上 下
125 / 317
第3章 南海冒険編

24.総督府での戦い

しおりを挟む
「総督府に攻め込めええええええっ!」

『おおおおおおおおっ!』

 海賊達はいくつかのグループに分かれて、別々のルートから総督府へと進軍した。
 2000人の獅子王船団のうち、陸に攻め上がったのは1500人である。
 残りの500人は万が一の場合に備えて、船の上で待機している。

 攻め込んだ海賊のほとんどは獅子王船団の中でも下っぱであったが、その士気は決して低くない。
 この戦いで手柄をあげれば獅子王国の内部でも高い地位を得られるということもあり、意気揚々と町中を駆けていく。

「・・・来たようだな」

 ブルートス警備隊隊長・ランディは港から響いてくる怒号を耳にして、手に持った槍を強く握りしめる。
 総督府周辺に陣取った警備隊の兵数は約300。攻め込んでくる海賊の五分の一ほどである。
 警備隊は総督府を囲むようにして布陣して、かき集めた木材を使って即席の砦を構築していた。
 皮肉なことだが、昨日の襲撃によって多くの建物が壊れてしまったおかげで、残骸から使えそうな資材をかき集めるのには苦労しなかった。
 総督府へとつながる道すべてをバリケードでふさぎ、後方には弓を構えた警備兵が待機している。

「いいか、1時間だ! たった1時間、保たせればいい! ここを守り切れば俺達の勝利だ!」

『おお!』

 昨日の襲撃によって残った警備兵の半分が逃げ出してしまった。逃げ出した警備兵の多くは、他の町からは流れてきた者達である。
 対して、この場に残っているのはこの町で生まれ育ち、この町を守ることだけを考えている者達。あの理不尽な砲撃を見ても逃げ出さなかった決死隊であった。
 その士気は勝ち戦を確信する海賊よりも高く、隊長のランディを中心に強い結束で結ばれていた。

 そして・・・とうとう、海賊達が総督府へと到着した。

「攻めろおおおおおおおおおおっ!」

『うおおおおおおおおっ!』

 指揮官の男が叫び、海賊が鬨の声を上げて総督府へと一斉に攻めかかる。

「殺せ! 奪え! 一人残らず皆殺しだ!」

「ひゃひゃひゃひゃひゃっ! 血を見せろ!」

「守れ! ここから一歩も通すな!」

 剣や斧でバリケードを破ろうとする海賊を、柵の隙間から警備隊が槍で突く。後方からは矢が放たれて海賊の頭上へと降り注ぐ。

「柵を壊すぞ! 中に入ってしまえばこっちのものだ! 財を奪え! 女を犯せ!」

「ひゃひゃひゃっ、総督府には女もいるぞ! 犯し放題だ!」

『おおおおおおおおっ!』

 あまりにも下卑た指示であったが、それは海賊達にとって何よりの起爆剤であった。
 獅子王国の兵士という形をとってはいるが、しょせんは奪うことしか考えていない無法者の集まりである。
 未来の立身出世などよりも、目の前の女を犯すことのほうが遥かにやる気が引き出されるようだ。

「くっ・・・なんて下品な!」

 ニンジンをぶら下げられた馬のように勢いを上げた海賊に、ランディは奥歯を噛みしめて忌々しそうに唸った。

 総督府の中には逃げ場のアテがない者や、ケガや病気で身動きが取れない者達が避難している。
 もしもランディ達がここを抜かれてしまえば、彼らが悲惨な末路をたどることが容易に想像できた。

「守り切るぞ! 一歩も通すな!」

『おおっ!』

 警備隊は狭い道幅とバリケードを利用して、数の差を補いながら戦った。
 しかし、衰えることのない海賊の勢いに押されて、徐々に疲労が重なる。
 時間が経つにつれて少しずつ、バリケードも壊されていった。





 そして、数十分後。
 とうとう、総督府を守る警備隊に限界が訪れた。

「ダメです! これ以上は持ちません!」

「西側、突破されます! 応援を・・・!」

「南側も、もう・・・ぐあっ!」

「クソッ! あと少しだ、もう少しだけ耐えるぞ!」

『おおっ・・・!』

 ランディの鋭い指示を叫ぶが、それに応える兵士の声には徐々に覇気がなくなっていく。
 バリケードを突破されるのが時間の問題なのは、戦に出た経験がないランディにだって理解できた。

「ひゃひゃひゃひゃっ! そのまま攻めろ! 殺しまくれ!」

「犯せ! 殺せ!」

「くっ・・・限界だな」

 ランディは近づいてくる海賊の声を聞き、苛立ちを込めて地面を踏みつける。

(このままでは突破される・・・仕方がない、少し早いが作戦を実行するしかないか・・・!)

「ラッパを鳴らせ! 合図を出すぞ!」

「はいっ!」

 ランディは悔しそうに表情を歪めて、若い警備兵へと命じる。

 指示を受けた警備兵は軍用のラッパに口をつけて、空に向けて高々と音を放った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。

レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。 田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。 旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。 青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。 恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!? ※カクヨムにも投稿しています。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。