銭だ」
男はぼやいて、扉に向かって一歩踏み出した。
ギシッ。
「・・・・・・ん?」
たまたま足を踏み込んだその部分。そこだけ足音の具合が違うことに気が付いた。
「ここは・・・床下か?」
散乱した衣類を足でどかすと、床板を外せそうな部分が現れた。
「・・・ダメもとで調べてみるか」
男は床板を外して、中を覗き込んだ。
――その瞬間
「ぎっ・・・!?」
床下から伸びてきた手が男の首をがっしりと掴み、暗い穴底へと引きずり込んだ。
上半身が床下へと飲み込まれ、残された足がバタバタと宙を蹴る。
「お、おいっ! どうした!?」
仲間の異変に気が付いた他の海賊が慌てて駆け寄るが、すぐに男の足は動かなくなってしまう。
2人がかりで床下から引っ張り上げられた男の首にはくっきりと人の指の痕がついており、首の骨が折られていた。
「ひっ・・・し、しんで・・・!」
「ちっ、バレちまったみたいだな」
「なっ、誰だテメエは!」
床の穴からのっそりと現れた大男に、海賊は泡を食ったように叫ぶ。
「ったく、俺は今年で60だぞ? 老人を狭い場所に押し込みやがって」
「よ、よくもなかまばっ・・・」
「うるせえよ、他の奴らに気づかれるだろうが!」
大男が目にも止まらぬ速さで右手を振り、そこに握られた戦斧が海賊の首を切り落とした。
「ひっ・・・」
二人の仲間の死にざまを見て、最後の一人になった海賊が尻もちをつく。その足元にじんわりと水たまりが広がっていく。
「この程度で漏らすような覚悟で戦場に出てくるんじゃねえよ。目障りだ!」
「ひぷっ!?」
大男は残された海賊の脳天へと戦斧を振り下ろして、頭蓋骨を左右に両断する。
民家の壁に血しぶきが飛び散り、部屋には大男が残された。
「ちょっとちょっと! 勘弁してくださいよ、ボイルさん!」
「今のは不可抗力だろ! ったく、運の悪りい奴らだ」
床下から声が上がり、穴から若い男が現れた。
3人の海賊を始末した大男。その正体は傭兵ギルドのギルドマスターのグレン・ボイルである。
床下に部下とともに潜んでいたボイルは、海賊の死体を蹴って場所を空けると、倒れていた椅子を起こして腰を下ろした。
「いてて・・・狭い場所に入ってたおかげで腰にきちまった。年は取りたくねえなあ」
「マスターは一生現役ですから心配いりませんよ・・・どうやら、他に海賊はいないようですね」
「ああ、騒ぎにならなくて何よりだ。これで作戦を続行でき・・・」
プオーーーーーー
総督府の方角からラッパの音が聞こえた。
ボイルは鋭く窓の外へと視線を走らせて、座ったばかりの重い腰を上げる。
「・・・予定よりも少し早いようだが、ゴーサインが出たみたいだな」
「そうですね。行きましょう!」
「おうよ! 海賊共に目にもの見せてやるぜ!」
部下が剣を抜いて、民家の扉を開け放った。
ボイルは自慢の戦斧を片手に、戦場となった町へと躍り出た。
10
お気に入りに追加
6,112
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。
レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。
田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。
旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。
青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。
恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!?
※カクヨムにも投稿しています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。