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第2章 帝国騒乱 編
47.転移の弊害
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こうして俺達は【天翔翼靴】を使って帝国に乗り込むことが決まった。それにあたって問題になるのは、帝国の何処に転移するかである。
「宮廷はどうでしょうか? 私が生活していた部屋でしたら侍女以外は出入りできないはずですけど」
ルクセリアが控えめに手を上げて提案する。それに異を唱えたのは、意外なことにルクセリアに忠誠を誓う侍女のルーナだった。
「いえ、宮廷で働く者のどれくらいがグリード殿下に賛同しているかわかりません。経緯はどうであれ、グリード殿下は皇帝の地位に就いています。全ての侍女がルクセリア様に従う保証はありません」
「だったら私が槍の訓練をしていた空き地はどうだ? 父に隠れて特訓していた場所だから人目に付かないし、宮廷からもちょうど良い距離だと思うが」
シャナが代案を出してくる。俺は頷いた。
「そうだな。帝都の様子も見たいし、宮廷の外に転移したほうがいいかもな」
転移する場所が決まった以上、あとは実行に移すばかりだ。俺達は早々に武器や非常食をまとめて、再び部屋に集まった。
「それじゃあ頼むぞ、シャナ」
「承知した、主殿」
俺はシャナに【天翔翼靴】を手渡して、右手でシャナの腰を抱き寄せる。
「むうっ、失礼します!」
「おっと」
なぜか不満そうな表情を浮かべたルクセリアが左腕に抱きついてきた。幼子が親に縋り付くようにぎゅう、と力を入れてくる。
「ルクセリア様、抜け駆けはずるいかと」
「早い者勝ちです! ここは譲りません!」
サクヤが恨めしげな眼で美貌の皇女を睨みつけるが、ルクセリアはぷいっとサクヤから顔を背ける。どうあっても譲らないことを悟って、サクヤは俺の背中に体を寄せる。
「やれやれ、我らの姫様も随分と変わったものだ」
「うう、私の姫様が・・・」
微笑ましそうな顔をしたシャナと、悪い男に娘を盗られた父親のような顔をしたエスティアが俺の服の裾をつかむ。
「皆様、どうかお気を付けて・・・」
「にゃあ、生きて、帰る・・・」
「ああ、親父にいろいろと聞かれるかもしれないが勘弁してくれよ。じゃあ、行ってくる」
「では、いくぞ!」
シャナが【天翔翼靴】を起動させる。水晶玉から真っ白な光が放たれて部屋の中を覆い尽くす。バリン、と何かが割れる音が響いた。
次の瞬間、光が消えて俺達は闇の中へと放り出された。
「・・・ん、ここは?」
「で、ディンギル様!? いらっしゃいますよね!?」
「ああ、いるけど・・・」
ぎゅう、とより一層強く俺の腕に縋り付いてくるルクセリアの姿に答えて、俺は首を巡らせる。辺り一面が闇に包まれている。おまけに箱の中に閉じ込められたかのように身動きができず、思うように手足も動かない。
「ディンギル様、予想外の事態です。動けません」
「・・・む、困ったな。暗くて何も見えないぞ?」
「ひいっ、私のお尻触ってるの誰だ!? まさか・・・!」
「うむ・・・参ったな。なでなで」
四人の女性の肢体がぎゅうぎゅうと押し付けられてくる。柔らかく、温かく、何ともいえない幸福な感触。そこに四人の汗の匂いが混じりあって、脳みそが溶けそうなほど心地良い。叶うのならば、永遠にこのままでいたいくらいだ。
「いやいや、さすがに永遠はダメだろ!」
俺は全身のバネに力を込めて足を蹴りだした。バン、と音を立てて目の前の壁が破れて光が差し込んでくる。さらに何度も壁を蹴って穴を大きくすると、ようやく外の景色が露わになった。
「ここは・・・倉庫か?」
そこはどこかの倉庫の中だった。俺達5人は荷物を入れる大きな木箱の中に閉じ込められていて、周囲には同じ木箱がいくつも積まれている。
「間違えて違う場所に来てしまったのか・・・いや、空き地に倉庫が立ってしまったのかな?」
どうやらシャナが転移しようとした空き地に、いつの間にか倉庫が建てられていたようだ。俺達は倉庫にしまわれていた木箱の中へと転移してしまったらしい。
「・・・ということは、一歩間違えたら壁の中とかに転移してた可能性もあるのか? かなり危機的展開だったな」
「うむ、思い出の場所がこうして変わっていってしまうのは悲しいことだな」
「いや、そういうことじゃない」
とぼけた感想を口にするシャナに呆れはてる。
この事態はまるで想定していなかった。こんなことなら転移先もカンナに占ってもらえばよかった。
「ディンギル様、こちらに扉があります」
「はあ、いつまでもこんな所にいるわけにはいかないな」
俺は嘆息しながら倉庫の出入り口をくぐる。
倉庫の外はレンガの建物が並んでいた。ランペルージ王国と比べて建物の建築様式が古式で、伝統の味を感じさせる街並みだ。
できることならゆっくり観光していきたいところだったが、俺はとあるものに目を奪われていた。
「あれは・・・」
天を衝くように巨大な建築物。巨大な剣が地面から生えているようにも見えるそれは現代の建築技術ではとうてい再現不可能な建物で、まるで神の創造物のようである。
「バベルの塔・・・【雷帝神槌】か」
俺は恐れと興奮を混ぜた声でつぶやいた。
見上げる先に、地上最強、最大の古代兵器がそびえ立っていた。
「宮廷はどうでしょうか? 私が生活していた部屋でしたら侍女以外は出入りできないはずですけど」
ルクセリアが控えめに手を上げて提案する。それに異を唱えたのは、意外なことにルクセリアに忠誠を誓う侍女のルーナだった。
「いえ、宮廷で働く者のどれくらいがグリード殿下に賛同しているかわかりません。経緯はどうであれ、グリード殿下は皇帝の地位に就いています。全ての侍女がルクセリア様に従う保証はありません」
「だったら私が槍の訓練をしていた空き地はどうだ? 父に隠れて特訓していた場所だから人目に付かないし、宮廷からもちょうど良い距離だと思うが」
シャナが代案を出してくる。俺は頷いた。
「そうだな。帝都の様子も見たいし、宮廷の外に転移したほうがいいかもな」
転移する場所が決まった以上、あとは実行に移すばかりだ。俺達は早々に武器や非常食をまとめて、再び部屋に集まった。
「それじゃあ頼むぞ、シャナ」
「承知した、主殿」
俺はシャナに【天翔翼靴】を手渡して、右手でシャナの腰を抱き寄せる。
「むうっ、失礼します!」
「おっと」
なぜか不満そうな表情を浮かべたルクセリアが左腕に抱きついてきた。幼子が親に縋り付くようにぎゅう、と力を入れてくる。
「ルクセリア様、抜け駆けはずるいかと」
「早い者勝ちです! ここは譲りません!」
サクヤが恨めしげな眼で美貌の皇女を睨みつけるが、ルクセリアはぷいっとサクヤから顔を背ける。どうあっても譲らないことを悟って、サクヤは俺の背中に体を寄せる。
「やれやれ、我らの姫様も随分と変わったものだ」
「うう、私の姫様が・・・」
微笑ましそうな顔をしたシャナと、悪い男に娘を盗られた父親のような顔をしたエスティアが俺の服の裾をつかむ。
「皆様、どうかお気を付けて・・・」
「にゃあ、生きて、帰る・・・」
「ああ、親父にいろいろと聞かれるかもしれないが勘弁してくれよ。じゃあ、行ってくる」
「では、いくぞ!」
シャナが【天翔翼靴】を起動させる。水晶玉から真っ白な光が放たれて部屋の中を覆い尽くす。バリン、と何かが割れる音が響いた。
次の瞬間、光が消えて俺達は闇の中へと放り出された。
「・・・ん、ここは?」
「で、ディンギル様!? いらっしゃいますよね!?」
「ああ、いるけど・・・」
ぎゅう、とより一層強く俺の腕に縋り付いてくるルクセリアの姿に答えて、俺は首を巡らせる。辺り一面が闇に包まれている。おまけに箱の中に閉じ込められたかのように身動きができず、思うように手足も動かない。
「ディンギル様、予想外の事態です。動けません」
「・・・む、困ったな。暗くて何も見えないぞ?」
「ひいっ、私のお尻触ってるの誰だ!? まさか・・・!」
「うむ・・・参ったな。なでなで」
四人の女性の肢体がぎゅうぎゅうと押し付けられてくる。柔らかく、温かく、何ともいえない幸福な感触。そこに四人の汗の匂いが混じりあって、脳みそが溶けそうなほど心地良い。叶うのならば、永遠にこのままでいたいくらいだ。
「いやいや、さすがに永遠はダメだろ!」
俺は全身のバネに力を込めて足を蹴りだした。バン、と音を立てて目の前の壁が破れて光が差し込んでくる。さらに何度も壁を蹴って穴を大きくすると、ようやく外の景色が露わになった。
「ここは・・・倉庫か?」
そこはどこかの倉庫の中だった。俺達5人は荷物を入れる大きな木箱の中に閉じ込められていて、周囲には同じ木箱がいくつも積まれている。
「間違えて違う場所に来てしまったのか・・・いや、空き地に倉庫が立ってしまったのかな?」
どうやらシャナが転移しようとした空き地に、いつの間にか倉庫が建てられていたようだ。俺達は倉庫にしまわれていた木箱の中へと転移してしまったらしい。
「・・・ということは、一歩間違えたら壁の中とかに転移してた可能性もあるのか? かなり危機的展開だったな」
「うむ、思い出の場所がこうして変わっていってしまうのは悲しいことだな」
「いや、そういうことじゃない」
とぼけた感想を口にするシャナに呆れはてる。
この事態はまるで想定していなかった。こんなことなら転移先もカンナに占ってもらえばよかった。
「ディンギル様、こちらに扉があります」
「はあ、いつまでもこんな所にいるわけにはいかないな」
俺は嘆息しながら倉庫の出入り口をくぐる。
倉庫の外はレンガの建物が並んでいた。ランペルージ王国と比べて建物の建築様式が古式で、伝統の味を感じさせる街並みだ。
できることならゆっくり観光していきたいところだったが、俺はとあるものに目を奪われていた。
「あれは・・・」
天を衝くように巨大な建築物。巨大な剣が地面から生えているようにも見えるそれは現代の建築技術ではとうてい再現不可能な建物で、まるで神の創造物のようである。
「バベルの塔・・・【雷帝神槌】か」
俺は恐れと興奮を混ぜた声でつぶやいた。
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