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14.山賊をしばくよ
しおりを挟む森に入り、木の枝葉をかき分けて進んでいく。
最初こそ、山勘に近い感覚で森に入って来たわけだが……森を進むにつれて、足跡などの痕跡が見つかってくる。
森の入口付近ではアジトがバレないように痕跡を消していたのだろうが、奥に入るにつれて油断してしまったのだろう。
「この奥にイリーア様が……!」
メアリが足を急がせ、盗賊の足取りを追う。
ウータもつられて早足になり、森を進んでいった。
「お、アレかな?」
「…………!」
森をさらに奥に進むと、拓けた場所に出た。
そこにはいくつものテントが設置されており、十数人の男達が酒盛りをしている。
「ギャハハハハッ! 今日も収穫だなあ!」
「所詮は平和ボケした国だな。護衛も雑魚ばっかりだし、襲いやすくて仕方がねえな!」
男達はいずれも屈強な体格をしており、顔には刺青を入れている。
「あれはザガ族の連中だな……」
少し離れた木の陰に隠れて、メアリが言う。
「ザガ族?」
「北方の国にいる傭兵部族だ。腕は確かだが粗暴な連中で、敵から略奪して生きているハイエナだよ」
「へえ、そんなのがいるんだね」
どうやら、賊は北から流れてきたようだ。
いったい、どのような経緯があってここまでやってきたのかは気になるところだが。
「イリーア様はいないな……おそらく、あのテントのどこかに囚われているのだろう……」
「それじゃあ、行ってこようかな」
「待て、私も行くぞ。一人で行かないでくれ」
メアリが剣を抜く。
それは襲撃によって斃れた同僚の遺品である。
「敵は見えているだけで十五人……かなり厳しいが、イリーア様のためならば命は惜しくない。絶対に助けてみせる……!」
「…………」
決意を胸に剣の柄を握りしめるメアリであったが……正直、足手纏いだから引っ込んでいてもらいたい。
いくら数が多くても、それだけではウータの敵ではない。
懸念事項はメアリが足を引っ張ることだけなのだ。
「まあ、別に良いけどね。死なないように気をつけてねー」
「わかっている……イリーア様、絶対にお助けします……!」
メアリが木の陰から飛び出した。ウータもすぐに後を追う。
「死ねええええええええええええっ!」
「なっ……!?」
「敵か!?」
飛び出したメアリが不意打ちで盗賊を斬る。
一人、二人と討ち取ることに成功するが、すぐに盗賊が武器を手に反撃してくる。
「このっ……クソアマが!」
「よくもやりやがったな!」
「くっ……!」
途端に不利になるメアリであったが、ウータが動く。
「まったく……イノシシみたいだなあ」
「なっ……!」
ウータが盗賊に順番にタッチしていく。
途端、盗賊の身体が塵となって地面に散らばっていった。
「何だ、このガキは!?」
「おかしな魔術を使いやがるぞ! 絶対に身体にさわられ……」
「はいはい、ボディーターチ」
「ぐあっ……」
警戒している敵には後ろに転移して、無防備な背中にタッチする。
「下がれ、テメエら! そいつは俺がやる!」
「お?」
「我が身に宿れ……炎の精霊『イフリート』!」
盗賊の一人が叫ぶと、その全身が燃えさかる炎に包まれる。
服が燃えカスとなり、刺青が入った肌が真っ赤に赤熱していった。
「魔法かな?」
「炎の精霊と一体になったこの身に触れようものなら、一瞬で灰になるだろう! 触れるものなら、触ってみよ!」
炎の化身となった盗賊が吠えて、地面を蹴った。
「同胞の仇……燃えカスとなれえええええええええっ!」
炎を身にまとった盗賊がウータめがけて襲いかかってきた。
とんでもない熱量が迫ってくる。
その身体に触れようものなら、数秒とかからずに燃えカスになってしまうことだろう。
「熱いのはヤダなー。僕はどちらかというと冬派なんだよ」
食べ物が美味しいから……そうつぶやいて、ウータがトンッと軽く地面をつま先で叩く。
「なっ……!」
すると、盗賊の足元が消失した。
地面があったはずの場所に大穴が開いて、抵抗も許さずに炎をまとった盗賊が落下する。
「ぐっ……この程度で……!」
五メートルほど落下して、身体を打ちつける盗賊であったが……ウータの攻撃はまだ終わってはいない。
「それじゃあ、さようなら」
軽い別れの言葉と同時に、頭上から巨大な土の塊が落ちてきた。
それはウータが転移させた地面である。
ウータは足元の土を空中に転移させて落とし穴を作り、時間差で転移させた土が落下してきたの。
「あぎゅ……」
男が落ちてきた土に押し潰されて、そのまま生き埋めとなる。
「そんな……!」
「ギャザークさんが……!」
どうやら、その男は盗賊の中では一目置かれる存在だったようだ。
途端に盗賊達が逃げ回り、その場から逃れようとする。
「仲間の仇だ!」
逃げまどう盗賊達をメアリが追いかけて、背中から斬りつける。
撃ち漏らした敵を、ウータが転移して塵にする。
わりと地獄絵図な光景であったが……ほとんどの盗賊がやられたところで、状況に大きな変化が起こった。
「テメエら、動くんじゃねえ!」
「なっ……!」
「動いたら、このガキの命はねえぞ!」
テントから盗賊の一人が出てくる。
出てきた盗賊は銀髪の少女を羽交い絞めにしており、手に持ったナイフが彼女に突き付けられていた。
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