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第2章 帝国騒乱 編
20.下衆は知ってあえて踊る
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本日、2話目の更新になります。
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side グリード・バアル
「よくも、まあ。私の前に顔を出せたものですね」
「・・・このたびは、グリード殿下にもご迷惑をおかけいたしました」
跪き、恐縮したように頭を下げる男のことを睨みつけた。
スノウ・ハルファスと名乗ったこの男は、兄であるラーズ・バアルの副官の騎士である。
当然ながら、ルクセリアをマクスウェルに送り込むことについても事前に知っていたはずだ。ひょっとしたら、この男が提案したことかもしれない。
私は目の前の男を斬り捨てたくなる衝動を必死になってこらえた。
「それで、何の用ですか?」
つまらない要件だったら、この世でもっとも無残な死を与えてやる。そんな意思を込めて尋ねると、ハルファスが神妙な面持ちで答える。
「グリード殿下。私は殿下の願いを叶えるために、この場に参りました」
「願い? ルクセリアのことを言っているのでしたら許しませんよ。貴方達が彼女を敵国に送りつけておいて、何をぬけぬけと・・・」
「いいえ、そちらではありません。貴方が皇帝になるための方法を進言に参りました」
ハルファスの言葉を聞いて、私は眉をひそめた。
「貴方ごときが私を皇帝にすると? 面白いですね。聞いてあげましょう」
「はっ、我々第1軍団は、近々、近衛騎士団と連携してマクスウェル辺境伯領に攻め込む予定です。そこにグリード殿下と第2軍団にもご助力いただきたい」
「ほう、兄を皇帝にする手伝いを知ろと? ふざけた提案ですね」
私が揶揄するように言うと、ハルファスが顔を伏せたまま首を横に振る。
「確かに、そのままランペルージ王国が滅んでしまえば、皇帝陛下の遺言を達成させたラーズ殿下が次期皇帝となってしまいます。しかし、それは王国が滅びるまでラーズ殿下が生きていればの話です」
「・・・・・・」
私は少し考えて、ハルファスの意図を察した。
「・・・つまり、帝国の連合部隊によってマクスウェルを滅ぼす。そして、その混乱に乗じて兄上を殺害する――という事ですか?」
「さすがはグリード殿下。話が速くて助かります」
「ふっ、お世辞はいりませんよ。私が兄上よりも優秀なのは自明のことですから」
しかし、と私は言葉をつなげる。目の前の男が言いたいことは理解できたが、どうしても納得がいかないことがある。
「スノウ・ハルファス、といいましたね? 貴方は兄の騎士だったはずです。その貴方が、どうして兄の命を奪ってまで私を皇帝にしようとするのですか?」
質問をすると、ハルファスが顔を歪ませる。怒り、嘆き、悔しさ、様々な感情が若い騎士の表情に浮かぶ。
「・・・ラーズ殿下は、5年前のマクスウェル家との戦いで、我が兄、アイス・ハルファスを見殺しにしました。ハルファス家は敗戦の責任をとらされ、「双翼」とまで呼ばれた兄の名誉も地に堕ちました」
「つまり、兄の敵討ちのためということですか?」
「・・・・・・」
ハルファスが無言で首肯する。
(なるほど、兄を見殺しにしたラーズ。兄を殺害したマクスウェル。両者を同時に始末できる一石二鳥の策略ですね。知将アイス・ハルファスの弟というのもメッキではないようですね)
私は唇を歪ませて、笑みの形を作る。
(ルクセリアを利用したことは許せませんが、この策には乗る価値がある。ラーズさえ消えてしまえば、そもそも王国などどうでもよいのです。ルクセリアを取り戻してそのまま妻に・・・万が一、拒まれたら)
戦争の混乱に乗じて、王宮の地下牢にでも監禁してやればいい。
美しいドレスで着飾ったルクセリアも愛らしいが、虜囚の服を着て泥にまみれている彼女の姿も見てみたい。
「いいでしょう。貴方の策に乗ってあげましょう。わかっているとは思いますが、裏切ったらどうなるか・・・」
「心得ております。我が生涯の忠誠をグリード殿下に・・・」
跪く騎士の瞳に浮かぶ憎悪の炎。
それを眺めながら、私はルクセリアを連れ帰った後の生活に思いを馳せた。
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side グリード・バアル
「よくも、まあ。私の前に顔を出せたものですね」
「・・・このたびは、グリード殿下にもご迷惑をおかけいたしました」
跪き、恐縮したように頭を下げる男のことを睨みつけた。
スノウ・ハルファスと名乗ったこの男は、兄であるラーズ・バアルの副官の騎士である。
当然ながら、ルクセリアをマクスウェルに送り込むことについても事前に知っていたはずだ。ひょっとしたら、この男が提案したことかもしれない。
私は目の前の男を斬り捨てたくなる衝動を必死になってこらえた。
「それで、何の用ですか?」
つまらない要件だったら、この世でもっとも無残な死を与えてやる。そんな意思を込めて尋ねると、ハルファスが神妙な面持ちで答える。
「グリード殿下。私は殿下の願いを叶えるために、この場に参りました」
「願い? ルクセリアのことを言っているのでしたら許しませんよ。貴方達が彼女を敵国に送りつけておいて、何をぬけぬけと・・・」
「いいえ、そちらではありません。貴方が皇帝になるための方法を進言に参りました」
ハルファスの言葉を聞いて、私は眉をひそめた。
「貴方ごときが私を皇帝にすると? 面白いですね。聞いてあげましょう」
「はっ、我々第1軍団は、近々、近衛騎士団と連携してマクスウェル辺境伯領に攻め込む予定です。そこにグリード殿下と第2軍団にもご助力いただきたい」
「ほう、兄を皇帝にする手伝いを知ろと? ふざけた提案ですね」
私が揶揄するように言うと、ハルファスが顔を伏せたまま首を横に振る。
「確かに、そのままランペルージ王国が滅んでしまえば、皇帝陛下の遺言を達成させたラーズ殿下が次期皇帝となってしまいます。しかし、それは王国が滅びるまでラーズ殿下が生きていればの話です」
「・・・・・・」
私は少し考えて、ハルファスの意図を察した。
「・・・つまり、帝国の連合部隊によってマクスウェルを滅ぼす。そして、その混乱に乗じて兄上を殺害する――という事ですか?」
「さすがはグリード殿下。話が速くて助かります」
「ふっ、お世辞はいりませんよ。私が兄上よりも優秀なのは自明のことですから」
しかし、と私は言葉をつなげる。目の前の男が言いたいことは理解できたが、どうしても納得がいかないことがある。
「スノウ・ハルファス、といいましたね? 貴方は兄の騎士だったはずです。その貴方が、どうして兄の命を奪ってまで私を皇帝にしようとするのですか?」
質問をすると、ハルファスが顔を歪ませる。怒り、嘆き、悔しさ、様々な感情が若い騎士の表情に浮かぶ。
「・・・ラーズ殿下は、5年前のマクスウェル家との戦いで、我が兄、アイス・ハルファスを見殺しにしました。ハルファス家は敗戦の責任をとらされ、「双翼」とまで呼ばれた兄の名誉も地に堕ちました」
「つまり、兄の敵討ちのためということですか?」
「・・・・・・」
ハルファスが無言で首肯する。
(なるほど、兄を見殺しにしたラーズ。兄を殺害したマクスウェル。両者を同時に始末できる一石二鳥の策略ですね。知将アイス・ハルファスの弟というのもメッキではないようですね)
私は唇を歪ませて、笑みの形を作る。
(ルクセリアを利用したことは許せませんが、この策には乗る価値がある。ラーズさえ消えてしまえば、そもそも王国などどうでもよいのです。ルクセリアを取り戻してそのまま妻に・・・万が一、拒まれたら)
戦争の混乱に乗じて、王宮の地下牢にでも監禁してやればいい。
美しいドレスで着飾ったルクセリアも愛らしいが、虜囚の服を着て泥にまみれている彼女の姿も見てみたい。
「いいでしょう。貴方の策に乗ってあげましょう。わかっているとは思いますが、裏切ったらどうなるか・・・」
「心得ております。我が生涯の忠誠をグリード殿下に・・・」
跪く騎士の瞳に浮かぶ憎悪の炎。
それを眺めながら、私はルクセリアを連れ帰った後の生活に思いを馳せた。
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