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第2章 帝国騒乱 編
48.変わり果てた帝都
しおりを挟む目の前にそびえ立つバベルの塔を見上げて、俺達5人はそろって嘆息した。
「なるほどな、確かにこれは神の兵器だ」
「これが・・・伝説の・・・」
「すごい・・・」
特に帝国出身のルクセリア達の驚きは顕著で、瞳には伝説を目の当たりにしたことへの感動すら浮かんでいる。
もちろん、驚いているのは俺も同じだったが、それ以上に気になることがある。同じことに気がついたのか、サクヤが俺の袖を引っ張った。
「ディンギル様、この都は静かすぎます」
「ああ、いくら戦時中とはいえ活気がなさ過ぎるな」
裏路地から出て大通りに出るが、人影はほとんど見られない。建物の中に人間がいる気配はあるのだが、締め切った窓は昼間なのにカーテンが閉められている。
「少し宮廷を探りに行って参ります。少々、お待ちを」
そう言い残して、サクヤが姿を消した。
サクヤを待っている間、俺は改めて帝都の大通りへと目を向けた。
まっすぐ進めば宮廷があるはずの大通りには不自然なほど人気がない。都全体が息を潜めたかのように静まりかえっており、まるで葬式のような雰囲気だ。
「・・・この国は死にかけているようだな。敵に滅ぼされることもなく、味方に滅ぼされることもなく、リンゴの果実が腐り落ちるように滅亡しつつある」
ギリッ、と奥歯を噛みしめた。
初めて訪れた帝都に愛着などはないし、当たり前だが救ってやる義理もない。
しかし、同じく領地と領民を預かる特権階級に生まれた者として、国を自ら腐らせているグリード・バアルには激しい怒りを感じた。
「帝国はもうダメだな。この国に必要なのは人々を助ける救世主なんかじゃない。首を斬り落として断罪する処刑人だ」
「・・・ディンギル様」
ルクセリアが身体を寄せてくる。すぐ傍に、触れそうなほど近くに天使のごとき美貌がある。
「帝国の皇女である私が、このようなことを口にするべきではないかと思います。しかし・・・どうか、兄を、グリード・バアルを裁いてくださいませ」
「無論だ、そのために来たんだからな」
俺は力強く笑ってルクセリアの背中を抱き寄せた。美貌の皇女は抵抗することなく、俺の腕の中にすっぽりと収まった。
「姫様! はしたないですよ!」
「やれやれ、状況をわきまえて欲しいんだがな」
「素敵・・・ディンギル様・・・」
エスティアとシャナがそれぞれ横槍を入れてくるが、それに気づいているのかいないのか、ルクセリアは恍惚とした表情で俺の胸に顔をすり寄せている。
俺としても実に心地良い感触なのでもう少しこのままでいたかったのだが、幸福な時間はすぐに終わりがやってきた。
「ディンギル様、戻りました」
宮廷の様子を探りに行っていたサクヤが戻ってきた。いつも以上に表情が硬くなっており、どうやら良くない知らせを持ってきたらしい。
「宮廷もひどい有様です。開きっぱなしの門の外にも内にも、徴兵された兵士が居座っています。ろくに食事も与えられていないようで、飢えて倒れている者もいれば、帝都に住む民から略奪を働いている者もいるようです」
「・・・つくづく終わってやがる。俺達が来なくても勝手に飢え死にして潰れてたんじゃないか?」
「かもしれません」
もっとも、一つの国をここまで滅茶苦茶にした奴を飢え死になんてさせるつもりはない。自分がしたことの意味をしっかりと教えて、断罪してやらなければ気が済まない。
「これでは正面から宮廷に入るのは難しそうですね。質はともかくとして、兵士が多すぎます」
飢え死にしかけた兵士など何人いたところで俺達を止められるとは思えない。しかし、下手に騒ぎを起こしてしまえば、頭の上に雷が降ってくるだろう。
【雷帝神槌】の力はまだ見たことはないが、帝国の最終兵器とも呼べる魔具を侮ることはできない。
「でしたら、隠し通路から入るのはいかがでしょうか」
ルクセリアが俺の胸から顔を上げて提案してくる。
「宮廷には、いざというときに皇族が脱出するための隠し通路があります。皇族しか知らない道ですから警備もいないかと」
「そうだな・・・」
皇族だけが知っている隠し通路。となれば、グリード・バアルも知っている可能性がある。しかし、ルクセリアが自分から戻ってくるとは思っていないだろうし、わざわざ警備の兵士を置いているとは思えない。
「よし、そこから侵入しよう。案内してくれ」
「わかりました」
俺達はルクセリアの案内で帝都を進んでいく。
人気のないゴーストタウンとなった帝都では誰とも行き交うことなく、無事に目的の場所へとたどり着くことができた。
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