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61.チクチクドーンだよ

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 マーマンの少年に連れていかれたのは、海辺にある倉庫だった。
 船を使って運ぶための輸出品、他国から仕入れた輸入品を一時的に保存しておくための倉庫である。
 この町の沿岸部にはこういった倉庫がいくつも並んでいた。

「ここで友達が魔物に襲われているのかな? 魔物がいるっぽいところじゃないけど?」

「ええ……でも間違いないですよ。ほらほら、入ってください」

「フーン? 別に良いけどねー」

 ウータは首を傾げて、少年が開いた倉庫の中へと入った。
 倉庫の内部は何故か窓が塞がれており、真っ暗で先も見通せない。

「うーん? 暗くて何にも見えないけど……わっ!」

 そして、ウータが倉庫に入ったタイミングで少年が扉を閉めてしまう。
 途端に倉庫の中が完全な暗闇になって、視界を封じられてしまった。

「ちょっとちょっと、どうして閉めちゃうの……」

「今だ! 殺れ!」

「「「「「オオッ!」」」」」

「え?」

 暗闇の中、ウータに向けて四方八方から殺意が降りそそぐ。
 風切り音が響き、ウータの身体に次々と衝撃が突き刺さる。

「痛いっ!」

「ダメ押しだ! 潰せえ!」

「フギャアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ふぎゃ……」

 野太い鳴き声が響いて、ドシドシと足音を鳴らして何かがウータの身体の上にのしかかる。ウータが短い悲鳴を上げる。
 ズシンと小さく地鳴りがして、ブシャリと水音が響いた。

「よっしゃあ! 殺ったぜえ!」

「陸のガキが調子に乗るからじゃあ!」

 窓が開けられ、暗闇の中に光が差し込んだ。
 明るく照らされた倉庫にあったのは無数の銛に貫かれ、巨大山椒魚に踏み潰されたウータの姿。
 そして、それを取り囲んで大喜びで喝采を上げている異形の人間達だった。
 彼らを言い表すのであれば、二本足の魚だろう。
 この町に暮らしているマーマン達が『魚っぽい人間』だとすれば、彼らは『人っぽい魚』。
 人というよりもモンスターやクリーチャーと呼んだ方が正確な、奇怪な生き物である。

「所詮は陸でしか生きられぬ下等な生き物よ! 我ら海の民の敵ではないわ!」

「エラ呼吸もできぬ劣等種が我らの使者を討ったのだ。当然の報いである!」

 ウータを囲んでいる半魚人は十人ほど。
 いずれも醜悪な顔を歪めて、ゲラゲラと笑っている。

「ほれえ、お前もどきいやあ」

「フギャアアアアアアアアアアアアアア」

 巨大山椒魚……シーリザードがウータの身体から退くと、血だまりが床に広がった。
 その身体には、暗闇の中で半魚人達が投げつけた銛が何本も突き刺さっている。
 おまけにシーリザードの巨体で押しつぶされて、地面に広がるシミのようになっていた。

「フンッ! 雑魚は死にざますらもみっともないものよなあ! ギャハハハハハハッ!」

「な、なあなあ! 俺はちゃんとコイツを誘導したぜ! 約束通りに褒美をくれよ!」

 半魚人の一人に、ウータをここまで連れてきた少年が駆け寄った。

「ほら、ちゃんとコイツを連れてきたぜ! 役に立っただろ!?」

「んー、ああ、良いじゃろう」

 半魚人が少年に大粒の真珠を渡した。
 少年はキラキラとした目で真珠を見つめ、「やったあ!」と喝采の声を上げる。

「これで妹に美味いもんを食わせてやれるぜ! へへっ、人間を嵌めただけでラッキー!」

「ほれ、用が済んだら、さっさと消えろや。半端者のガキ」

「わかったよ。それじゃあな」

 少年が真珠を握りしめて、倉庫から駆け出そうとする。

「あーあ、痛いなあ。何だよ急に……」

「ヒエッ!?」

 しかし、その直後……銛に貫かれ、シーリザードに潰されていたはずのウータが起き上がった。
 流れ出た血液などの体液が戻っていき、潰された身体が膨らむ。突き刺さったままの銛がポロポロと落ちる。

「友達が怪物に捕まったって聞いたけど……どれが怪物でどれが友達? 全部、化物にしか見えないんだけどね?」

 傷一つなく再生したウータが、半魚人とシーリザードを前に不思議そうに首を傾げたのである。

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