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97.モジャッターパオードのバオバオプーだよ
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ウータとステラは二人で並んで、ミスリルバレーの町を観光していった。
北国の町は気温が低く、ただ歩いているだけでも寒さが肌に沁み込んでくる。
それでも……町のあちこちに鍛冶屋があって、炉の熱が外まで流れてきていたため、さほど辛いとは感じなかった。
「寒い国ってくるの初めてだけど、わりと独特の雰囲気だよね。寒いんだけど妙に熱気があるというかさ。不思議な空気があるよね」
「そうですね。ドワーフの人達はこの寒い中でも半袖で歩いていますし、寒くないんでしょうか?」
「筋肉がすごいもんね。それで寒さには強いのかもしれないよ?」
新しい町には新しい景色があり、人の生活があり、建物や料理などの文化がある。
それらを見て回ることは純粋に楽しく、心躍ることだった。
大通りを会話しながら歩いていく二人であったが、ふとウータが一つの店を指差した。
「あ、ケバブケバブ。ステラ、ケバブが売っているよー」
「ケバブ……ですか?」
「そうそう。あのお肉の塊。実際にやってるの初めて見たよ」
店の一つ。肉を回転させて焼きながら、長い包丁でこそぎ落としている料理屋があった。
日本でも有名になっているトルコ料理。ケバブとよく似た食べ物だった。
「お、食ってくかい。そこの兄ちゃん」
店主の男性が声をかけてくる。
ヒゲ顔のドワーフの店員だった。
「ちょうど良い具合に焼けたところだよ。このバオバオプー」
「パオパオプーっていうのかな、この料理」
「ああ、バオバオプーだ。新鮮なモジャッターパオードの肉をこうやって焼いた物で、野菜と一緒にパンに挟むと絶品だよ!」
「ば、ばおばおぷー? もじゃったーぱおーど?」
ステラが首を傾げる。
結局、何の動物の肉なのかさっぱりわからない。
「ねえねえ、もじゃったーぱおーどってどんな動物なのかな?」
ウータも同じ疑問を抱いたらしく、店主の男性に訊ねる。
「いや? モジャッターパオードは動物じゃないよ?」
「動物じゃないの? これってお肉だよね?」
「肉だな。だけど、モジャッターパオードは動物じゃない」
「動物じゃないのなら……鳥とか魚とか?」
「いやいや、鳥でもないし魚でもないよ。もちろん、野菜でもない」
動物でなく、鳥でなく、魚でもない。野菜でもない。
けれど、肉で食用でこうして店で売っている。
いったい、何だというのだろう。謎かけでもされている気分である。
「え、えっと……それじゃあ、何なんですか? このお店は何を食べさせる店なんですか?」
「モジャッターパオードはモジャッターパオード以外の何物でもないよ。それ以上でもなければ以下でもない。わかるかい、お嬢ちゃん?」
「わかるの? ステラ?」
「わ、わかりません……まったくちっとも、少しもわかりません……」
ステラが顔を引きつらせる。
ウータもわけがわからないといった顔をしていたが、それはそうとして肉からは美味しそうな香りがしてくる。
「まあ、いいや。二人分くださいな。あんまり辛くしないでね」
「はいよ、辛さ控えめで二丁。銀貨一枚ね」
「食べるんですか、ウータさん!?」
「食べるよー。だって、興味なくない?」
「いや……興味よりも完全に恐怖が勝っているんですけど……」
得体のしれない食物に顔を引きつらせているステラであったが……注文を受けた店主は素早い手つきで肉と野菜をパンに挟み、紙に包んで手渡してくる。
「はい、ステラも食べようよ」
「は、はあ……もらいますね……」
ステラが怖々とした様子で包みを受け取った。
食べるのを躊躇するステラであったが、ウータはさっさと包み紙を開いて、謎肉を挟んだパンを口にする。
「うんうん、やっぱりちょっと辛くてスパイシーだけど……美味しいね、うん」
「お、美味しいんですか?」
「うん。外はコリコリして歯応えがあって、中はトロトロして……辛さの奥に甘味があって、それでいてあっさりして食べやすくて。トータルすると固いね。このお肉」
「結局、固かったんですか……」
「うん、ちゃんと美味しいから心配いらないよー」
「…………」
ウータは女神を食べた時も「美味しい」と感想を口にしていた。
正直、ウータの味覚は信用できないのだが……。
「……わかりました。食べます」
ウータ以外の客も買って食べているので、少なくとも毒ではあるまい。
ステラもウータに続いて包みを解いて、恐怖の表情で口に運んだ。
「…………固いですね。コレ」
結論から言うと……美味しいけど固かった。
ウータの言うとおり、外はコリコリして歯応えがあって、中はトロトロして……辛さの奥に甘味があって、それでいてあっさりして食べやすくて。
そして、最終的には「固い」という感想しかないのが、謎の料理……モジャッターパオードのバオバオプーを食べた感想だったのである。
北国の町は気温が低く、ただ歩いているだけでも寒さが肌に沁み込んでくる。
それでも……町のあちこちに鍛冶屋があって、炉の熱が外まで流れてきていたため、さほど辛いとは感じなかった。
「寒い国ってくるの初めてだけど、わりと独特の雰囲気だよね。寒いんだけど妙に熱気があるというかさ。不思議な空気があるよね」
「そうですね。ドワーフの人達はこの寒い中でも半袖で歩いていますし、寒くないんでしょうか?」
「筋肉がすごいもんね。それで寒さには強いのかもしれないよ?」
新しい町には新しい景色があり、人の生活があり、建物や料理などの文化がある。
それらを見て回ることは純粋に楽しく、心躍ることだった。
大通りを会話しながら歩いていく二人であったが、ふとウータが一つの店を指差した。
「あ、ケバブケバブ。ステラ、ケバブが売っているよー」
「ケバブ……ですか?」
「そうそう。あのお肉の塊。実際にやってるの初めて見たよ」
店の一つ。肉を回転させて焼きながら、長い包丁でこそぎ落としている料理屋があった。
日本でも有名になっているトルコ料理。ケバブとよく似た食べ物だった。
「お、食ってくかい。そこの兄ちゃん」
店主の男性が声をかけてくる。
ヒゲ顔のドワーフの店員だった。
「ちょうど良い具合に焼けたところだよ。このバオバオプー」
「パオパオプーっていうのかな、この料理」
「ああ、バオバオプーだ。新鮮なモジャッターパオードの肉をこうやって焼いた物で、野菜と一緒にパンに挟むと絶品だよ!」
「ば、ばおばおぷー? もじゃったーぱおーど?」
ステラが首を傾げる。
結局、何の動物の肉なのかさっぱりわからない。
「ねえねえ、もじゃったーぱおーどってどんな動物なのかな?」
ウータも同じ疑問を抱いたらしく、店主の男性に訊ねる。
「いや? モジャッターパオードは動物じゃないよ?」
「動物じゃないの? これってお肉だよね?」
「肉だな。だけど、モジャッターパオードは動物じゃない」
「動物じゃないのなら……鳥とか魚とか?」
「いやいや、鳥でもないし魚でもないよ。もちろん、野菜でもない」
動物でなく、鳥でなく、魚でもない。野菜でもない。
けれど、肉で食用でこうして店で売っている。
いったい、何だというのだろう。謎かけでもされている気分である。
「え、えっと……それじゃあ、何なんですか? このお店は何を食べさせる店なんですか?」
「モジャッターパオードはモジャッターパオード以外の何物でもないよ。それ以上でもなければ以下でもない。わかるかい、お嬢ちゃん?」
「わかるの? ステラ?」
「わ、わかりません……まったくちっとも、少しもわかりません……」
ステラが顔を引きつらせる。
ウータもわけがわからないといった顔をしていたが、それはそうとして肉からは美味しそうな香りがしてくる。
「まあ、いいや。二人分くださいな。あんまり辛くしないでね」
「はいよ、辛さ控えめで二丁。銀貨一枚ね」
「食べるんですか、ウータさん!?」
「食べるよー。だって、興味なくない?」
「いや……興味よりも完全に恐怖が勝っているんですけど……」
得体のしれない食物に顔を引きつらせているステラであったが……注文を受けた店主は素早い手つきで肉と野菜をパンに挟み、紙に包んで手渡してくる。
「はい、ステラも食べようよ」
「は、はあ……もらいますね……」
ステラが怖々とした様子で包みを受け取った。
食べるのを躊躇するステラであったが、ウータはさっさと包み紙を開いて、謎肉を挟んだパンを口にする。
「うんうん、やっぱりちょっと辛くてスパイシーだけど……美味しいね、うん」
「お、美味しいんですか?」
「うん。外はコリコリして歯応えがあって、中はトロトロして……辛さの奥に甘味があって、それでいてあっさりして食べやすくて。トータルすると固いね。このお肉」
「結局、固かったんですか……」
「うん、ちゃんと美味しいから心配いらないよー」
「…………」
ウータは女神を食べた時も「美味しい」と感想を口にしていた。
正直、ウータの味覚は信用できないのだが……。
「……わかりました。食べます」
ウータ以外の客も買って食べているので、少なくとも毒ではあるまい。
ステラもウータに続いて包みを解いて、恐怖の表情で口に運んだ。
「…………固いですね。コレ」
結論から言うと……美味しいけど固かった。
ウータの言うとおり、外はコリコリして歯応えがあって、中はトロトロして……辛さの奥に甘味があって、それでいてあっさりして食べやすくて。
そして、最終的には「固い」という感想しかないのが、謎の料理……モジャッターパオードのバオバオプーを食べた感想だったのである。
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