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72.お祭りを楽しんだよ
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それから、ウータとステラは前夜祭の町を見て回った。
色々な屋台で料理を食べて回り、余興として披露されている歌唱やダンスを見て、旅芸人が行っている演劇を鑑賞したりもした。
港で巨大な海藻の化物を目にして、ステラが気を失ってしまったのはご愛嬌。
やがて日が暮れてくると、あちこちに篝火が焚かれてオレンジの光が町を照らすようになっていた。
「……もうじきですね。お祭りの本番は」
「そうだね」
ウータとステラはベンチに座り、ぼんやりと会話を始める。
オレンジの光の下、祭りを楽しんでいる人々の姿がここにはあった。
誰もが笑い、はしゃいで、前夜祭を楽しんでいる。
ステラが解読した古文書の記述が真実であるならば……あと一時間ほどで、目の前の光景が壊れてしまう。
女神マリンによる『海捌』が始まり、人々は悲鳴を上げることになるだろう。
「……本当は外れていて欲しいんですよ。ウータさんにとっては残念なことかもしれませんけど」
ステラが悲しそうに言う。
ウータの目的が女神マリンを倒すことであるとは知っているが……目の前にある幸福を絵に描いたような祭りの光景が崩れるところを、見たくはなかった。
「そうだね。僕もそう思うよ」
しかし、ウータから意外な答えが返ってきた。
「僕はわりと細かいことはどうでもいいし、顔も知らない他人がいくら死んでも気にならないタイプだけど……お祭りはやっぱり楽しいよ」
「ウータさん……」
「このお祭りを邪魔する人がいるなんて、無粋だよね。ちょっとムカついてきちゃうよ」
「そう、ですね……」
「よいしょっと」
ウータがベンチから立ち上がった。
先ほど買ったイカ焼きをパクリと口に入れて、モシャモシャと食べる。
「うん、美味しい。こんな美味しいご飯を出してくれる町は大事だね」
「……はい。大事だと思います」
この町を……目の前の光景を守ってみせる。
ウータとステラは頷き合って、目の前の人々の笑顔を守ることを誓った。
「よし、それじゃあグー姉さんのところに行こっか。もうそろそろ、舞が始まるんじゃない?」
「ええ……行きましょう。高台の櫓に」
ステラもウータに続いてベンチから立ち上がり、人波を掻き分けて町の高台へと向かっていった。
「おっと、ごめんよ」
「キャッ……」
しかし、そんな時に一人の男性がステラにぶつかってきた。
男性は謝罪の言葉だけを残して、そのまま人混みに消えていくが……直後、ウータの姿も忽然と消える。
「え、ウータさん?」
「あ、ごめんごめん」
ウータはすぐに戻ってきた。
転移を使用して、ステラの前に現れる。
「さっきの人、スリだったみたい。ステラのお財布が取られちゃったから取り返してきたよ」
「あ、どうもすみません」
ウータが財布を渡してくれるが……その財布には細かい塵が付着していた。
「……ウータさん?」
「ああ、ごめんねー。ちょっと汚れちゃったみたいだね」
「そう……ですね……」
ステラが顔を引きつらせて、財布についた塵を手で払う。
財布を盗っていったスリがどうなったのか……あまり考えたくないことである。
先ほど、町を守りたいといったような会話をしていたが……忘れてはいけない。やっぱり、ウータは邪神なのだ。
気に入らない相手には少しも容赦がなかった。
その後、ウータとステラは二人並んで高台の方へと歩いていった。
高台に設置された櫓で行われる舞の奉納を見るため、道はすっかり人で溢れかえっている。
仕方がなしに、ウータの転移を使って櫓が見える位置にある建物の屋根まで移動した。
「そろそろですね……」
「うん、そうだね」
屋根から櫓を見つめるウータとステラ。
やがて時間になったのか、櫓の上にグラスが現れる。
踊り子のような薄手の衣装を身に着けたグラスの表情は憂いに染まっており、それが不思議な美しさを湛えていた。
櫓の周りにいる楽団が楽器を奏でる。
リュートによく似た楽器が軽やかな音を奏でて、太鼓が重低音を鳴らし、その音楽に合わせてグラスが舞を踊る。
「綺麗……」
「モシャモシャ……」
ステラがグラスに見蕩れる中、ウータは黙々と水飴のようなお菓子を食べていた。
やがて舞が終わると……人々から歓声が上がった。
「あ……」
しかし、歓声はやがて動揺のざわめきが生じる。
町の真上に突如として虹色の光が生じたかと思うや、それが帯状に広がってドームとなり、フィッシュブルクの町を覆い尽くしたのだ。
「なんだ、なんだ!?」
「何が起こっている!?」
「これも祭りの余興か?」
「……始まったみたいだねえ」
人々が混乱している中、ウータが水飴を飲み込んだ。
その視線はすでにグラスがいる櫓には向けられていない。
明後日の方角……海の方向を向いていた。
「ああ……!」
ウータの視線を追って、ステラが悲鳴のような声を上げる。
起こってしまった。
古文書は正しかったのだ。
遅れて、町の人々も異変に気がつく。
「おい、海を見ろ!」
「津波だ!」
「津波が押し寄せてくるぞ!」
ドーム型の結界に閉ざされたフィッシュブルクの町めがけて……巨大な津波が押し寄せてきていたのである。
色々な屋台で料理を食べて回り、余興として披露されている歌唱やダンスを見て、旅芸人が行っている演劇を鑑賞したりもした。
港で巨大な海藻の化物を目にして、ステラが気を失ってしまったのはご愛嬌。
やがて日が暮れてくると、あちこちに篝火が焚かれてオレンジの光が町を照らすようになっていた。
「……もうじきですね。お祭りの本番は」
「そうだね」
ウータとステラはベンチに座り、ぼんやりと会話を始める。
オレンジの光の下、祭りを楽しんでいる人々の姿がここにはあった。
誰もが笑い、はしゃいで、前夜祭を楽しんでいる。
ステラが解読した古文書の記述が真実であるならば……あと一時間ほどで、目の前の光景が壊れてしまう。
女神マリンによる『海捌』が始まり、人々は悲鳴を上げることになるだろう。
「……本当は外れていて欲しいんですよ。ウータさんにとっては残念なことかもしれませんけど」
ステラが悲しそうに言う。
ウータの目的が女神マリンを倒すことであるとは知っているが……目の前にある幸福を絵に描いたような祭りの光景が崩れるところを、見たくはなかった。
「そうだね。僕もそう思うよ」
しかし、ウータから意外な答えが返ってきた。
「僕はわりと細かいことはどうでもいいし、顔も知らない他人がいくら死んでも気にならないタイプだけど……お祭りはやっぱり楽しいよ」
「ウータさん……」
「このお祭りを邪魔する人がいるなんて、無粋だよね。ちょっとムカついてきちゃうよ」
「そう、ですね……」
「よいしょっと」
ウータがベンチから立ち上がった。
先ほど買ったイカ焼きをパクリと口に入れて、モシャモシャと食べる。
「うん、美味しい。こんな美味しいご飯を出してくれる町は大事だね」
「……はい。大事だと思います」
この町を……目の前の光景を守ってみせる。
ウータとステラは頷き合って、目の前の人々の笑顔を守ることを誓った。
「よし、それじゃあグー姉さんのところに行こっか。もうそろそろ、舞が始まるんじゃない?」
「ええ……行きましょう。高台の櫓に」
ステラもウータに続いてベンチから立ち上がり、人波を掻き分けて町の高台へと向かっていった。
「おっと、ごめんよ」
「キャッ……」
しかし、そんな時に一人の男性がステラにぶつかってきた。
男性は謝罪の言葉だけを残して、そのまま人混みに消えていくが……直後、ウータの姿も忽然と消える。
「え、ウータさん?」
「あ、ごめんごめん」
ウータはすぐに戻ってきた。
転移を使用して、ステラの前に現れる。
「さっきの人、スリだったみたい。ステラのお財布が取られちゃったから取り返してきたよ」
「あ、どうもすみません」
ウータが財布を渡してくれるが……その財布には細かい塵が付着していた。
「……ウータさん?」
「ああ、ごめんねー。ちょっと汚れちゃったみたいだね」
「そう……ですね……」
ステラが顔を引きつらせて、財布についた塵を手で払う。
財布を盗っていったスリがどうなったのか……あまり考えたくないことである。
先ほど、町を守りたいといったような会話をしていたが……忘れてはいけない。やっぱり、ウータは邪神なのだ。
気に入らない相手には少しも容赦がなかった。
その後、ウータとステラは二人並んで高台の方へと歩いていった。
高台に設置された櫓で行われる舞の奉納を見るため、道はすっかり人で溢れかえっている。
仕方がなしに、ウータの転移を使って櫓が見える位置にある建物の屋根まで移動した。
「そろそろですね……」
「うん、そうだね」
屋根から櫓を見つめるウータとステラ。
やがて時間になったのか、櫓の上にグラスが現れる。
踊り子のような薄手の衣装を身に着けたグラスの表情は憂いに染まっており、それが不思議な美しさを湛えていた。
櫓の周りにいる楽団が楽器を奏でる。
リュートによく似た楽器が軽やかな音を奏でて、太鼓が重低音を鳴らし、その音楽に合わせてグラスが舞を踊る。
「綺麗……」
「モシャモシャ……」
ステラがグラスに見蕩れる中、ウータは黙々と水飴のようなお菓子を食べていた。
やがて舞が終わると……人々から歓声が上がった。
「あ……」
しかし、歓声はやがて動揺のざわめきが生じる。
町の真上に突如として虹色の光が生じたかと思うや、それが帯状に広がってドームとなり、フィッシュブルクの町を覆い尽くしたのだ。
「なんだ、なんだ!?」
「何が起こっている!?」
「これも祭りの余興か?」
「……始まったみたいだねえ」
人々が混乱している中、ウータが水飴を飲み込んだ。
その視線はすでにグラスがいる櫓には向けられていない。
明後日の方角……海の方向を向いていた。
「ああ……!」
ウータの視線を追って、ステラが悲鳴のような声を上げる。
起こってしまった。
古文書は正しかったのだ。
遅れて、町の人々も異変に気がつく。
「おい、海を見ろ!」
「津波だ!」
「津波が押し寄せてくるぞ!」
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