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104.ダンジョンでー、ドワーフのお姉さんとー、出会ったー
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「そういえば……今さらの話ですけど、ウータさんは魔法は使わないんですか?」
ダンジョンを三十分ほど進んだところで、ステラがふと疑問を口にする。
「『神炎』と『神水』でしたっけ? その魔法を使ったら、塵にすることなく簡単に倒せるんじゃないですか?」
「あ、忘れてた」
ステラに指摘されると、ウータがパチクリと瞬きをする。
「そういえば、女神を食べた力があったよね……忘れてた。うっかりさんだったよ」
「いや……忘れないでくださいよ。わりと重要なことじゃないですか」
ステラが呆れた様子で肩を落とす。
女神を食べるだなんて、この世界の人間によっては天地がひっくり返るような出来事である。
そんな大罪を犯しておいて、あっさりと「忘れていた」で済ませられるのはウータだけである。
「まあ、塵にする方が簡単だからねえ。ついつい、そっちを使っちゃうんだよね。次に魔物が出たら魔法を使うよー」
などと言いながら歩いていくと、通路から広い空間に出た。
坑道の中に広がった広々とした部屋。体育館ほどの大きさがあり、壁も床も石だったが、天井からは尖った鍾乳石が垂れている。
「わっ……すごい……!」
「すごいですね……」
その空間に足を踏み入れるや、ウータとステラが感嘆の声を上げる。
それはあまりにも幻想的な光景だった。
壁に生えたコケの光を鍾乳石が反射して、キラキラと星屑のように輝いているのだ。
おまけに、壁や床のあちこちから宝石の原石が覗いており、色とりどりの輝きを返している。
もしも星空に閉じ込められたとしたら、きっと周囲にはこんな景色が広がっているだろう。
「そういえば……ダンジョンの中には綺麗な景色があるって言ってたよね。コレがそうなのかな?」
「きっとそうですね……本当に綺麗……」
二人はその空間の美しさを眺めて、しばし見蕩れて立ちつくしてしまう。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
しかし、そんなロマンチックな時間に横やりが入れられた。
開けた空間の奥から、二つの絶叫が聞こえてきたのである。
「あれ? 何かな?」
「誰かが戦っているみたいですね……」
二人が奥に目をやると……そこには、アフリカ象ほどの大きさの魔物がいた。
ハリネズミのように鍾乳石の棘を背中からいくつも生やして、顔面はワニのように細長くて口が裂けている。
大きな口には鋭い牙が生えており、ガチガチと火花を散らして上下の牙が打ち鳴らされる。
「フッ! ハッ! ヤアッ!」
そんな魔物と戦っているのは一人の女性剣士だった。
一見すると子供のように見えなくもないが、ウータ達はそれが成人したドワーフの女性であることを知っている。
「アレって……」
「エンジェさんじゃないですか……!」
大きな魔物と戦っていたのは金髪ショートカットで褐色肌、大剣を振りかざした女性剣士……エンジェだった。
エンジェは怪物の噛みつき攻撃を回避しつつ、大剣を振るって背中にびっしりと生えた棘を斬り落としている。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「クッ……このっ……しぶといわねえ! いい加減に倒れなさいよ!」
どうやら、エンジェは苦戦を強いられているようである。
トゲトゲで大きな怪物を前にして、攻めあぐねているように見えた。
「ああ、ちょうど良かった。助けに入ろうかな」
「えっと……手助けしても良いのでしょうか?」
ウータは知らぬことだが……冒険者にとって他の冒険者の戦いに割って入るのはタブーである。
助太刀に入る場合には、相手の了承を取ってから戦いに加わるのが暗黙の了解となっていた。
「まあ、良いんじゃない?」
以前、ワイバーンと戦っていた際、エンジェが助けに入ってくれたことがあった。
ならば、同じようにウータが助けに入ったとしても問題はあるまい。
「大丈夫、大丈夫。ちょっとだけ。先っちょだけだから」
「何の先っちょですか……」
「何だろうね。クラスの男子が前に言ってたんだけど……まあ、どうでもいっか」
ウータはエンジェと戦っている魔物に指を向けて……魔法を発動させる。
「なんかすごいみずー」
まるで秘密道具を出すネコ型ロボットのように言い放つと、ウータの指先から強烈な水鉄砲が射出された。
音速を超えた速度で放たれた高水圧のレーザーが魔物の胴体に突き刺さる。
「ギャアッ!?」
「ムッ……!」
魔物が悲鳴を上げて、エンジェが飛びのいた。
ちょうど良い具合にエンジェが魔物から距離を取ったのを見て……ウータはさらに水の女神から奪った力を発動させる。
「なんかすごいみず、ぱーとつー」
「ギャウッ……」
射出された水が怪物の周りを取り囲み、水の牢獄の中に閉じこめる。
怪物はジタバタともがき苦しんでいたが……やがて、溺死してしまったのか動かなくなる。
「す、すごい力ですね……」
ウータの使った力を目にして、ステラが顔を引きつらせる。
「うんうん、僕も驚いているよ……火の魔法よりも威力は低めかもしれないけど、代わりに色々と出来そうだねー」
邪神として人間を超えた力を持っているウータであったが……他の神を取り込むことにより、さらに強くなっているようである。
絶命した魔物を水の牢獄から解放すると、ドロップアイテムらしき巨大な肉の塊を残して、ダンジョンの床に溶けて消えていった。
ダンジョンを三十分ほど進んだところで、ステラがふと疑問を口にする。
「『神炎』と『神水』でしたっけ? その魔法を使ったら、塵にすることなく簡単に倒せるんじゃないですか?」
「あ、忘れてた」
ステラに指摘されると、ウータがパチクリと瞬きをする。
「そういえば、女神を食べた力があったよね……忘れてた。うっかりさんだったよ」
「いや……忘れないでくださいよ。わりと重要なことじゃないですか」
ステラが呆れた様子で肩を落とす。
女神を食べるだなんて、この世界の人間によっては天地がひっくり返るような出来事である。
そんな大罪を犯しておいて、あっさりと「忘れていた」で済ませられるのはウータだけである。
「まあ、塵にする方が簡単だからねえ。ついつい、そっちを使っちゃうんだよね。次に魔物が出たら魔法を使うよー」
などと言いながら歩いていくと、通路から広い空間に出た。
坑道の中に広がった広々とした部屋。体育館ほどの大きさがあり、壁も床も石だったが、天井からは尖った鍾乳石が垂れている。
「わっ……すごい……!」
「すごいですね……」
その空間に足を踏み入れるや、ウータとステラが感嘆の声を上げる。
それはあまりにも幻想的な光景だった。
壁に生えたコケの光を鍾乳石が反射して、キラキラと星屑のように輝いているのだ。
おまけに、壁や床のあちこちから宝石の原石が覗いており、色とりどりの輝きを返している。
もしも星空に閉じ込められたとしたら、きっと周囲にはこんな景色が広がっているだろう。
「そういえば……ダンジョンの中には綺麗な景色があるって言ってたよね。コレがそうなのかな?」
「きっとそうですね……本当に綺麗……」
二人はその空間の美しさを眺めて、しばし見蕩れて立ちつくしてしまう。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
しかし、そんなロマンチックな時間に横やりが入れられた。
開けた空間の奥から、二つの絶叫が聞こえてきたのである。
「あれ? 何かな?」
「誰かが戦っているみたいですね……」
二人が奥に目をやると……そこには、アフリカ象ほどの大きさの魔物がいた。
ハリネズミのように鍾乳石の棘を背中からいくつも生やして、顔面はワニのように細長くて口が裂けている。
大きな口には鋭い牙が生えており、ガチガチと火花を散らして上下の牙が打ち鳴らされる。
「フッ! ハッ! ヤアッ!」
そんな魔物と戦っているのは一人の女性剣士だった。
一見すると子供のように見えなくもないが、ウータ達はそれが成人したドワーフの女性であることを知っている。
「アレって……」
「エンジェさんじゃないですか……!」
大きな魔物と戦っていたのは金髪ショートカットで褐色肌、大剣を振りかざした女性剣士……エンジェだった。
エンジェは怪物の噛みつき攻撃を回避しつつ、大剣を振るって背中にびっしりと生えた棘を斬り落としている。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「クッ……このっ……しぶといわねえ! いい加減に倒れなさいよ!」
どうやら、エンジェは苦戦を強いられているようである。
トゲトゲで大きな怪物を前にして、攻めあぐねているように見えた。
「ああ、ちょうど良かった。助けに入ろうかな」
「えっと……手助けしても良いのでしょうか?」
ウータは知らぬことだが……冒険者にとって他の冒険者の戦いに割って入るのはタブーである。
助太刀に入る場合には、相手の了承を取ってから戦いに加わるのが暗黙の了解となっていた。
「まあ、良いんじゃない?」
以前、ワイバーンと戦っていた際、エンジェが助けに入ってくれたことがあった。
ならば、同じようにウータが助けに入ったとしても問題はあるまい。
「大丈夫、大丈夫。ちょっとだけ。先っちょだけだから」
「何の先っちょですか……」
「何だろうね。クラスの男子が前に言ってたんだけど……まあ、どうでもいっか」
ウータはエンジェと戦っている魔物に指を向けて……魔法を発動させる。
「なんかすごいみずー」
まるで秘密道具を出すネコ型ロボットのように言い放つと、ウータの指先から強烈な水鉄砲が射出された。
音速を超えた速度で放たれた高水圧のレーザーが魔物の胴体に突き刺さる。
「ギャアッ!?」
「ムッ……!」
魔物が悲鳴を上げて、エンジェが飛びのいた。
ちょうど良い具合にエンジェが魔物から距離を取ったのを見て……ウータはさらに水の女神から奪った力を発動させる。
「なんかすごいみず、ぱーとつー」
「ギャウッ……」
射出された水が怪物の周りを取り囲み、水の牢獄の中に閉じこめる。
怪物はジタバタともがき苦しんでいたが……やがて、溺死してしまったのか動かなくなる。
「す、すごい力ですね……」
ウータの使った力を目にして、ステラが顔を引きつらせる。
「うんうん、僕も驚いているよ……火の魔法よりも威力は低めかもしれないけど、代わりに色々と出来そうだねー」
邪神として人間を超えた力を持っているウータであったが……他の神を取り込むことにより、さらに強くなっているようである。
絶命した魔物を水の牢獄から解放すると、ドロップアイテムらしき巨大な肉の塊を残して、ダンジョンの床に溶けて消えていった。
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