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50.水の国に来たよ

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 晴天の空。青い空には白い雲が悠然と泳いでおり、ちっぽけな人間を見下ろしている。
 国境を越えてさらに西に進んでいくと、そこには大海原が広がっていた。

「おお……海だ!」

「海ですね、ウータさん」

 世界を支配している六大神と戦うことを決めたウータはステラを引きつれて、ファーブニル王国の西にある『ウォーターランド王国』にやってきた。
 魔法都市オールデンからはかなり距離があったが、賢者である朽葉由紀奈が開発した『どこだかゲート』というマジックアイテムによって、わずか数日でやって来ることができた。

 丘の上に立ったウータとステラの視線の先には青々と輝く海が何処までも広がっており、燦々と照る太陽の光を反射して宝石のように輝いている。

「青い海。白い砂浜。灼熱の太陽……うんうん、海水浴日和だね」

「海水浴……ですか? ウータさんの故郷には変わった文化があるんですね?」

 ウータの言葉にステラが首を傾げた。
 成り行きでウータに同行することになった少女が、不思議そうにウータの顔を覗き込む。

「この世界にはないのかな? 夏とかに冷たい海に飛び込むとすっごく気持ち良いよ」

 ウータは日本での記憶を思い出す。
 幼馴染の四人と一緒に、毎年のように夏休みに海に行っていた。
 千花の親戚が海辺で民宿をやっていて、そこに泊まらせてもらったのだ。
 中学に上がった頃から女子がナンパをされるようになってしまい、強引なナンパ男を追い払うのに苦労したのも良い思い出である。

「思い出すなあ……ナンパ男を追い払ってくれた友達のサメ吉。元気にしてるかなあ……」

「……何故でしょう、意味はわかりませんけどすごく不穏な言葉が聞こえた気がします」

「大丈夫だよ。一人か二人だったら食べちゃっても事故で済むから」

「やっぱり大変なことしてますよね!? サメ吉ってシャークのことですよね!?」

 ナンパ男に何をしたというのだ、サメ吉。
 ウータの交友関係が激しく気になるステラであった。

「うーん……せっかく海に来たんだから、ちょっと泳ぎたいなあ。泳いできても良いかな?」

「泳ぐ、ですか? 海で?」

 ウータに上目遣いで訊ねられて、ステラが困ったように眉を寄せた。

「私は別に構いませんけど……普通の人はそんなことはしませんよ。海は危ないですからね」

「危ない? 危ないって何が?」

「アレですよ、ほら」

「へ……?」

 ステラが沖の方を指差した。
 そこにはちょうど漁をしているとおぼしき船が通りかかるところだったのだが……突如として海面から無数の触腕が出てきて、船に襲いかかる。

「わあ、何だあれ?」

「海は魔物の巣窟なんですよ。浅瀬でも危険な怪物が出ることがありますし……この世界には海で遊ぶ人なんていませんよ」

「タコかな、アレは。サメ吉よりも大きいなあ」

 ウータが暢気に言う。

 海中に隠れた怪物は吸盤のような足で船にしがみつき、そのまま水の中に引きずり込もうとしている。
 あわやの危機。このままでは、船も乗っている人間も海の藻屑となってしまうことだろう。

「お? 何か出たよ」

 しかし、海の中から別の何かが出現した。
 人間サイズの『何か』が次々と出てきて、剣や槍で怪物の触腕を攻撃する。
 海中でも熾烈な戦いが行われているようだ。怪物が苦しそうに吸盤付きの足で海面を叩き、水中に消えていった。

「ああ、アレが水の女神マリンによって生み出されたとされる種族……『マーマン』ですね」

「まーまん?」

 ステラの説明を受けて、ウータがしげしげと『それ』を観察する。
 海から出てきて船を助けたのは人間とよく似た生き物。
 青っぽい肌で、耳にエラ、掌に水かきを付けた人型の生物。
『半魚人』というほど魚っぽくはない。8:2の割合で人間と魚を混ぜたような魚人だ。

「海を住処として、海中に都を築いている種族……マーマン。ウォーターランド王国はマーマンが住む国なんですよ」

「へえ……そうなんだ。すごいねえ」

「ちなみに……これは旅の道中で何度か説明しましたからね? 絶対に聞いてなかったですよね?」

「うんうん、お魚っておいしいよね。久しぶりにお刺身が食べたくなってきたよ」

「…………」

 ウータの相変わらずなマイペースっぷりに、ステラはこの旅で何度目になるかわからない溜息を吐くのであった。
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